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【第26話-調査員によると】

 アルミスからアリスの護衛依頼を受けた大賢者は、その後すぐに、自身の魔力を半分ほど注いだ幻影を作り出し、アリス達のいる寮に向かわせた。

 ミロの作り出す幻影は本体とは別の思考を持つ。だから大賢者は、自分が護衛する代わりに幻影を先行して護衛に付けた。

 もし幻影が倒されれば、大賢者もそれを感知できる。何よりミロ本体の奇襲対策にもなるし、幻影が倒されればすぐに向かえる。

 そんな事はさておき、幻術を使い、目が虹色に輝いている今の大賢者は、自分の家に向かっていた。

 少し早足に見えるのは、恐らく勝手に家を抜け出した事がバレていないか心配になって無意識に急いでしまっているのだろう。

 しばらくして、ガチャっと玄関の扉が開く音がする。

「はぁ、ただいま」

 誰もいない家に響く疲れ切ったミロの声。

 ふと、寂しいから秘書とか雇おうかな?などと思った大賢者だったが、厳しい秘書に当たったら自分の行動範囲が狭められる気がしたから脳内で却下した。

 玄関で靴を脱ぎ、くつろぐためにリビングに向かいかけていた大賢者は道中でとある何かに気付いた。

「あれ、ここのドア…開いていたっけ?」

 ミロは部屋を出る前にはキッチリ扉や窓は閉めるタイプだ。

 それなのに、ドアが僅かに開いている。


 ── 怪しい。


 その扉が開いていた部屋は、ミロがよく書類などを片付ける時に使う、机のある部屋だった。

 ミロは恐る恐るドアノブに触れる。

 ギィィっと扉の開く音が室内に響く。


 ──室内に人の姿はない。


 ミロは本能的に机の上を見た。

 すると、一枚の見覚えのない紙が置かれていた。その紙には、こう書かれていた。


『伝えたい事がありますので、家に戻られたら電話をかけ直してください』


 その時、「あっ」という声が大賢者から漏れる。

 ミロには、その文字の書き方に見覚えがあった。


 ── それは、国王陛下の側近がよく書いている筆跡と、とても酷似していた。


「やばいやばいやばいやばい」

 ミロはその紙を見るなり、この世の終わりかのように慌てふためき始めた。

「あぁ、またやってしまった、絶対怒られる…家から勝手に抜け出したのがバレた…なんでこんな日に、ちょうど学園に行っている日に電話をかけてくるんだ…」

 どうやら、盗人が家に入った訳ではないらしい。この状況から見るに、国王陛下の側近がミロに電話をかけたが、ミロが電話に出なかったため家を訪ねた。という所だろうか。


「まぁいい、バレたものは仕方ない。とりあえず、まずは電話をかけ直そう」

 ミロは受話器を恐る恐る手に取り、電話をかけ直した。

 プルルルルという電話の呼び出し音が静かな室内に再び響く。

 そして、ガチャっという音が聞こえた。

『大賢者様、ようやくお戻りになられましたか』

「すまない、どうか今回だけは…見逃してくれないだろうか」

『残念ながら国王陛下が少し怒っていらっしゃるので、見逃す事は出来ません。ですが、それよりも重要な事が伝達事項があります』

 大賢者は顔色を変えて、真剣に話を聞く。

「続けて」

『はい。先日のダンジョンの件で捕らえた調査員の事で、今までずっと黙秘していたのですが、長期に渡る尋問に痺れを切らしたのか、今日ようやく話し始めました』

 その言葉を聞き、椅子に座って電話をしていた大賢者は、驚いて不意に立ち上がった。

「本当か?何を言っていた?」

『何故ダンジョン調査を怠ったのか、などの情報を引き出すことは出来ませんでしたが、一つ収穫が。』

 そう言ったあと、国王陛下の側近は少し間を空けて告げた。

『調査員の後ろに強力な『加護』を持った何者かがいる可能性が高い、という事です。恐らく、その加護の影響で何かしらの制約を受けているのかと』

 国王陛下の側近が言うには、調査員はこんな感じだったらしい。


『俺は、ヤツらの、計画、について話す事はできない。もし、話そうとすれば何が起こるか分からない。だが、他に話せることが一つある。』

 その調査員は、何かを避けるために慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと話した。


『気を付けてくれ、ヤツらは…』

 そこで調査員は、一度言葉を止めた。と同時に、額から滝のように汗が流れ落ちる。

 調査員は何かを決心したように、ビクビク震えながら言葉を続けた。


『ヤツらは、強力な、加護、を手に入れた…』


 そう言い終えると、調査員は、まるで死地から生還したかのように深いため息をつき、それから話さなくなってしまった。

 調査員の顔や服は汗でぐっしょりと濡れていた…。


「── 強力な加護…か」

 大賢者は、調査員の話を聞いて、顔を上げた。

 (なんだか少し、嫌な予感がする)

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