第12章:邂逅
白い石畳の港に、セレスト号が静かに滑り込む。
吹奏隊が並び、花飾りが風に揺れる。
出迎えの中心に立つのは、深紅の礼服を纏った一人の貴族――
レオナール・ぺノン・エーデル伯。
銀髪に鋭い眼差し、まっすぐに伸びた背筋。
彼が一歩前に出ると、港の空気がぴんと張り詰めた。
「王立教院の皆様、そして王子殿下。ようこそ我が領へ」
その声はよく通り、場の緊張を一瞬で掌握した。
迎賓館の一室に通された王子とその婚約者に、伯は自ら引き合わせを行った。
「お二人の護衛には、かの悪名高き『双頭獣の巣穴』を攻略し、その名を轟かせた誓の環の四名があたります」
声とともに、まず一歩前に出たのは、剣士――カイ・レストール。
後ろで括った黒髪に細身の体。鋭い目つきと、無駄のない動き。
アルウェルの前にひざまずき、恭しく頭を下げる。
「リーダーとして、お二人が恙なく旅を終えられますよう、護衛に全力を尽くす所存です」
その眼差しは冷えた鋼のようで、声も表情も揺れない。
まるで“職務”そのものが人の形を取ったようだった。
次に拳闘士――ガルド・ミネス。
長身で筋肉質、褐色の肌に無骨な拳。
無言で一礼しただけだったが、空気が少し重くなった気がした。
言葉より拳で語るタイプ、というやつだろう。
続いて魔術師――モカ・リュミエール。
鮮やかなピンクの髪に、大胆な装飾のローブ。
目元がキラキラしてて、魔術師というよりそっち系の臭いがプンプンする。
「モカでーす! よろしくね! うちら、マジで頼れるから!」
王族を前にしてのこの態度は、大器の片鱗か、ただの馬鹿か。
最後に僧侶――リーネ・アステラ。
「リーネ・アステラです。お二人の安全と健康を第一に、お護りさせて頂きます」
淡い金髪に白と青の法衣がよく調和し、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
この面々がどういう経緯でパーティーを組んだのか、正直、想像もつかない。
伯は頷きながら続けた。
「基本的には四名一丸となって護衛にあたりますが、お二人が別行動となる場合は、それぞれ二名ずつが担当に分かれます。リアナ嬢にはカイとリーネ、王子殿下にはモカとガルドが同行、そして双方の連絡役をこのロブが担います。王族とその婚約者であるため、特別の措置です」
どうにも場違いな空気の中、俺は前に出る。
「ロブ・フッカーです。連絡と調整を担当します。よろしくお願いします」
注がれる視線に声が硬くなる。雑務とはいえ、王族相手の仕事なんて初めてだ。
リアナが少し眉を寄せた。
「私たちにパーティー丸ごとなんて、いくら何でも大げさなのでは?」
伯は即座に返答する。
「お二人の立場を考えれば、少ないくらいです。これ以上減らすとなると……」
「……仕方がないよ、リアナ」
アルウェルが苦笑しながら言った。
「てかさ、この人いる? うちらで回せるっしょ」
腰に手を当てながら、モカが言った。
「まあそう言わず……どうかお手柔らかに」
笑顔を作ったつもりだったが、たぶん引きつってたはずだ。
「任務の効率と安全のためよ。連絡の確実性は重要」
リーネがすかさずフォローした、そのとき――
カイが俺の方へ歩み寄ってきた。
距離を詰める動きに、威圧はないのに空気が張り詰める。
「よろしく」
低く、抑えた声。
差し出された手を取ると、彼はわずかに身を寄せ、小声で言った。
「足は引っ張るなよ。余計な人間が増えると、判断が鈍るからな」
悪かったな。俺だって、好きで来たわけじゃない。
俺は笑顔を崩さず、その手をしっかりと握り返した。
案内されたホールは、広くて明るかった。
壁には派手な装飾が施されていて、空気は少しざわついている。
別室に通された高位貴族生をのぞき、ほとんどの生徒はここに集められたらしい。
私は指定された席に向かいながら、周囲をちらりと見渡した。
班ごとに数人の生徒がまとまり、そのそばに護衛らしき人間が控えていた。
年齢も服装もまちまちで、いかにも冒険者の風体をした若者もいれば、周囲の貴族に負けない豪奢な服装の老人もいる。
誰がどんな職業なのかは一目ではわからないけれど、どこか“任務”の空気をまとっていた。
私の席の傍には、黒い外套をまとった青年が、静かに佇んでいた。
顔も体格も装備も地味。強いて特徴をあげるなら、ワックスでもなでつけきれなかったのか、ところどころ寝ぐせのはねた髪くらいだろう。
「ミレイユ・カスティエル嬢。護衛を任されました、ハルト・セリグと申します。以後、よろしくお願いいたします」
彼はそう言って、静かに頭を下げた。
私は『旅のしおり』を握りしめたまま、彼の顔を見つめた。
「ミレイユー! 護衛来たってほんと?」
「どんな人? かっこいい? 怖い?」
エリスとルカが、ほぼ同時に駆け寄ってきた。
二人ともクラスは違うけれど、生徒会で知り合って以来、よく話すようになった。
こういうときのテンポも息ぴったりだ。
「ハルトっていう人。無口そうだけど」
「へえ……」
ルカがハルトの方をちらりと見て、口元をゆるめた。
「さすが責任者待遇ね。ちょっと特別感」
「やめてよ」
私は苦笑いで返したけれど、芽生えた違和感は静かに膨らんでいく。
どうもおかしい。
「うちは二人来たよ。槍と召喚士のコンビ。ちょっとあがるかも」
エリスが言うと、ルカが「うちは女の人だった。めっちゃ強そうだけど、怖い」と続ける。
「それ、逆に安心じゃない?」
「いや、なんか睨まれてる気がして……」
他愛もない会話が続く中、私はふとハルトに目をやった。
彼は壁際に控えていて、誰とも話さず、ただ静かに周囲を見ていた。
ホールを出たあと、部屋に向かう廊下で、私とハルトの二人きりになった。
足音が磨かれた木床に響く。
私は少しだけ歩調を緩めて、彼の方を見た。
「あの、ハルトさん」
「はい」
「……あなた、もしかして暗殺者?」
彼は沈黙した。
その沈黙が、答えを探しているのか、それとも言葉を選んでいるのか――私にはわからなかった。




