【第20話-怪しい優しさ】
1時間目のテストは魔術だ。ネロ先生の合図と同時に生徒が一斉に回答を始める。
魔術のテストでは基本的に魔術式や、魔術の応用法についての問題が出る。
魔術式は、魔術に綺麗さを追求していたアリスにとっては、幼い頃から身近にあったもので、魔術式の理解度も高く、かなり得意な分野であった。
学年内でもほぼ毎回1位を取っているほどなため、ほとんど心配していなかった。だが、昨日の夜更かしがアリスの体にはしっかりと影響していたようだった。
(11問目、闇の上位魔術である隠密の魔術式を書け…これは、えっと…なんだっけ、あれ、何だか頭の中がふわふわして、全然集中出来ない…まずい、眠気が……)
キーンコーンカーンコーンと、チャイムの音が鳴る。
(あれ、もしかして私…寝ちゃってた?)
アリスはチャイムで目が覚めた。そう、テストの途中でアリスは寝てしまったのだ。
「回答やめ!全員筆記用具を置け!」
ネロ先生の声を合図に、テストの答案用紙が風の魔術で運ばれていく。
咄嗟に自分の答案用紙を見て、アリスは落胆した。
落としてはならない得意分野のテストで答案用紙の半分までしか埋められていなかったのだ。
アリスの顔が青ざめて、力が抜けていく。
(やばいやばいやっちゃった、ただでさえ落第寸前なのに、絶対に落としちゃいけないところでやらかしちゃった!)
アリスはこうしてはいられないと、自分の頬を叩き、次のテストに向けて切り替えた。次のテストはアリスの苦手な歴史だ。
「2時間目のテストは歴史だ、準備はいいな?全員始め!」
その合図とともにまた一斉に生徒が回答を始める。
しばらくすると、アリスは顔を上げ天井を見た。
(最後の問題、現在の大賢者の名前は何か…『ミロ・アルカディア』っと……ふぅ、危なかった、眠気が来る前に解き終わったぁ…今回の歴史はちょっと自信あるかも?…そういえば、今の大賢者様ってどんな人なんだろう、あまり表舞台に出てこないから顔も分からないし…イケメンかな?気になる〜!)
そんな事を思っていると、テストの終わりを告げるチャイムが再び鳴った。
「回答やめ!全員筆記用具を置け!これで今日のテストは終わりだ!みんな、お疲れ様」
ネロ先生が珍しく生徒たちに「お疲れ様」などと、優しい言葉をかけている事にアリスは少し違和感があったが、その理由はすぐに分かった。
ネロ先生より目上の人が来ていたようだ。
テストが終わったばかりだというのに、教室の扉がコンコンとノックされた。
少しすると扉が開き、1人の男性が教室に入ってきた。綺麗な水色の髪の男だ。
その男を更によく観察すると、薄い赤い目が見えた。
生徒たちは見覚えがない先生のようだったが、アリスには、どこかで見た覚えがあった。
「──初めましてかな?オレは今日から教師としてこのクラスで過ごさせてもらう、〈大賢者〉ミロ・アルカディアだ。みんな、よろしくな!」
男がそう言うとクラス内の空気が一瞬で変わった。
ざわざわとする室内で、アリスは自分の耳を疑った。
(え、今何て言った?ミロ…アルカディア?大賢者と同じ名前…?しかも、〈大賢者〉って言ってたし…)
見覚えのある顔、ただの魔術師だと名乗っていた男がこの国唯一の大賢者だったという事実を知り、動揺を隠し切れないアリスは「……は?」とさえ口にしてしまっていた。
その事に気付いたのか、ミロはアリスに近寄ってきて顔を覗いた。
「あれ?君どこかで見たことある気が……あぁ!この前のダンジョンの子か!へぇ、せっかくの再会だというのに全然嬉しくなさそうだね?」
「い、いえ、そんな事…ない、です!めちゃくちゃ、嬉しい、です!」
(やだ、なんだかめちゃくちゃ注目されてる…!)
アリスが言葉を詰まらせながら返答すると、ミロ先生は腹を抱えて大笑いしていた。




