【第2話-過去のトラウマ】
この世界には『加護』というものが存在する。
加護は基本的に、親から子へと受け継がれることが多いが、継承者本人の意思によっては他者へ譲渡する事も可能だ。
そして、加護にも様々な種類があるが、ミラージュ家は代々、『魔術の加護』を受け継いでいる名家である。
『魔術の加護』を持つ者は、魔力量が一般魔術師と比べて圧倒的なほどに増加し、更には、本来魔術は詠唱無しで使うことができないのだが、それが無詠唱で魔術を使えるようになるのだという。
それは魔術師であれば間違いなく誰もが喉から手が出るであろう強力な加護である。
そんな強力な加護を授かっているのに、何故アリスは落第寸前になるまで追い込まれているのか。
──それは、アリスが戦いにおいて必要不可欠である攻撃魔術を使うことができないからだ。
だが、これは決してアリスが攻撃魔術に全く適性がない訳ではない。
では、何故アリスは攻撃魔術を使うことができないのだろうか。
その理由は、七年前に起きたとある出来事にあった……。
* * *
名門ミラージュ家の長女であったアリス・ミラージュは幼い頃から魔術の訓練を受けていた。
アリスは魔術が好きだった。だから嫌な顔ひとつせず、毎日真剣に訓練に取り組んでいた。
アリスが七歳になった頃には訓練が始まり、平日は魔術の練習を、休日は外出もせずに図書室にこもり、ずっと魔術式の勉強をしていた。
* * *
訓練が始まって三年後の、ちょうどアリスが十歳になった頃、彼女の父親であるアーク・ミラージュは、愛娘の成長を自分の目で見ようと思い、自ら訓練場に足を運んだ。
アリスが手を振ると、アークもそれに応えるように手を振り返してくれた。
アークが手を振りながらアリスに近付いていく。
「アリス、誕生日おめでとう。友人からの貰い物だが、プレゼントの新しい杖だ」
ちょうどアリスの誕生日が来たばかりだったので、アークはプレゼントとして娘のためにと新しい杖を贈った。
「ほんと!?わーい!!お父さんありがとっ!!」
子供のようにキャッキャと喜ぶアリスは、まるで可愛い小動物のようだった。
そんなアリスは可愛らしい笑みを浮かべながら父親に声をかけた。
「お父さん見ててみてて!」
アリスは、多忙な父親であるアークが珍しく自分の魔術を見に来てくれたことに喜びを感じていた。
だから、自分が成長したところをお父さんに見せてあげようと、いつにもなく張り切っていた。
(どの魔術見せてあげようかなあ…そうだっ!とりあえず、私が一番得意な火魔術で、的を射抜くところを見せてあげよう!)
そうして、アリスはちょうど父にもらったばかりの杖を使ってその場で準備を始めた。
片手で持てるほどの小さな杖を的に向けて振りかざしながらアリスはいつも通り、杖に魔力を込めて無詠唱で火球を放った。
「えいっ!」
訓練自体は簡単なものだったが、アリスが本当に父に見せたかったのは、単に魔術を的に命中させるだけのことではない。自分の放った火球を…自分の綺麗な魔術を見て欲しかったのだ。
(お父さんみてて!私の魔術、前よりもすっごく綺麗になったんだから!)
魔術が好きだったアリスは魔術の威力を上げることよりも、魔術を綺麗に見せることに力を入れて日々練習していた。
魔術式は完璧に理解していなくても、綺麗さに大きく影響するだけで、威力への影響は比較的小さい。
だから、普通の魔術師は何となくで理解して、それ以上は気にせずに魔術を使っている。
魔術の威力だけを考えるならば、魔力量と練度の方が重要だからだ。
けれど、アリスは幼い子供の頃から魔術式の理解をしようと熱心に勉強をしていたので、魔術式の理解力はずば抜けて高かった。
そして普段なら、こんな簡単な訓練で失敗する事なんて、絶対にないことだ。
けれど、この日は違った。アリスが振り下ろした杖が火球を放つ瞬間、張り切りすぎていたのか、杖を強く振りすぎてしまっていたのか、予想外にもアリスはその場で転んでしまった。
「ひゃっ!?」
アリスは、咄嗟に手を出して顔から倒れるのを避けようとした。
だが、その時アリスは気付かなかった。まるで見えない何かに引っ張られるかのように杖先の向きが変わっていることに…。




