第11話 決死の着陸
すみません、時差と言語の違いが考慮されてませんでしたので、1話から4話の該当部分を修正しました。
「はい、バラ空港」
「こちらは首相補佐官のウィッカムだ」
「しゅしゅ・・・なんだって?」
「首相補佐官!文字通りイギリス首相の職務全般の補佐を務める者だ」
「首相の?・・・はあ、その方が何の用ですかい?」
「お前の姓名は?」
「ロジャー・メイスンですが」
「メイスン、今から、そこにアメリカ合衆国の国務長官を乗せた飛行機が来るので、優先的に着陸許可を出すように」
「はあ?・・・そんなお偉いさんが、なんでまたこんな田舎に来なさるんで?」
「本土はモンスターが暴れまわってて危険だからだ」
「ああ、なるほど。そのせいで、定期便はすべて欠航になったんで、いつ来ても構いませんぜ」
「そうか。それは好都合だ。相手はアメリカ政府の高官だ、くれぐれも失礼のないようにな」
「あ・・・はい」
「では、よろしく頼む」
電話は切れた。
「えっ!?ちょっと、それだけ?・・・」
「なんだって?」
となりに立っていたニックが聞いた。
「アメリカから政府のお偉いさんがここに来るんだとよ」
「はあ?なんでこんなとこに?」
「本土は、あの怪物どもがうじゃうじゃいて危険だからだとさ」
「あ~・・・そろそろ着くのか?」
ニックは、双眼鏡を取って外に向けた。場所は、この施設の中では一番高い場所にあるガラス貼りの管制室だった。
「え~と・・・・・お?あれか?」
「もう見えるのか?」
「ああ…ちょっと待て!ジェット機じゃねえかあれ?(注1)」
「なんだって?貸せ!」
ロジャーはニックから双眼鏡を取り上げて覗き込んだ。
「・・・・・あれか!・・・ホントだ!しかも、そこそこデカそうだぞ!」
「・・・知~らね」
「まあ、死ぬことはないだろ」
「見えて来たぞ」
「あれか?低いけど、確かに管制塔があるな。でも、ホントにただのビーチだな」
「とにかく連絡しよう・・・・・こちらアメリカ国務長官搭乗機。バラ空港、応答せよ」
「はい、こちらバラ空港。先ほど首相の関係者から電話があって話は聞いている。機種を教えてくれ」
「ガルフストリームG550だ」
「え?なんだそれ?・・・ちょっと待ってくれ・・・ガルフストリームG550ってどんなんだ?」
通信を受けたロジャーは、一旦マイクを切ってニックに聞いた。
「え~?ちょっと待てよ・・・・・あった!・・・おい!全長が30メートルもあるぞ!」
「なに~!?・・・もう知らん」
ロジャーは、マイクをオンにした。
「3番滑走路に降りてくれ」
「了解した」
「3番ね・・・とりあえず、一回航過して確認するか」
「ああ・・・着陸態勢に入るのでシートベルトを締めてください!」
パイロットの一人が、客室に向かって大声で言った。客室との間に仕切りはなかった。
「わかった」
SPがそう返事をして、国務長官を含めた4人はシートベルトを締めた。
ガルフストリームは、バラ空港に向かって高度を下げて行った。
「え~と、3番ね、3番・・・・・って、どれだよ!一面ただの砂浜じゃねーか!」
すぐに、通信機のスイッチを入れた。
「管制室、管制室。3番滑走路が視認できない!目印はなんだ?」
「あー、そうか初めてだったな。建物の方から侵入して、建物の左はじから海に向かって降りてくれ」
「え、あ、はあああ?海に突っ込んじまうじゃないか!」
「少し水に入るかもしれんが距離的にはギリギリ大丈夫なはずだ」
「ギリギリってなんだよ!」
「いいから、それが一番安全だ」
「ホントかよ?」
「健闘を祈る」
「ちょっ、おま・・・」
それっきり応答がなくなった。
「仕方ない。言われたとおりにやるしかないだろ」
「・・・そうだな」
機長のパイロットが操縦桿を操作し、言われたとおりに大きく旋回して建物の後方から海に向かって降りて行った。
「なるべくギリギリにギリギリに・・・・・・って、すぐ海じゃねーか!無理無理無理!」
機長は、操縦桿を引いて上昇した。
「うわぉ!」
客室の4人は、体を大きく揺さぶられた。
「おい!なにやってる!」
SPがコクピットに向かって怒鳴った。
「すみません。もう一度やり直します」
「やり直すって、ここはビーチだぞ!ここに降りるのか!?」
国務長官が怒鳴った。
「はい。イギリスの首相が指定してきたのはここで、一応、これでも空港なんです」
「なにぃ?・・・テイラーの野郎・・・」
「着地したあと少し揺れるかもしれませんから、しっかりシートにつかまっていてください」
「わかった」
SPが答えて、4人はシートの両側のアームレストをしっかりつかんだ。
「もう構わないから、砂浜を横切る方向に降りようぜ。その方が砂浜の距離がありそうだ」
「ああ、それが良さそうだな」
機長は、操縦桿を右に倒し右に大きく旋回した。
「ああ、やり直しだ」
管制室のニックがつぶやいた。
「初めてじゃ難しいだろうが、ビビッてやめたように見えたな」
「割と根性無しだな(笑)。でもよう、大きさより重さがヤバいんじゃねーか?」
「ああ、そうだな。ある意味、今後の参考になるからしっかり見てようぜ」
「そうだな(笑)」
二人は、機体が右に旋回して行く様子を目で追った。
「なんだか、旋回方向が違わねえか?」
「あれ?・・・・・おい!1番に向かって下りてくるぞ!」
ロジャーは、すぐにマイクのスイッチを入れた。
「そっちからの侵入は危険だ!やめろ!」
「うるさい!どっちからでも危険じゃねーか!」
機長が反応した。
「より危険なんだ!やめろって!」
「なめんな!黙って見てろ!」
「おいっ!」
機長は、それから言葉を発せず操縦に集中した。
「今度こそギリギリ、ギリギリ・・・・よしっ!」
着地すると同時に、もう一人のパイロットがスラストリバーサーのスイッチを入れてブレーキをかけた。
ゴオオーーーー!
