【第8話-優しい呪術師】
ルーフ達3人を退けた後、フリルは最初ゆっくり歩いていた。だが、途中から早歩きで闘技場の端から離れていっていた。
それは何故か…という問いに答えるように、フリルの後ろをしつこく追いかけて来る、一人の気配がそこにはあった。
「待って、ミザリーさん!」
「……あなた、さっき虐められて息を切らしていたばかりなのに、よく走れるね…。」
「だってまだ私、ミザリーさんに聞きたい事があるの!」
その言葉を聞いたフリルは「はぁ…」と嘆息をついていた。
(出来れば今は、あまり人とは関わりたくないのだけど…)
フリルの使う『呪術』は特殊で、相手を攻撃する類いのものを使うと傷が深く残り、治癒に時間がかかる。最悪の場合では完治しないこともあるのだ。
そのため、呪術は基本的に攻撃系統のものを人に使ってはならないのだ。
だから、フリルはルーフ達を"攻撃禁止"の呪いで止めたのだ。
そして、そんな状況で、出来れば人と戦いたくはないフリルは、無駄な戦いを避けるために急ぎ足でアリスから離れようとしていたのだ。
そんなフリルの無言の配慮を、さらっと無為に帰されたのだ。
全くもって迷惑だが、仕方がない。とフリルは自分に言い聞かせつつ、
「それで、わたしに聞きたいことって?」
と問いかける。
すると、すぐにアリスは質問した。
それは、わざわざ追いかけて聞きに来るほどの質問ではなかったが、確かに気になる質問だった。
「ミザリーさんは、どうして杖を持っていたのに投げ捨てて、無防備に素手でルーフ達に突っ込んでいったの?」
実にまともな疑問だ。アリスの言うように、杖があるなら杖で魔術を使えばいい。
確かに杖がなくとも魔術は使えるが、その場合、少し魔力が分散しやすくなり、制御が難しくなる。
フリルは、「確かに疑問だよね」と納得して、その質問に真面目に答えた。
「…魔術を使っても良かったのだけど、少し相手が多かったから呪術を使ったのよ……それに、わたしの呪術は、相手に手で触れないと呪いをかけられないの。」
「えぇ!そうだったの!?」とアリスは予想外の回答にひどく驚いていた。
フリルは、そんなアリスの様子も気にせずに続ける。
「逆に、相手に触れさえすれば、ほぼ私の勝ち。触れてから詠唱をすれば、大抵の呪いは相手にかけられるから」
「ちなみに」とフリルは言葉を続ける。
「これはこの話とは関係ないけど、私の呪術は、呪いに魔力を多く使えば使うほど効果時間も長くなるの」
実際は相手に触れること自体が難しいのだが、触れることさえ出来れば、詠唱をするだけで相手を手中に収める事ができる強力なものだ。
フリルは少し間を置くとアリスに向き直った。
「で、これで質問は終わり?もっと質問されるかと思ってたけど、案外少ないのね。」
「うん、色々とありがとうね!ミザリーさん!」
アリスが質問を終えると同時に大きな声が聞こえた。
"「全員攻撃やめ!これにて、午前の戦闘実習を終了する!!」"
ネロ先生の声だ。その言葉を聞いてアリスは自分が逃げ切れたという安心感でほっとため息をついた…。
「た、助かったぁぁぁ……」




