【第41話-思い出の一枚】
「おや、坊ちゃん久しぶりだねぇ。元気にしてたかい?」
「えぇ、元気ですよー!この通り元気ピンピンです!…あ、そうそう、今日はボクのお友だちを連れて来ました!」
会計をしにカウンターへ向かったハイディが会話を弾ませている相手は、店主のおばあさんだ。
顔にも深い皺が多く刻まれ、そこそこ歳はいってそうな雰囲気だ。
ハイディは、両手をくの字に曲げて、アリスたちをライトアップした。
「あ、あはは…初めまして…」
急にハイディから会話を投げられて、アリスは思わず愛想笑いでその場を済ませた。
「初めましてねぇ、お嬢さんたちは、坊ちゃんの彼女さんかしら?」
「──あの、ばあさん…それってボクが三股…あぁ、いやツヴァイは年齢的にアウトだから、その場合二股してる事になるんだけど…?」
思わず苦笑いを浮かべるハイディに、アリスはほんの少しだけ同情した。
「──やだなあ、ボクの彼女はアリス先輩だけだよ!」
…前言撤回、同情なんてものはない。嘘つき野郎め。
「おやおや、そうなのかい。とうとう坊ちゃんに彼女が…そりゃあ私も嬉しいねぇ」
「違います!!!」
「違いますわ!!!」
アリスが否定を口にするのと同時に、後ろから別の否定する声が聞こえた。
誰だろう?と声のした方を見やると、なにやら、むすーっとした顔のレイチェルが腰に両手を当てて佇んでいた。
「三人とも、みんなハイディの友達ですわ!それ以上の関係なんてないですわ!」
そんなレイチェルの慌てっぷりに、傍で見守っていた、この場で最年少の少女が一言。
「…お姉ちゃん、なんでそんなに、焦ってるの?」
「あぁ、ごめんなさいね。わたくしは全然焦ってないですわよ!えぇ、ハイディに彼女はまだいない…」
「でもお姉ちゃん、すごーく嫌がってるようにみえたの」
「ハイディ、早く会計を済ませましょう」
ハイディは、二人の会話に少し小首を傾げた後、レイチェルに促されるがままに会計を済ませた。
「こんなボロボロで潰れかけのお店に、わざわざありがとうねぇ。またいつでも遊びに来てちょうだい」
「えぇ、またいつか!」
* * *
お店を出ると、もう日が暮れ始めた頃だった。
「わぁぁぁ…すっごく可愛いの…お兄ちゃん、これ本当に貰っていいの?」
「えぇ、構いませんよ!何せボクは、男の子ですからね!」
お揃いのイルカのキーホルダーを買ってお店を出た三人は、ツヴァイとの別れが迫っていることに少し寂しさを感じ始めていた。
「あっ、そうだ!せっかくですし、お別れの前にみんなで写真を撮りませんか?」
夕日に照らされながら、そう提案したのはハイディだ。
そんな彼の手には、既にカメラが握られていた。
「お兄ちゃん、なに持ってるの?」
「なんでカメラなんか持ってるの、用意周到すぎない?」
そんな言葉に「ちっちっち!」と指を横に振って、何やら誇らしげなハイディ。
「ふふふ、ボクを甘く見ないでください!これもちゃんと計画してましたから!」
「「飲食店は決めてなかったでしょ」」
ジーッとハイディを見つめるアリスとレイチェル。
「やだなぁ、ご愛嬌って事で、ね?」
「はいはい、早く撮ろ!急がないと日が暮れちゃう!」
アリスに促されるまま、四人は一番最初に待ち合わせていた噴水を背景に、並び始めた。
「ハイディ、こっち寄らないで、ねぇ!もうちょっと離れて!!!」
「いいじゃないですか!今日だけですから!」
「ハイディ、そんなに偏られると、わたくしが少し寂しいのだけれど」
「お姉ちゃんたち仲良しなの!」
ハイディに寄りかかられたまま、アリスはカメラのセルフタイマーを設定し始める。
「ところで、さっきからずっと寄りかかってきてるけど、結界で阻まれてるのに、めげないんだね…」
アリスは流石に写真を撮るのに、結界を張るのは良くないなと思い、遠くでアリスを眺めていたミロに手を振って合図をした。
数秒後におびただしい量の結界が解除され、アリスは最後の設定を終わらせる。
セルフタイマーの設定時間は10秒だ。
「ほらほら、みんな笑ってー!カメラ見て!行くよ、はいチーズ!」
直後、カシャッというシャッター音が響いて、カメラから四枚の写真が出てきた。アリスが設定した枚数だ。
「うわぁ、偏りが酷い」
「本当に酷いですわ」
「…ごめんってば!」
「写真が出てきたの!すごいの!」
アリスは、そんな四人が集まって笑顔で溢れる写真を見て、思わず頬が緩み、笑みがこぼれていることには気付かなかった。
「なんだか私、すごく久しぶりに、心の底から笑えた気がする!」
「ボクもです!」
「わたくしもですわ!」
「わたしもなの!」
アリスは「ふふっ」と笑いながら、こんな日々がずっと続けばいいのにな。と密かに心の中でそう思った。