物凄い轟音と共に機体が減速し始めた。
「止まれ止まれ止まれ・・・」
機長は、操縦桿をしっかりつかんだまま念仏のようにつぶやき続けた。
「これはいけるかも!」
もう一人のパイロットが言った。
「なんかいつもより減速が早いな?」
「きっと、下が砂だから車輪が少しもぐりこんでブレーキになってるんだよ!」
「そういうことか!」
そう安心したところで機体が急に揺れ出した。
「なんだなんだ?」
「ああっ!砂浜がうねってデコボコしてる!」
次の瞬間、前脚が折れて機首が砂浜に突っ込み、そのまましばらく滑って行った。
「うわあぁぁ!」
「ぐうぅぅ!」
後ろ向きに座っていた運転手は体をシートに押しつけられただけで済んだが、他の3人はシートベルトが腹に食い込んでうめき声を上げた。
「あーあ、言わんこっちゃない」
「人の忠告は聞くもんだよ」
管制塔の二人はあきれ顔でその様子を眺めていた。
機体はなんとか、陸地に乗り上げる手前で止まった。
「ふう・・・あっ!」
機長は、シートベルトをはずすと、客室へ飛んで行った。
「大丈夫ですか!」
「なにをやっとるんだ!」
国務長官は、完全にマジギレしていた。
「死ぬかと思ったぞ!」
「すみません!砂浜が想定外にデコボコだったもので」
「それをちゃんとするのがお前たちの役目だろうが!」
「すみません、すみません!」
もう一人のパイロットも来て、一緒に頭を下げた。
その数時間後、大統領たちが乗った機体は目的地のハワイに近付いていた。
「まもなくハワイへ到着します!」
パイロットからの放送が機内に流れた。
それを聞きつけたのか、隣の部屋からハーデスとミノスが大統領たちがいる部屋に入って来た。入れ替わりにブルカが出て行こうとしたがミノスが制止した。
「この二人を縛り上げて口をふさげ」
ミノスはそう言うと、手に持っていた二組ずつのロープとタオルをブルカに渡した。
「はい」
ブルカは、まず、二人を後ろ手に縛ってからロープの先で足首を縛り、手と足が密着している状態にして床に転がした。
「なぜ急にこんなことをするんだ!」
大統領が床に転がったまま文句を言った。
「いいから、黙って見ていろ」
ミノスは、壁のインターホンのところへ移動した。
その頃、コクピットでは、機長のパイロットがハワイの空港の管制官と交信していた。
「こちらエアフォースワン!予定通り到着した。大統領と主席補佐官が同乗している」
「了解した。ところで、後方に予定にないC-5輸送機が2機見えるが、それも同伴機か?」
「なに?・・・確認するから少し待ってくれ」
「おい、聞いてるか?」
機長は副操縦士に聞いた。
「いや、知らない」
「そうか。大統領に確認しよう」
機長はインターホンのスイッチを入れた。
「こちら機長。後方にC-5輸送機が2機いるそうですが、これもここに降りるということで良いのでしょうか?」
「ああ、そうだ。機内には負傷兵が収容されている。ハワイで治療してもらうために連れて来た」
ミノスが答えた。
(あれは大統領の声!驚くほどそっくりじゃないか!)
首席補佐官は、その声を聞いて驚愕した。大統領もそれがわかったらしく、驚いた顔をしていた。
「了解しました」
機長はそれだけ答えた。
「驚いたか?私やハーデス様を含めて、一部の魔族は体の組織を変化させることが出来る。声帯を変化させてお前たちと同じ声を作りだすことなど簡単なことだ」
「うー、うー」
大統領は、もがきながら何か言おうとしたが、口をタオルでふさがれていて何を言ってるかわからなかった。
「そこのモニタに機外の様子が映っている。これからどうなるか、そこで大人しく見ていろ」
ミノスは、不敵な笑みを浮かべた。その間ハーデスは、冷たいまなざしでずっと大統領を見ていた。
バラ空港で運航されている機体は、通常、ターボプロップ・プロペラ双発機のボンバルディアDHC-6のみです(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%93%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80_DHC-6)。全長はガルフストリームの半分ほどで、320メートルの滑走距離で着陸できると聞いたら、ガルフストリームでバラ空港に着陸するのがいかに無茶かわかりますよね(笑)。




