【第23話-喧嘩の仲裁役】
大賢者からバカにされたルーフは、今までにないほど酷く激怒していた。
「はぁ?大賢者ともあろう人間がこの僕の魅力を見抜けないとは、国王陛下が直々に任命したというのに、この国も落ちぶれたものだ」
ルーフのその安い挑発に、大賢者は軽々と乗ってしまった。
「それは、国王陛下を侮辱したと受け取っていいかな?君が望むなら、国王陛下が直々に選んだ大賢者の実力を見せつけてやってもいいぜ?」
「ああ、やってやろうじゃないですか。ルーフ・オルトスの名にかけて貴方をボコボコにして差し上げますよ」
その会話を終始見ていた生徒たち及びアリスは、ルーフの喧嘩を売っている相手の格も考えない、いつも通りの態度に頭を抱えていた。
(もう、あいつ本当に何やってるの!?生徒たちに当たりが強いのは知ってるけど、明らかに目上の人に対しても攻撃的なのはなんでなの!?)
そんな事をアリスが考えていると、2人は同時に詠唱を始めてしまった。
そしてその時、周囲の生徒たち全員の目線がアリスに移った。
「……え、何?私が止めろって?」
コクコクと全員が一斉に頷くのを見て、いつも生徒たちにバカにされてきたアリスは「都合がいいなぁ」と頭を抱えて仕方なさげに杖を構えた。
アリスも、少しは成長したようだ。
「はぁ、普通は上級魔術ってそんな簡単に連発出来るものじゃないんだけどなぁ……仕方ない、氷牢!」
すると、ルーフと大賢者の周りに氷の檻がそれぞれ1つずつ再び形成された。
だが、普通に考えて、2人の勢いはその程度では留まらない。大賢者は先ほど攻撃をしないと言っていたが、今は恐らく怒りで、気が変わっているだろう。そうなれば、氷の檻など簡単に壊されてしまう。
──だが、両者とも氷の檻は壊されなかった。
ルーフは風魔術を得意としているが、攻撃系の上級魔術は使えない。だからルーフは最初から壊す事などできないのだ。
問題は大賢者だ。何故か大賢者は檻を壊せるにも関わらず、諦めてその場に立っている。
アリスは何故大賢者が諦めているのか状況が理解できなかったが、周りの生徒たちはアリスが抑え込んだと思い、拍手や歓声が上がった。
分かりやすすぎる手のひら返しに、アリスは思わず、心の中で大きなため息をついた。
歓声が聞こえたのは、バカにしてきた生徒たちだけではなかった。クラリスとフリルの声ももちろん聞こえた。
「やれば出来るじゃん、流石アリス!」
「うん、アリスは出来る子って、分かってたから」
アリスは、父と会話しなくなってからは、他人から褒められる事などほとんどなかったため、少し褒められるだけで、嬉しくて少し涙が滲み出てきてしまう。
クラリスとフリルの言葉を聞いてアリスは、目に少し涙を滲ませながら、2人めがけて駆け出して、2人を抱きしめた。
「ありがとう、2人とも!」
* * *
戦闘実習が終わったあと、闘技場の外に出たアリスは実技を10単位もらえて喜んでいたが、そんな事よりも先に早く、会いたい人物がいた。
大賢者、ミロ・アルカディアだ。
彼は何故、あの場で氷牢を壊さなかったのか。その理由をアリスは聞きたかった。
だが、そんな願いは思っていたよりも早く、すぐに叶ってしまった。
急に背後から声がかけられた。
「やぁ、お嬢ちゃん。さっきは助かったよ、氷牢が良い感じにオレの頭を冷やしてくれた。サンキューな」
それは、ミロの声だった。
アリスは焦って咄嗟に後ろを振り向いた。
「ひゃっ!?えっと、あ、あの…2人の喧嘩に私が勝手に突っ込んでごめんなさい。でも、大賢者様ならあの程度の氷牢くらい簡単に壊せました、よね?何故、壊さなかったんですか?」
アリスが恐る恐る首を傾げながら尋ねるとミロは優しく教えてくれた。
「あぁ、あの時は、陛下をバカにされて少しばかりイラついてしまったんだ。けど、あの場で騒ぎを起こすべきではないと、君の氷牢のおかげで我に返れたんだよ。だからあえて壊さずに、あの場をそのまま鎮めてもらった」
「……なるほど、そういう事だったんですね。うちのルーフが迷惑かけて、本当にすみません!」
すると大賢者は優しい声で応えた。
「いいのいいの!君には楽しませてもらったし。それで、オレからも聞きたいことあるんだけどいいかな?」
何だか凄い質問をされそうな気がしたが、その問いかけにアリスは恐る恐る頷いた。




