【第13話-綺麗な魔術】
ボス部屋に入ると、先ほどまで丸くなって寝ていたボスがにゅるりと起き上がった。
「やはり俺の見間違いではないようだ。目の前のあれは上級モンスター……魔竜だ。」
魔竜…その名の通り魔術を使えて、氷や炎のブレスを放つ強力な竜だ。上級の名に恥じぬ火力と堅固な鱗で数々の冒険者を倒してきた。
「上級ボスなら恐らく上級魔術で倒せるだろう。みんな、上級攻撃魔術の詠唱を!硬い鱗に弾かれる可能性もあるから私は念の為、神聖魔術を詠唱する!アリスはその間僕たちを守ってほしい!」
「…!分かりました!」
メルトがてきぱきと指示を出し各配置に着く。
3人が詠唱をしている間、アリスは防御結界を張り続け、魔竜の攻撃を防ぐ。
先程の魔竜の攻撃で分かったが、あの魔竜は魔竜の中でも火竜と呼ばれる火のブレスを放つ魔竜だ。
アリスは炎のブレスだけでなく、残りの火の粉も3人に飛ばないようにと、少しだけ防御結界を大きくした。
それから数十秒経った頃、女子2人の声が止まった。どうやら詠唱が終わったらしい。
クラリスが氷の上級魔術で魔竜ごと氷漬けにして動きを封じ、フリルは攻撃魔術ではなく呪術を使うために、闇の上級魔術の隠密を使い、バレないように魔竜のそばまで近付こうとしていた。アリスは氷の上級魔術の氷牢を無詠唱で使い、魔竜を閉じ込めて身動きを止め、援護する。
だが、フリルの手と魔竜の距離が拳2つ分ほどまでに迫った瞬間、魔竜に異変が起きた。
「きゃぁっ!?」
突然暴風のような何かが魔竜から発せられ、アリスとクラリスの氷を割り、フリル達は吹き飛ばされた。
「フリル!大丈夫!?」
アリスの心配は杞憂だったようで、フリルは無事だった。だが、先ほど飛ばされた時の強い衝撃で気を失っているようだった。
クラリスはまだ魔力はあるようだが疲弊している。
メルトはまだ神聖魔術の詠唱中だ。
アリスが魔竜をじっと見ていると、なんと魔竜が光り出したではないか!
その光景を目にしたアリスが絶句する。
「何よ、これ……?」
やがて魔竜を包んでいた光が止むと、何かの姿が見えた。最初はみな魔竜だと思った。だがあれは、違う。
「一体どういう事なの!私の見間違いでなければ、あれは、あれは……超級モンスターの、覇竜よ……モンスターが進化する事例なんて聞いた事がない…。」
アリスの言う通り、ダンジョン内でモンスターが進化したなどという事例は今までに一切ない。
「あんな化け物と戦うなんて、勝てる気がしない、勝てるはずがない。一体どうすれば……」
その時、後ろから声が聞こえた。
「待たせてすまない、本当は魔竜に使うつもりだったんだけど、仕方ない。さて、俺の神聖魔術は覇竜に通用するかなッ!」
メルトは神聖魔術を纏った魔剣をアリス達3人に当たらないように気を付けつつ、覇竜目がけて力強く一振りした。その反動で地面が揺れ、メルトを中心に周りにいた3人が飛ばされはしない程度の強風に煽られる。
そして、魔剣から放たれたその飛刃は見事に覇竜に命中した。
直後、覇竜の叫び声がボス部屋に響いた。
「どうだっ……?倒した…か…?」
砂ぼこりが静まり、覇竜の姿が見えた。
── だが、覇竜はまだ、生きていた。
「…くははっ、俺の魔力をほぼ全て出し切った神聖魔術なのに、それでも倒せない…なんて、ね…。」
どうやら、メルトの神聖魔術は練習不足で不完全だったらしい。
この時、メルトは既に魔力が底を尽きて気を失っていた。アリスにも、それくらいは分かる。
間もなく、覇竜は4人を目がけてブレスを吐いた。
覇竜のブレスは超級魔術と同等の威力のものだ。上級魔術以下は基本全て押し負ける。そして、パニック状態になっている今、ほとんど魔術を初級程度しか使えず、超級魔術もまだ使えないアリスには、このブレスを防ぐことはできない。クラリスもフリルも同様だ。
(あぁ、これで私は、死んじゃうのかな…。)
覇竜の吐いたブレスが4人に当たる直前、何かがブレスを相殺した。
(っ…!?超級魔術だ、しかも、凄く綺麗で美しい…でもメルトは疲弊して魔術は使えないはず、それに、これは火の超級魔術だ…一体誰が……?)
アリスの疑問に答えるようにアリスの後ろから1人の男が現れた。一瞬だけ見えた横顔と背中姿から考えると30歳くらいだろうか。
その男は間髪入れずにすぐさま詠唱を始め、覇竜がブレスを再び放つよりも先に覇竜の頭上から太陽のような輝きを纏った火の超級魔術を放ち、覇竜の大きな身体に叩きつけ、その身体の周りを炎が包み込んだ。その威力は、地面に半球型の跡が残るほどだった。
(私が幼い頃に憧れて目指していた、とても綺麗な魔術…。)
アリスは無意識に「綺麗…」と口にも出していた。
覇竜を倒したのを確認すると、その男は後ろを振り返って、こう言った。
「このダンジョンから異常な魔力を感知したため、急いで飛んできた。怪我は無いか?子供達。」




