第10話 連続臨時ニュース
「海が見えて来たぞ」
アメリカ合衆国本土の西端に近づいたところで首席補佐官がブルカに言った。
「お!そうか!?」
ブルカは、読んでいた本を置いて体を後方にひねると、顔の右側を窓にくっつけて前方を見た。
「お~、あの青いのがそうか!広いな~!向こうが見えないぞ!」
ブルカは、ウキウキした様子で、海岸線付近を目で追った。
「おお、海の上に出た!ホントに広いな~・・・あ、陸地はこの高さからだとこんな風に見えるのか~。面白れーな~」
東側を振り返ってそんな感想も漏らした。
「大統領、ここは・・・」
その様子を見て、ブルカからは大統領の陰になる首席補佐官が小声で大統領に話しかけようとしたが、
「しゃべるな。俺たちの耳は人間の数十倍優れてるからどんな小さな声でも聞こえるぞ」
と、ブルカが右手の人差し指を大統領の方に向けながら言った。
大統領は、ブルカが海に視線を戻した後、大きなため息をついて目をつむった。
この時、2機の巨大なC-5輸送機が現れてこの機体の後ろを並んで飛び始めたが、パイロットと大統領たちはそのことに気付いていなかった。
首相のテイラーは、短時間でイギリス全土の軍事機能がマヒしたことにショックを受け、首相官邸の執務室で呆然としていたが、アメリカからのホットラインの電話が鳴ったため、びっくりして上体を起こした。すぐに、そばの席に控えていた首相補佐官がサイドテーブルの受話器を取った。
「はい、首相執務室・・・はい・・・はい・・・今代わります」
首相補佐官は、保留にして受話器を置くと、
「アメリカの国務長官からです」
と、首相に言った。
「は?今頃何の用だ?」
首相は自分の机の上にある受話器を取った。
「テイラーだ。どうした?」
「モンスターから逃れて、アメリカから飛んで来た。保護してくれ」
「飛んで来たって飛行機でか?」
「そうだ。ガルフストリームだ」
「・・・残念だったな。先ほど我が国もモンスターにやられて、空軍基地はすべて壊滅状態だ」
「なんだって!?」
「民間空港も乗客がパニックに陥って混乱状態だし、いつモンスターに襲われるかわからないから着陸するのは危険だ」
「ウソだろ?・・・どこか、安全なところはないのか?」
「辺境のどこかなら大丈夫かもしれんな。ちょっと待て」
テイラーは電話を保留にした。
「おい、どこか辺境で安全に着陸できるところはないか?」
「辺境で安全なところですか・・・あ!一つあります!」
「じゃあ、教えてやってくれ」
「はい」
補佐官は受話器を取った。
「代わりました。スコットランドの西北端にアウター・ヘブリディーズ諸島というのがあり、その南端のバラ島にバラ空港というのがありますが、そこなら近くに軍事施設は無いし50キロ以内にほかの空港はありませんから大丈夫かと思います。座標を送ります」
「おお、そうかすまないな」
国務長官がそう答えた途端、手に持っていたホットライン用衛星通信電話の受話器の液晶画面に座標が表示された。
「確認した。ありがとう」
「とんでもございません。それではお気をつけて」
電話は切れた。
「おい、バラ空港って、あのバラ空港だよな?」
首相が聞いた。
「はい、そのバラ空港です」
「降りられるのか?」
「ガルフストリームの着陸距離は850メートルほどですから大丈夫だと思います」
「ほう、そんなに短いのか・・・ん?離陸は?」
「1.8キロ必要なんで無理ですね」
「ええ~?・・・まあ、危険なところに降りるよりはいいか・・・」
「そう思います。一見、空港に見えませんから、そう言う意味でもモンスターに襲われる心配がないです。それに、安全になったあとにそこから移動する場合は、バラ空港に来る定期便を使えばいいことですし」
「なるほどな・・・バラ空港に緊急着陸の受け入れと、失礼がないようにしろと連絡を入れておいてくれ」
「わかりました」
首相補佐官は、すぐに通常回線の電話の受話器を取った。
「おい、この座標をパイロットに見せに行ってくれ」
国務長官は、受話器をSPに差し出した。
「はっ!」
SPは、それを受け取るとコクピットに向かった。
「おい、着陸場所をイギリス首相から指定された。ここだ」
SPは、手に持った受話器をパイロットに見せた。
「はい」
パイロットは、その座標をコクピットの計器に入力した。
「じゃあ、頼んだぞ」
「わかりました」
SPは、コクピットを出て行った。
「え?バラ空港・・・どこかで聞いたような?」
パイロットの一人が、表示された目的地を見て呟いた。
「知ってるのか?」
「ああ、聞いたことがある気が・・・ああっ!滑走路が砂浜の空港だ!」
「はあ?・・・わははははは!バカ言ってんじゃねー、そんな空港あるかよ!」
「ホントにあるんだよ!」
「だってお前、満潮と干潮で滑走路の長さが変わるじゃねーか!」
