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【第25話-託された未来】

 アルミス・ルージュはこの学園でもトップの成績を誇る優等生だ。

 だが、彼はいつも無口で何を考えているのか分からない。そんな彼が、わざわざ大賢者に会いに来て頼み事をした理由は、彼が数日前に視た『予知』にあった。


 * * *


 大賢者が学園に来る数日前、アルミスは月に一度行う数ヶ月先の未来予知をしていた。

 数ヶ月先ともなれば、具体的な内容は視えないが、重要な言葉だけは視える。

「………」

 アルミスは両目を閉じ、まるで、今からお経を唱えるお坊さんのように座りながら、自身の体に魔力を込めていく。

 魔力が十分に行き渡った所で、アルミスは両目を開いた。

 目を開けると、ある言葉が視えた。


『アリス・ミラージュを守れ』


 アルミスは、普段は命令のような予知は視る事がない。大体の予知は、数ヶ月前に視た『学園に大賢者が来る』とか、『テスト範囲に気を付けて』とか、そんなに大した事のない予知ばかりだ。

 ちなみに、この『テスト範囲に気を付けて』という予知を視ていなければ、アルミスは危うくテスト範囲を間違えて勉強するところだった。

 それはさておき。

 そんな中で急に『アリス・ミラージュを守れ』という予知が視えた。しかも命令形ということは、相当重要な予知だ。とアルミスは直感的に感じた。

 だが、そんな重要な予知を視たとしても、アルミスはすぐに行動に移そうとはしなかった。


 ──だって彼女は、強いから。


 致命的な欠点といえば攻撃魔術が使えないという事だけで、防戦面で言えば、彼女本人のスペックはかなり高い。

 敵は倒せなくとも、その気になれば超級魔術を無詠唱ですぐに発動して対応できるし、連発もできる。そして更には、魔力量も桁違いだ。


 ──そんな彼女を自分が守れるのか?


 アルミスは学園内であれば、対人戦も対魔物戦も得意な最強格の人間であり、更には急な襲撃にも対応できる予知能力を持っている。

 これだけを聞けば、彼が護衛に適任だと誰もが言うだろう。

 けれど、一つだけ忘れてはならない最も重要な欠点がある。


 ──『予知』には、大量の魔力を消費する。


 つまり、永続的に未来を視る事はできない。

 そして、『予知』という能力を失った彼は、ハッキリ言って、アリスを守り切れるほど強くはない。今まで予知に頼りすぎていたから、本人自身の能力が低いのだ。

 だから、アルミスは考えた。

 数ヶ月前に視た予知を思い出しながら考えた。


「学園に来る大賢者に護衛を頼めばいいんじゃ…」


 そう、彼は学園に大賢者が来るという未来を知っている。ならばそれを利用しない手は無いだろう。

 アルミスは、大賢者に護衛を頼むまでの数日の間だけ、アリスを陰ながら護衛した。魔力が切れるまで未来を視続けて、そして大賢者に託した。

『アリス・ミラージュを守れ』という予知が何を示唆しているのか、アルミスには分からないが、それでも嫌な予感だけはしていた。


「──これから一体、何が起ころうとしているんだ…」


 * * *


「── 当主様、例の超級ボスが倒されました」


「そうか、ダンジョンボスは失敗に終わったか。まぁいい、あれはまだ不完全だ」

 少しの沈黙を挟んで『当主』と呼ばれた男は続ける。

「それで、あの少女は結局のところ、仕留め損ねたという事で合っているかな?」

 その問いかけに、『当主様』と呼んだ男が深々と頭を下げながら答える。

「はい…。申し訳ありません」

「あぁ、気にしなくていいよ。それより、次の作戦についてだ」

 男はそう言うと、少し顔を前に出し、机の上で組んでいた両手に近付けた。


「── この計画において厄介な二人に、刺客を送る」


 男の口角が上がり始め、少しずつ不気味な…狂気染みた笑顔に近付いていく。


 やがて男は、少年のような甲高い声で、叫び狂うように言い放った。


「── さぁ!!準備を始めよう!」

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