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魔術と加護のアルカディア  作者: 蜃気楼
「護衛」編
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40/50

【第39話-地雷踏みの達人】

 ツヴァイと名乗ったその少女は、ペロペロと味わうようにソフトクリームを食べ始めた。


 そんな少女に、いつにも増してニマニマしているレイチェルが問いかける。


「ツヴァイちゃん、いい名前ですわね。親御さんはどちらにいらっしゃいますの?」


 その瞬間、少女の顔が少し暗くなった気がした。


「…ママとパパは…いないの。わたし、ひとりで来たの」


「あら、失礼…。思い返させてしまってごめんなさいね。じゃあお家はどこか分かるかしら?」


 その時、少女の表情が更に暗い顔になったような気がした。


「── お家は、ないの。わたしのいつも寝ているところ、お外なの…」


「…ねぇレイチェル、地雷踏みすぎじゃない?」


 その一言で、レイチェルは自分の失言の酷さに気付いた。


(やってしまいましたわ!…もっと早く気付くべきだった、身なりやボロボロの服を見た時点で何かあると考えるべきだった!)


「…そう、なんですの。本当に、ごめんなさいね。その、いつも寝ている場所は…どこかしら?」


「……あっちなの」


 依然として暗い顔を引きつっている少女が指した方向を見ると、遠くにうっすらと農場のような広大な土地が見えた。

 こういう時にだけ、ルーフの加護が羨ましく感じるのは、また別の話だが。


 少女の寝泊まりしている場所など、この距離では、ほとんど見えないはずだ。

 が、その指さされた方向を暫し眺めていたレイチェルが、何かを覚悟したように聞いた。


「農場…もしかしてツヴァイちゃん、土魔術に適性があ…」


 レイチェルの言葉を遮る形で、「はぁっ」と荒く息を吸う音が聞こえた直後に、叫び声のようなものが上がった。


「── やめて!」


「違うもん違うもん!わたしは悪くないの…!」


 ブンブンと首を振り続ける少女を見て、アリスは少し記憶の中を探った。


「あ…あった」


 そう、誰にも聞こえないような小さな呟きをしながら、思い出した。

 アリスには、土魔術と聞いて、思い当たる事がひとつあった。


 土魔術適性者は、数万人に一人ほどの確率で、数少ない農業労働力として扱われることが多い。


 ── つまり。


「土魔術は不遇な適性…つまり、こんな小さい女の子が奴隷のように働かされている、ということ…?」


「わたしは悪くないもん!急にお家に人が来て、勝手に連れて行かれて、それで…それで…」


 ── 農場に連れて行かれた。


 ツヴァイはついに再び泣き始めてしまった。

 レイチェルが踏めるだけの地雷を全制覇していったのは、正直予想外だったので慌てて皆で慰める。


「ごめんなさい…何か欲しいものはあるかしら?お詫びに何かさせてくださいまし」


 レイチェルの問いかけが耳に入ってなかったのか、空気の読めないアリスが口を開く。


「貴族の子が土魔術適性を持った場合は、家ごと潰されると聞いていたけど、ずっと冗談だと思っていたわ。どうやら、本当みたいね…」


 そして、なんとも見事に全員何も言わずにスルー。


「わたし、今日ね…30日ぶりのお休みなの。ずっと、たくさん頑張って疲れて、それで…アイス買ったの」


「──30連勤…だと…」


 いつものアリスとは違う口調になっていたが、それには触れずにレイチェルも一言。


「30日も働いて、アイスひとつしか買えないんですの…?なんて過酷な…」


「ボクだったら耐えきれないです…」


 そう言って自分の胸元をギュッと握り締めるハイディ。

 そして、今まで黙ってたハイディが急に入ってきて驚く顔のレイチェル。


「じゃあ、気を取り直して、お詫びに、わたくし達とお店に行きませんこと?もちろん、お金はわたくしが払いますわ!」


「お店…?」


「そう、お店ですわ。可愛いものもきっとたくさんありますわよ!さぁさ、行きましょ!」


 そう言ってレイチェルは、返事も聞かぬ間にツヴァイの手を優しく取って、雑貨店に向けて歩き始めた。


「── ま、待ってなの〜!」

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