【第30話-視線の正体】
大賢者の授業が終わり、昼休みに入った頃、アリスはとんでもない状況の中で弁当を食べていた。
「何で私、大賢者と一緒にお昼ご飯食べてるの?」
「そりゃあ護衛対象だからだよ」
普通の事を普通に返す大賢者。
「幻影だとしても、大賢者と一緒にお昼ご飯なんて、教室でも注目が集まってきて凄く嫌だったんだから」
そう、アリスはいつも通り教室でクラリス達とお弁当を食べようとしていた。だが、気付いてしまった。
隣に大賢者(幻影)がいるというだけで、周りからの視線がこちらに凄く集まってくることに。
「今日は仕方ないから外で食べるけど、明日はもう少し陰から護衛してくれると助かるな…」
そう言うと、アリスは大賢者に聞こえないくらいの小さなため息を吐いた。
しばらく歩いて、外の建物の影に隠れたような場所で腰を下ろしたアリスは、段差に座って弁当を開ける。
「うげっ…また今日もトマトが3個盗まれてる、ルーフの仕業だなぁ…」
口だけが達者なルーフの嫌がらせは、いつも凄く微妙なものなのだが、今日のアリスはトマトが食べたい気分だったため、少し拗ねた。
そんなアリスにミロが優しく声をかける。
「オレの弁当にもトマト入ってるから分けてやるよ」
「……ありがとう、ございます」
アリスは、少し顔を逸らしてミロに感謝を述べた。
* * *
アリスがちょうど弁当を食べ終わった頃、アリスは何やら視線を感じていた。
(なんだが凄く誰かに見られてる気がする…)
「アリス、どうしたの?」
「…あ、ううん、ミロ先生。なんでもない」
「そうか?まあ何かあったらちゃんと言えよ」
(うぅぅ、誰かからの視線を感じます〜だなんて言えるわけないじゃん…!こういうのって大体、自意識過剰なだけなんだって〜!)
しかし、どうやらアリスの顔に不安が出ていたらしい。ミロが急に周りをキョロキョロと観察し始めた。
少しすると、ミロが短い詠唱を挟んだ。
「探知」
その途端、ミロから優しいそよ風が吹き、アリスの頬をすり抜けていった。
ミロは探知が終わると、あるところを一直線に凝視していた。
「あれは……」
ミロにつられるようにアリスもそちらを見る。
「っ……あれは!」
そこには、優しい印象の水色の髪に、綺麗な黄色い目を輝かせた一人の少年が隠れていた。その少年は、まじまじとこちらを見つめていた。
(なになになになに……)
アリスが少しビビっていると、大賢者がその隠れている少年に向けて歩み始めた。
相手の少年もそれに気付いたのか、隠れるのをやめてこちらに歩み寄ってくる。
やがて二人は歩みを止め、顔を見合わせた。
「お前は誰だ。アリスの刺客か?」
「やだなあ、こんな小さな子供がそんな事をするように見える?」
まだ幼い、可愛らしい声の少年だ。
「刺客に年齢なんて関係ない。それに、お前は何故、こちらをストーカーのようにジロジロと覗き見ていたんだ?」
「そりゃあアリス先輩が、他の男子生徒と二人きりでご飯を食べてるところを見て、少し気になっただけですよ」
「結局のところ、君は覗いてはいたんだろ?」
「違います!ボクはアリス先輩が、悪い男に騙されないように見守っていただけです!」
「…はぁ、というかまず、オレは生徒じゃないんだが」
「…えっ、嘘、ボクの勘違い?」
その一言で、場の空気が一瞬で緩んだ。
すると今まで黙っていた護衛対象であるアリスが声を出した。
「……ねぇ、本当に何をしてるの───ハイディ」
その少年は、はにかむように「えへへ、見つかっちゃいました」と悪びれる様子もなく笑った。




