【第21話-暇人の大賢者】
──少し日を遡り、大賢者は自室でベットに横になり寝転んでいた。
「あぁ、暇すぎる。ダンジョンボスの進化については謎も多いし、面白そうだし、調べるのもありだが、まだ国王陛下の側近からの連絡が来ていない」
国王陛下の側近…ダンジョンボス進化の際にミロに電話をかけてきた人物だ。
「『ダンジョンの件はこちら側で済ませる』と言われてしまったから、迂闊に手を出すと怒られかねないんだよなぁ…何か面白い暇つぶしはないものか」
ミロが頬杖をつきながら少し不貞腐れた顔で窓辺から街を見下ろすと、1つの大きな建物が目に入った。
「大きな闘技場に中等科と高等科の校舎…フローティア学園か、学園……待て、暇つぶしに学園の教師をやるというのはどうだろうか。……知名度アップにも繋がるし、何より今年の学園の生徒は粒ぞろいと聞くから楽しめそうだ」
ありだな。とミロは一人で呟くと、いつも通りすぐさま空間転移の詠唱を始めた。
フローティア学園は眼下にある、かなり距離としては近いはずなのに、どうしてこの男は魔力を無駄遣いするのだろうか。
暇人なら歩けばいいのに。
* * *
そんな事はさておき、学園前に着いたミロは学園の門を風魔術の飛行で軽く飛び越え、強引に突っ込んで行った。
やがて職員室に辿り着いたミロは、大きな声で尋ねた。
「忙しい所失礼するよ。オレは〈大賢者〉ミロ・アルカディアだ。少し頼み事があってだな、オレを教員として生徒たちの授業に混ぜて貰えないかな?」
職員室内がざわつく。
「〈大賢者〉様がわざわざ学園に?」という疑問の声や、「きっと冗談で俺たちをからかいに来たんだよ」というような声が聞こえた。
ミロはあまり顔が知られていないから、本物の大賢者の顔はほとんどの人が知らない。偽物だと疑われても仕方がないだろう。
ミロはそれを見越していたかのように服の右胸あたりを指さした。
「信じてくれていない人もいるみたいだね。でも、これならどうかな?国王陛下が直々に〈大賢者〉にのみ授けられるブローチだよ」
一同がミロの右胸を見ると、確かにブローチが1つ付けてあった。金色と水色を基調とした煌びやかで少し小さめのものだ。
先ほどまで騒いでいた教師たちは静まり返った。
すると、1人の老人がミロに向かって歩いてきた。
「これはこれは、遥々お越し頂きありがとうございます〈大賢者〉様。わたくしは学園長を務めております、ウィリアム・アイクと申します。どうしてこの学園にわざわざ足を運ばれたのですか?」
その問いにミロは素直に答える。
「暇だったからだ」
「は、はぁ…?」
ウィリアムは少し呆れたような顔を見せたが、すぐに顔を元に戻しミロに向き直った。
「今年の高等科3年生は優秀だと聞いている。それを確かめたくてね。それで、オレは教員として暇をつぶしたい訳なんだけど、いいかな?」
なんとも身勝手な理由であったため、流石にこれはいけないと思い、ウィリアムは恐る恐るミロに尋ねる。
「大賢者様は教員資格をお持ちで…?」
その質問に大賢者はやや威圧的に答えた。
「大賢者という肩書きがあるのに資格が必要かい?」
「い、いえ…」
ミロの高圧的な態度にウィリアムは慌てて首を横に振って、ミロの要望を通した。
「〈大賢者〉様の願いともあれば、我々にできる事でしたら何でもいたしますよ」
「それは心強い」とミロはにこにことした表情のまま、両目を軽く閉じてそう答えた。
「それじゃあ、あと1つ」
ミロは何かを頼み忘れていたようで、学園長の方に向き直り、再び質問する。
「は、はい。何でしょう?」
──「闘技場を借りてもいいかい?」
学園長がこくりと頷くのを確認すると、ミロは何故だか愉しそうな顔でその場を後にした。




