第13章:護衛と標的
「……ありましたっけ、そんな職種」
ハルトがこちらを向く。
その眼に、動揺はみじんも感じられない。
私は構わず続けた。
「おかしいのよ。私に専属の護衛なんて」
少し考えるようなしぐさの後、ハルトは口を開いた。
「管理責任者というのは、あちこち動き回らないといけないので、通常の班には所属しないと聞きました。ひとりで動くことが多いのなら、護衛がつくのは自然な
ように思えますが」
「“貴族”ならね」
私は言葉を切る。
「あなたのランクは知らないけど、これだけ冒険者がひしめいてる中で、平民出の人間にいちいち専属の護衛をつけるなんてありえない。特に、エーデル伯なら」
──伝統派として知られるエーデル伯は、血統と格式に対する極めて保守的な態度で知られており、徽章着用の義務化を計画した黒幕と噂されている。
「では、標的はあなた、ということですか」
ハルトは歩調を変えず歩き続ける。
妙に長く感じられる廊下。不自然なほど人の気配がない。
「それは考えにくいわね。私が死んでも本家筋が困るだけだろうし、何より、旅行中を狙う理由がない」
妾腹の娘を、わざわざ教院に編入させる理由。
万が一、本妻の子供に何かあったとき、迎え入れるための予備。
父方の姓を明かさないのは、その予備が本妻の子に危害を加えることを防ぐため。
私は、名前を持たない”保険”だった。
「こんなタイミングでもない限り、近づくことも難しい王侯貴族。筆頭はアルウェル王子だけど、上の兄弟が健在な状態で、四男を狙うのもおかしな話よね」
私はハルトの様子をうかがう。
彼は何も言わない。
「となると、次の候補は、王子の婚約者」
その瞬間、ハルトが足を止めた。
そして、何の前触れもなく壁際に私を追い込む。
木の壁に手をつき、私の顔を覗き込むように。
「本来、僕はアルウェル王子の担当だったんです。無理を言って、変わってもらいましたが」
低い声。距離が近い。
息が触れそうなほど。
「……何のために?」
「必要だったんです。彼女に近しい人物の協力が」
ハルトがこちらを見据える。
その眼差しは、静かで、冷たい。
教院に入ることが決まってから、あらゆる事態への覚悟をしてきたつもりだった。
でも、いざそういうものが目の前に迫ると、何かにすがりたくてたまらなくなる自分に嫌気がさす。
落ち着け。この場で殺されることはない。
殺されても、私は揺るがない。
「協力の見返りは何?命を助けてくれるとか?」
どうにか絞り出した言葉に、変わらない口調でハルトが答える。
「あなたが知りたいこと、というのはどうでしょう」




