【第49話-『78番』】
着実に足を進め、農場へ近付いていく二人は、途中で気付いた事があった。
この農場は、屋内に作られていたのだ。
「一体なんで屋内に…」
「簡単な話だよ。恐らくは外部に見せたくないような光景なんだろう」
「なるほど、勝手に連れ去って、奴隷として扱っているなんて知られたらまずいですもんね」
「でも」とアリスが続ける。
「でも、そんな事をして当の本人達は抵抗しないんでしょうか?」
「それに関しては、強力な加護持ちがこの農場を管理しているか、もしくは…
──抗う事すら叶わないような、後ろ盾の強い権力者が運営しているか、といったところかな?」
ペラペラと説明をしてくれる大賢者のおかげで、大体の情報が理解できたアリスは、そのまま歩き、農場の入口まで辿り着いた。
──そこには、大きな開閉式の扉が立てかけられていた。
アリスは戸を開くことを一度躊躇ったが、ミロに一言だけ、
「ここで待ってて」
と言い終えると、意を決した顔で、その大きな扉をコンコンと叩き、そして力強くこじ開けた。
「うぐぐぐぐ、重いぃぃぃ」
ギィィという音がなり、ゆっくりと戸が開き、中の世界が少しずつ見えてくる。
するとその時、扉を完全に開き切るよりも先に前方から声が聞こえた。
「──誰だ、お前は」
アリスは、その呼びかけに慌てて戸を開き切り、そして相手に向き直る。
ここで余計な話を出しても逆効果だと思い、アリスは本題から切り出すことにした。
「フローティア学園生徒、アリス・ミラージュと申します。率直にお聞きしますが、この農場に『ツヴァイ』という名前の少女はいらっしゃいますか?」
その問いに、この農場の管理人らしき人間は、耳を小指でほじりながら思案する。
やがて思い出したように顔を上げた。
「あぁ、78番のことかな?あれなら、まだそこで働いているよ」
唐突な入場だったものだから少しは覚悟していたが、ひとまず、即座に争いになるような事態は避けられたらしい。心の中でアリスは安堵した。
その番号、『78番』が何を意味するのかは分からなかったが、管理人らしき人間はそれを察したように、今目の前で働かされている人達のうちの一人をサッと指さした。
そこには、灰色の髪を靡かせた、薄い緑の双眸を持つ少女がいた。
その少女にアリスは、間違いなく見覚えがあった。
「ツヴァイ……!」
アリスの目は一瞬で、再会の喜びに輝きを放ち始めたが、そんなアリスにツヴァイが気付くのは数秒先の話だった。
アリスは手を振り、必死にアピールする。
ツヴァイは手を振っているこちらに気付き、一瞬だけ目を合わせた。
そうして、こちらに手を振り返してくれる…そのはずだった。
──だが、ツヴァイはそのまま、すぐにアリスから視線を戻し、黙々と農作業を再開してしまった。
「えっ?」
アリスの困惑の声が、思わず口からこぼれ出る。
確かに少しの間だった。けれど、彼女は昨日一緒に遊んだ仲だ。そんなツヴァイが、アリスと目が合ってすぐに、視線を逸らしそっぽを向いてしまったのだ。
「っ……!どう、して!」
先ほどまで期待に胸を膨らませていたアリスの声はトーンが落ち、低く辺りに響く。
そんな中、アリスには目もくれず、黙々と農作業を進める少女にアリスは一言だけ小さく問いかけた。
「──ツヴァイ…どうして、こっちを見てくれないの!」




