第14章:揺らぎの中
翌朝、広大な庭に集められた生徒たちは、まだ眠気の残る顔でざわついていた。
空は晴れていて、風は少し冷たい。
引率のメリン先生が、朝礼の開始を告げる。
「皆さん、おはようございます。研修旅行初日です。体調管理と規律を守ること、そして何より、互いに協力することを忘れないように」
声は穏やかだが、言葉の端々に緊張が滲んでいる。
心得の説明が終わると、先生が一歩下がり、代わってリアナが壇上に上がった。
徽章の入ったジャケットに身を包み、背筋を伸ばして立つその姿は、誰が見ても
“完璧”だった。
「皆さん、改めておはようございます。実行委員のリアナ・ヴァルモントです」
声は明るく、よく通る。
「今日の予定は、午前中は施設見学、午後は班ごとに立てた計画に沿って実地調査を行います。移動は必ず護衛に従ってください。あと、くれぐれも境界の森には近づかないように。攫われちゃった人は、うちの王子が全力で助けに行かないといけないから」
笑いが起こる。
アルウェル王子が苦笑いで肩をすくめるのが見えた。
冗談を飛ばして場を和ませるなんて、少し前の彼女では考えられなかった。
編入生の私の目にも、その変貌はわかる。
「私が何を知りたいか、あなたにわかるの?」
自分の声が少しだけ震えていたことに気づいた。
「リアナ・ヴァルモントの正体、です」
「……正体?」
私は眉をひそめる。
「眠った人間に憑りついて、意のままに操る悪霊の話は知ってます?」
完璧な令嬢、生徒会の実力者、王子の婚約者――そのどれでもない何か。
荒唐無稽なはずなのに、なぜか妙に腑に落ちる。
馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばすべきなのに、心のどこかが静かに頷いてしまう。
そんな感覚が、じわりと胸の奥に広がっていた。
「……ただの昔話でしょ。子供を脅すための。いい大人が真に受ける話じゃない」
「まあ、そうでしょうね」
ハルトは淡々と続けた。
「ただ、彼女が変わったのは事実で、それを好意的に受けとれない人間がいるのも、また事実ということです」
「……エーデル伯」
その名を口にした瞬間、温度が一段下がったように感じた。
「言っておきますが、僕は暗殺者じゃありませんよ」
ハルトの声は変わらない。
「目的はあくまで調査です。それに護衛。ここの生徒に危害を加えるつもりもメリットも全くありません」
「ねえ、ミレイユ」
隣のルカが、声を潜めて話しかけてくる。
「やっぱり変わったよね、あの人。前はもっと……こう、近寄りがたい感じだったのに。最近は、すごく柔らかい顔してるし」
「うん」
私は短く答える。
変わったというなら、自分だってそうだ。
こんなふうに、同級生と並んで立っているなんて、あの頃の私には、想像すらできなかった。
“保険”として育てられた私に、できるはずがなかった。
リアナの話が終わり、次にアルウェル王子が前に出る。
王族としての立場から、挨拶と注意事項を述べるが、生徒はほとんど聞いていないように見えた。




