【第39話-地雷踏みの達人】
ツヴァイと名乗ったその少女は、ペロペロと味わうようにソフトクリームを食べ始めた。
そんな少女に、いつにも増してニマニマしているレイチェルが問いかける。
「ツヴァイちゃん、いい名前ですわね。親御さんはどちらにいらっしゃいますの?」
その瞬間、少女の顔が少し暗くなった気がした。
「…ママとパパは…いないの。わたし、ひとりで来たの」
「あら、失礼…。思い返させてしまってごめんなさいね。じゃあお家はどこか分かるかしら?」
その時、少女の表情が更に暗い顔になったような気がした。
「── お家は、ないの。わたしのいつも寝ているところ、お外なの…」
「…ねぇレイチェル、地雷踏みすぎじゃない?」
その一言で、レイチェルは自分の失言の酷さに気付いた。
(やってしまいましたわ!…もっと早く気付くべきだった、身なりやボロボロの服を見た時点で何かあると考えるべきだった!)
「…そう、なんですの。本当に、ごめんなさいね。その、いつも寝ている場所は…どこかしら?」
「……あっちなの」
依然として暗い顔を引きつっている少女が指した方向を見ると、遠くにうっすらと農場のような広大な土地が見えた。
こういう時にだけ、ルーフの加護が羨ましく感じるのは、また別の話だが。
少女の寝泊まりしている場所など、この距離では、ほとんど見えないはずだ。
が、その指さされた方向を暫し眺めていたレイチェルが、何かを覚悟したように聞いた。
「農場…もしかしてツヴァイちゃん、土魔術に適性があ…」
レイチェルの言葉を遮る形で、「はぁっ」と荒く息を吸う音が聞こえた直後に、叫び声のようなものが上がった。
「── やめて!」
「違うもん違うもん!わたしは悪くないの…!」
ブンブンと首を振り続ける少女を見て、アリスは少し記憶の中を探った。
「あ…あった」
そう、誰にも聞こえないような小さな呟きをしながら、思い出した。
アリスには、土魔術と聞いて、思い当たる事がひとつあった。
土魔術適性者は、数万人に一人ほどの確率で、数少ない農業労働力として扱われることが多い。
── つまり。
「土魔術は不遇な適性…つまり、こんな小さい女の子が奴隷のように働かされている、ということ…?」
「わたしは悪くないもん!急にお家に人が来て、勝手に連れて行かれて、それで…それで…」
── 農場に連れて行かれた。
ツヴァイはついに再び泣き始めてしまった。
レイチェルが踏めるだけの地雷を全制覇していったのは、正直予想外だったので慌てて皆で慰める。
「ごめんなさい…何か欲しいものはあるかしら?お詫びに何かさせてくださいまし」
レイチェルの問いかけが耳に入ってなかったのか、空気の読めないアリスが口を開く。
「貴族の子が土魔術適性を持った場合は、家ごと潰されると聞いていたけど、ずっと冗談だと思っていたわ。どうやら、本当みたいね…」
そして、なんとも見事に全員何も言わずにスルー。
「わたし、今日ね…30日ぶりのお休みなの。ずっと、たくさん頑張って疲れて、それで…アイス買ったの」
「──30連勤…だと…」
いつものアリスとは違う口調になっていたが、それには触れずにレイチェルも一言。
「30日も働いて、アイスひとつしか買えないんですの…?なんて過酷な…」
「ボクだったら耐えきれないです…」
そう言って自分の胸元をギュッと握り締めるハイディ。
そして、今まで黙ってたハイディが急に入ってきて驚く顔のレイチェル。
「じゃあ、気を取り直して、お詫びに、わたくし達とお店に行きませんこと?もちろん、お金はわたくしが払いますわ!」
「お店…?」
「そう、お店ですわ。可愛いものもきっとたくさんありますわよ!さぁさ、行きましょ!」
そう言ってレイチェルは、返事も聞かぬ間にツヴァイの手を優しく取って、雑貨店に向けて歩き始めた。
「── ま、待ってなの〜!」




