【第42話-約束】
「お姉ちゃんたち、またね!今日はすっごく、楽しかったの!」
写真を撮り終えて、それぞれの帰路につき始めた頃、ツヴァイは片手にイルカのキーホルダーを握りしめて、こちらに手を振っていた。
彼女の表情はまだ笑っていたが、先ほどの無邪気な笑顔と比べれば少し暗かった。そんな彼女にかける言葉を迷いつつもアリスは別れの言葉を紡ぐ。
「うん、また遊ぼうねツヴァイちゃん!その時まで元気でね!」
それに続くように、後ろの二人も口を開いた。
「また会いましょうね!絶対ですよ!」
「次はまたソフトクリーム買ってあげますわ!」
もちろんこの場の全員が分かっている。
そんな言葉をかけたところで再会が叶わないことなど。それでも今日を共に過ごした少女に、少しでも明るく振る舞おうとしているのだ。
どうしたって、土魔術に適性があるという事実は変えようがないのだ。
そうして、最後には互いに手を振りながら、さよならを告げた。これでツヴァイとはお別れなのだ、誰もがそう思っていた。
「──お姉ちゃん、なんで泣いてるの?」
振っていた手を下ろし、明るい声でアリスを見つめる少女が、少しだけ別れを先延ばしにする。
「あれ、私泣いてた…?ごめんね、ツヴァイちゃんが農場でどんな事をさせられてるのか想像しちゃって、私、耐えられなかったみたい…」
「お姉ちゃん泣かないでなの!わたし頑張るの!」
「うん、そっか…そうだよね…じゃあ一つだけ質問、聞いてもいい?」
薄汚れた貧相な服を視界に入れながら、人差し指を立ててツヴァイに声をかける。
「農場での生活は、楽しい?」
それはアリスの率直な疑問だった。
そんな疑問に、案の定ツヴァイの表情は曇り始める。
「楽しくは…ないの。すこし大変でつらいの」
ツヴァイは少しだけ俯き、小さく首を横に振った。
幼い顔を歪ませながら、そう答えるツヴァイを見て、アリスの心の中で一つの決心が出来た。
「よし、決めた!私、ツヴァイちゃんを絶対助けてあげるからね!約束っ!」
自分でも思ってた以上に大きな声が出て、アリスを含む全員が驚いた顔をしていた。
「ほんとなの?じゃあ、わたしは待ってるの!またね!アリスお姉ちゃん!」
そんなツヴァイの後ろ姿を見送りながら、その可愛らしい笑顔にアリスは少しの間だけ、地面を転がり悶絶した。
* * *
一方その頃、フリルとメルトは、中級ダンジョンに潜っていた。
「はぁ、上級ダンジョンが閉鎖…いや、独占されているのは困るな…」
「本当にそう、やっぱり中級じゃつまらない」
つまらないと言いながら、サラッとダンジョンボスに手を触れて瞬殺するフリル。
呪術は、強力なものは人間には使えない。というデメリットはあるが、対魔物ではかなり強く出られる。
上級ダンジョンも、本来ならこの前のダンジョンのように、苦戦する相手ではない。
「相変わらず凄い呪術だね、フリル」
「はいはい、そんな事言ってないでメルトは疲れた私をちゃんと連れて帰って…ね」
コトッと音を立ててゆっくりその場に寝転がるフリル。
「おや、少し魔力を使いすぎたのか、強力な呪術はそれだけ魔力を使うからね」
「違うもん、ただ疲れただけ、魔力なんで有り余って……うぐ…」
「大丈夫だよ、ちゃんと連れて帰るから。ところで、男女二人きりの状況で身を委ねるのはあまり感心しないな、フリル」
「幼馴染なんだし、長い付き合いなんだから、そんな心配しなくてもいいでしょ?」
メルトは「あはは…」と苦笑いを浮かべながら背中にフリルを背負う。
「信頼されてるのは嬉しいけど、やっぱり君は少し人との距離感がおかしいよ…」
そんなメルトの肩をポコポコと叩くフリルに、彼は手を上げて降参した…。




