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【第3話-的外れの火球】

 アリスが転けて、顔から倒れるのを止めようとして、変わってしまった杖の先の向き…その杖の向いた先は、まるで見えない何かに強い力で引っ張られたかのように、運悪くも真っ直ぐ、そばで見ていたアークの元に向けられていたのだ。

 だがアリスはそんな事に気付いていない、気付けるはずもない。転倒の際にすりむいたひざの痛みに地面で俯いているのだから。

 転倒の痛みに気を取られて魔術を使用中であったことすらも忘れていたアリスの魔術は止められることはなく、その時、杖の先からは火球が放たれた。

 幸いな事に、綺麗さに力を入れて練習をしていたアリスは、魔術式の理解に時間をかけ過ぎていたのか、魔力量がそれほど高くなかった。

 そのため、思っていたよりも、威力が高くはなく、アークに致命傷を与えることはなかった。


 ──だがそれでも、魔術は魔術なのだ。


「ああああ!!顔が、焼けるっ、熱い!」


 そばにいた従者がアークの顔の炎に気付きすぐに水魔術を詠唱をし、魔術で生み出した水をアークの顔にかけた。

「アーク様っ!!大丈夫ですか!!」

 その後すぐにアークの顔を包んでいた炎は消えた。

 地面に倒れたアリスが顔を上げた時には、既にアークの顔には酷い火傷の跡が残っていた。

 アークは左目をずっと抑えていた、どうやら火傷だけではなく、失明もしてしまったらしい。

「い、いたた…。はっ…!お父様!?まさか私の魔術で…!!ごめんなさい、私のせいで…!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!」

 謝り続けるアリスを、アークは酷い火傷を負い片目を失明しながらも父親らしく、アリスの右手を自分の左手で包み込むように優しく握って、頭の上には右手をそっと置いてよしよしと撫でながら優しく答えた。


「アリス、私は大丈夫だ。気にするな…」


 言葉こそ優しかったが、アークの声は震えていて、作り笑いである事も簡単に気付かれてしまうほどには顔も歪んでいた。

 アリスは、ホッとしたのと同時に、自分のしてしまった事の重大さに気付き、その場で泣き崩れてしまった。


 今となっては光魔術を使う術師も増え、光魔術で治癒が出来る事もほとんどの人が知っているが、当時、その頃はまだ光魔術に適性のある者が極端に少なく、光魔術の研究が進んでいなかったため、光魔術で治癒が出来るとは知られてなかった。

 その影響でアークの火傷と左目の治癒は行われず、応急手当のみで、そのまま火傷跡が残ってしまった。左目の視力も戻ることはなかった。

 顔に大きな火傷を負ってから1週間ほど、アークは寝込んでしまっていた。


 そして、アークの体調が戻り、元通りの日常生活が送れるようになった頃、アリスは見てしまった。

 優しく娘を気遣ってくれたアークが、娘の見えないところで……鏡の目の前で一人、自分の顔を見つめ、苦しそうに涙を浮かべて顔を歪めている所を。

 それを見てしまったアリスに、その時のお父さんの苦しそうな顔が、更にトラウマを植え付けていた。

 その日からは攻撃魔術を使おうとすると、お父さんのあの苦しい顔が脳裏に浮かび、魔術に集中出来ず、使うことも出来なくなった。


 その日から、アークは失明した左目と、酷い火傷を負ってしまった顔を見せないためにあまり外へ出なくなった。そして仲の良かった友人にも、愛娘にも顔を出さなくなってしまった……。

 アリスもまた、お父さんから貰った杖を握るとあの日の出来事を思い出してしまうため、貰った杖は押し入れに仕舞い、新しい杖に変えてしまった。

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