【第22話-無詠唱魔術の利点】
ミロ・アルカディアと名乗ったその男は、自己紹介を終えると、今日のテストが終わったあとの、午後の授業の事について話し始めた。
「突然で悪いんだけど、オレの暇つぶしのために君たちには、闘技場でオレと闘ってもらう」
「はあ?」という声が教室を包む。そりゃそうだ、この国唯一の大賢者と闘えだなんて何の冗談だ。
「あぁ、すまない。語弊があったね。オレは君たちを攻撃したりはしない。ただし魔術は使うよ」
生徒たちはキョトンとした顔でミロを見つめる。
「つまり、簡単に言うと、オレを捕まえられたら君たちの勝ちって事さ」
なるほど!と大半の生徒が納得した。
このルールであれば、アリスも自分の実力を十分に発揮出来る。だからこそ、その話を聞いたアリスは一応戦闘実習だというのに珍しくわくわくとした顔になっていた。
続けてネロ先生が発言した。
「ちなみに、これは一応ちゃんとした授業として扱うから、実技の単位も貰えるようになっている!みんな頑張れよ!」
やっぱりネロ先生が優しいと違和感がすごいな…なんて思いつつもアリスは、単位も貰えると聞いて更にルンルン気分になった。
「それじゃあ、闘技場へ行こうか」
* * *
ミロの指示でネロ先生は結界をいじり、闘技場を障害物のない平面の舞台に設定した。
「これから、オレを全員で協力して捕らえてみてくれ、もちろん手段は問わない。オレを捕まえられた生徒には10単位を与えよう」
10単位!?と生徒たちから喜びの声が上がる。
捕まえるだけなら楽勝だろうと思っている生徒が多いのだろう。だが、相手は大賢者だ。そう簡単にはいかない。
生徒たちが大賢者に続いて闘技場に入って行き、全員が入り終えたところで大賢者が何か短い詠唱をした。すると、大賢者の目が不思議と虹色に光り始めた。
大賢者はそのまま指を鳴らした。
「始めようか」
その合図を見てアリスと、もう一人、学園トップ3のアルミス・ルージュの2人を除いた生徒たち全員が我先にと大賢者目がけて飛び出した。
──だが、その飛び出した生徒たちの誰よりも早く大賢者を捕らえた者がいた。
その者は、一歩も動かずに杖を構えて振りかざす。
「氷牢!」
無詠唱で即座に氷の上級魔術を使い大賢者の周りに氷の檻を形成して捕らえた魔術師、アリス・ミラージュだ。
そして、最初から全く動かなかったアルミスは、やれやれと頭上に右手を置いていた。
きっと、数秒先の未来を視る事の出来る『予知の加護』の継承者である彼、アルミスは分かっていたのだろう。
──この戦闘実習では、アリスには敵わないと。
無詠唱魔術は先手を打ちやすく不意打ちにも適している。こういった予めスタートのタイミングが決められている場合は特に有利になる。
「……っ!へぇ、やるねぇ」
大賢者は驚いた顔をしてアリスを見た。かと思うと、その美しい顔に不敵な笑みを浮かべた。
「こんなに早く、オレを捕まえられる生徒がいるとは思わなかったよ。でも残念、これ偽物なんだよね」
捕らえられているミロがそう言うと氷牢の中にいた大賢者がキラキラと粉のようなものを放ちながら消えていった。
(え…!?)
アリスが一番驚いていたが、負けを確信していた他の生徒たちも驚いた顔をしていた。
すると、生徒たちの上空から声が聞こえた。
「本物はこっちだよ」
そう言って2人目の大賢者が闘技場に降りてきた。
闘技場に降りてきた大賢者の目は虹色から、元の赤い目に戻っていた。
生徒たちは困惑の眼差しをミロに向ける。
「あーそっか、オレの加護は知ってる人があまりいないから、驚くのも無理ないね」
すると、生徒の一人が声を上げて尋ねた。
「今のは何が起こったのですか?」
「さぁ?秘密だよ、自分たちで考えて当ててみて。でも、強いて言うなら加護の力さ」
そう言うと、再び大賢者が詠唱を始めた。
させてたまるかと生徒たちは一斉に飛びかかったが、動き出した時には既に遅かった。
ミロの魔術は無事に発動した。
「さぁ、生徒諸君。どれが本物のオレか見分けられるかな?」
大賢者の目が再び虹色に光り、大賢者が5人に増えた。
だがそれでも、心が落ち着いているアリスになら問題ない。
「原理が分からなくても、同じ事をすればいいだけ…氷牢!」
基本的に魔術の同時使用は、同時に使用する分だけの長い詠唱時間を必要とするため、飛行魔術との併用くらいしか同時に使うことはない。
だが、アリスは無詠唱魔術師だ。詠唱なんて関係ない。パニックにさえならなければ、自分の好きなだけ魔術を使えるのだ。
アリスの創り出した氷牢は見事に5人の大賢者全員を閉じ込めた。
すると、その内の4人は、先ほどと同じようにキラキラと宙に消えていった。
「…くははっ!これでもダメか!やっぱり面白いねぇ学園は!本当に、今年の生徒は将来有望だよ。そこの無詠唱魔術師。名前を聞いてもいいかい?」
「え!?えっと、はい…!アリス・ミラージュ…です!」
その言葉を聞いて、近くで眺めているだけで、何も出来なかったルーフ・オルトスが怒り狂った顔で怒鳴った。
「はぁ?そんな落ちこぼれに何の価値があるんだ!大賢者といっても所詮その程度なのか!全く面白くない」
「へぇ、彼女が落ちこぼれ?」
そう反応した大賢者には、少し威圧感が感じられた。
「なるほど面白い。…けれど、オレには彼女の方が強く見えるね」