「満潮時には観光客が潮干狩りしてるらしい」
「わはははは!なんだそれ!もっと上手なウソをつけよ」
「ホントだっての!スマホで調べてみろよ」
「わかったわかった」
言われてスマホをポケットから出して調べ始めたが、すぐに驚きの表情に変わった。
「ホントだ!観光客が潮干狩りしてるってのもホントだ!」
「だろ?」
「降りられるのか?」
「この機体は着陸距離が短いから多分大丈夫だ」
「おい、一番長い滑走路で846メートルって書いてあるぞ。この機体の着陸距離は?」
「メートルに直すとカタログ値で844メートルだな」
「ひいぃ!ギリギリじゃねーか!ちょっと進入に失敗したら終わりだぞ!」
「う~む」
「・・・まあ、行ってみるしかないか」
「ああ・・・」
二人とも、すっかり暗い気分になっていた。
「おい!美麗はいるか!」
美麗たちが談笑している休憩室に、山城が血相を変えて飛び込んで来た。
「なに?」
「お、いた!もう一回臨時ニュースだ!」
「はあ?さっき上がっていいって言ったじゃない!」
「状況が変わった!前田から連絡があったんだが、アメリカのホワイトハウス付近にミサイルが撃ち込まれてキノコ雲が上がったらしい!」
「なんですって!」
この言葉には、里美と智子も引きつった表情になった。
「だから頼む」
「しょうがないわね」
二人は休憩室を出てスタジオに直行したが、原稿はその途中で渡され、美麗は歩きながら斜め読みした。
臨時ニュースは、先ほどと同じような手順で、前田が現地で取得した録画映像を流し、それについて美麗と受け答えするというものだった。
「じゃあ、今度こそ上がるわよ」
事務所に戻って来たところで美麗が言った。
「いや、もう少し待ってくれ。まだ、何かありそうな気がするんだよな」
「ええっ?もう非番じゃなくなっちゃってるじゃないの!」
「悪い悪い。じゃあ、好きなスイーツおごるからさ」
「ホント!・・・じゃあ、里美と智子の分もね」
「チッ!しょうがねえなあ。わかったよ!」
「じゃあ、私、隣のカフェで買ってきます!」
会話が聞こえていたらしく、自席に戻っていた智子が立ち上がって言った。里美も戻っていた。
「よろしく~」
「やっぱりここの最高ね~」
「ホントですよね~」
「あんたのも美味しそうね。ちょっとちょうだい」
「あ、こらっ!」
美麗たち三人は、事務所の隅にある衝立だけのミーティングコーナーで、美味しそうにスイーツを食べていた。
そこに山城が飛び込んで来た。
「おい美麗!・・・あれ?どこだ?また休憩室か?」
「ここよ!」
美麗は、衝立の陰から顔を出して手を上げた。
「ああ、そこか」
山城が速足でやってきた。
「なに~?また臨時ニュース~?」
美麗が嫌そうな顔で聞いた。
「ああ、そうだ!今度はイギリスにモンスターたちが現れた!」
「あらあ、早かったわねえ」
「なんだ、驚かないのか?」
「だって、ミノスっていうモンスターがヨーロッパにも行くって言ってたじゃない」
「それが、海を渡ったわけじゃなく、アメリカの時と同じように、突然、国内の各地に現れたんだ」
「ええっ?」
里美と智子も驚きの表情を浮かべた。
「今度は驚くんだな?」
「そりゃ驚くわよ!冥界がそれだけ広かったってことじゃないの!」
「そういうことだ。だから頼む」
「わかったわよ」
美麗は立ち上がろうとしたが、スイーツが残ってるのに気づき、座り直して食べ始めた。
「なにやってる!早くしろ!」
「スイーツは急に止まらない」
「何言ってんだ!・・・くそっ!」
山城は、美麗からフォークを取り上げると、美麗が食べてるスイーツに刺して持ち上げ、自分の口に放り込んだ。
「ああっ!人のものを!」
「はあひふほ」
山城は、スタジオへのドアへ向かった。
「もうっ!」
美麗は、それを追って行った。
美麗は、スタジオに入ってもブーブー言っていたが、山城がもう一つスイーツを買ってやると言ってなだめた。
今度の臨時ニュースは、イギリスの現地特派員との会話だったが、モンスターの映像は無く、破壊されつくした空軍基地に特派員本人がカメラマンとともに侵入し、機体と車両の残骸や、損壊した建物を撮影したものだった。
しかし、逆に破壊のすさまじさが伝わって来て、お茶の間に与えた衝撃は、最初の臨時ニュースに匹敵するものだった。
「今度こそ、本当に上がらせてもらうわよ!」
「ああ。遅くまで悪かったな。でも、明日も何かあるかもしれんから早めに出て来てくれ」
「はあ?冗談でしょ!」
「お前もプロ根性見せてみろよ」
「なによそれ!・・・じゃあ、おいしいスイーツを用意しときなさいよね!さっき約束した分も含めて二つよ!」
「わかったよ」
それで美麗は、やっと納得して帰って行った。
今回のお話の中に書いた空港のことは、すべて事実で場所も実在します。気になる方は「バラ空港」でググってみてください。




