第八話:計画
男は砦の上から見下ろしている。
服には乾ききっていない血が飛び散っている。哨戒所の人間なのか、襲撃側なのか――判断がつかなかった。
フォルは動じた様子もなく、淡々と話しはじめた。
「悪いな。怪我人と死体を見つけてな。避難できればと思ってな」
男の姿が一瞬見えなくなるも、再び現れた時には槍を手にしていた。
「悪いな。見ての通り閉鎖してんだ。見てわからないほど馬鹿なのか?」
アリアは男の態度が気に入らない様子で、眉間にシワを寄せる。
「あんた何様よ。言い方あるでしょ」
男は挑発気味な態度をとりながら、扉の前へ飛び降り着地した。
男は扉を背にして、背後を守るように前に立つ。
「はっ、半獣が何抜かしてやがる。まぁ、俺は優しいから残飯ぐらいならくれてやるぞ」
男は油のついた包み紙を地面へ捨て、それを指さした。
「ほらよ。飯だ」
アリアは背負っていた身の丈ほどの剣に手をかざした。
「なんだよ。そこはありがとうございますだろうが。」
アリアは怒りに任せ剣を抜くと、男に向かって一直線に進み剣を叩き込む。
男は笑みを浮かべ、アリアの攻撃を軽々と槍で受け流していき、石突で的確に防具の隙間にカウンターを入れていく。
アリアは一度距離を取り、さらに加速し力任せに一撃を叩き込もうとする。
怒りで踏み込みが深い。その一瞬を、男は見逃さなかった。
石突で足を引っ掛けられ、アリアは宙を舞い転がった。
男は倒れたアリアの腹を蹴り飛ばすと、地面へ唾を吐き捨てる。
「黙って消えろよ。優しく言ってやってんだ」
ミスティアは焦って弓を構えようとするも、フォルが静止する。
男はさらにアリアへ追撃を加えようと動き出したが、ハクが割って入った。
「その辺にしといてくんない?穏便にいこうよ」
「俺はお前みたいな、へらへらしてる奴は嫌いなんだよ」
男はハクへ容赦なく、槍を回しながら、穂先を使い首元を切り裂こうと動く。
ハクは攻撃の隙間を縫うように直進し、距離を詰めた。
男は後退し、穂先の間合いを保とうとするも、背に扉がぶつかった。
ハクは男の首元に拳を叩きこみ、男が体勢を崩すと髪を掴み地面へ抑えつけた。
「誰も援護しないけど、君もしかして嫌われてる?」
ハクはニッコリ微笑み、男の顔を地面に擦り付けている。どう考えても嫌がらせ目的なのは確かだ。
男は抵抗し、ハクが地面への押し込みを強くしようとすると、突然ハクの周囲に呪文が浮かび上がり、ピタリとハクの動きが止まった。
砦の人影が後退すると、女の声が聞こえてきた。
「はぁ〜、何やってんの。出禁になりたいの?フォル」
フォルは砦の上へ向かって手を振った。
「久しぶりやな。入れてほしいんやけど」
女は再びため息をついた。
「そもそも飛び降りた馬鹿は、どうやって戻るつもりだったのよ」
砦の上からは笑い声が聞こえてくる。
ハクは男の拘束を解くと、両手を上げて後退しながら、意地悪そうに男へ問いかける。
「どうやって上がるつもりだったか、聞かれてるよ」
男は顔についた土を手で払いはじめる。
「……そりゃ、扉を開けてもらって」
女は指を鳴らすと、扉が開門されはじめた。
「あのね。結界張り直すの嫌だから開けるなって言ったのに。飛び出てどうすんのよ。どアホ」
女は愚痴りつつも、魔法で浮遊し、ゆっくりと地面へ着地した。
褐色の肌、金色の瞳。額の右側に小さな角が生えている。
「この美人さんが、デネブという知り合いでな。まぁ、魔族だから下手に手を出すと腕折られるで、ハク」
「ん?俺?……んん〜俺、優しそうな子がタイプだから範疇外かな」
ハクが冗談っぽく言うと、デネブは握手を求めるように片手を差し出した。
ハクは胸を張り手を差し出すと、その瞬間、後方へ吹き飛んだ。
後ろで様子見していたディーンに直撃して、二人して地面へ倒れ込む。
「あ、ごめん。間違えた」
デネブはわざとらしく言いながら、「中へ入れ」と手をこまねいている。
「おかしいな〜。ここ数日、扱い酷い女にばっか会うんだけど」
ハクはよろよろと立ち上がると、ディーンへ手を差し出した。
「ナイス前衛。助かった!」
「自分も嫌いになりそうです。いや、嫌いかもしれません」
ディーンはハクの手を掴み、立ち上がる。
アリアは先程までと違い静かに拳を握りしめ、扉へ向かって歩き出していた。
ハクとディーンの様子を見に来ていたミスティアだったが、無事とわかるとコクリと頷いた。
「んん〜なんか可哀想なんで、私は優しくしてあげますよ。お金くれたら」
ハクは目を見開き、ミスティアは親指を立てて「どんまい」とでも言うのか、ディーンへ微笑みかけた。
哨戒所に入ると、医療班が倒れていた男を連れて行く。
デネブの話によると、命知らずの野盗の襲撃のタイミングで、数人の冒険者が裏切り、死傷者が出てしまっているらしい。
外で死んでいた冒険者たちは、通信網の復旧に時間がかかるため、ギルドへ向かわせたパーティーだった。
倒れていた男もそのうちの一人であった。
5人は哨戒所内の休憩所、机と椅子だけが並んだ部屋に案内される。
道中で拭いきれていない血痕の跡を見たせいか、鼻の奥に薬品が焼けたような匂いがしていた。だが、この部屋だけは比較的綺麗だった。
「また妙なことになっとるな。危険地帯やんけ、ここ」
フォルは休憩所に置いてあったティーパックに湯を入れて、くつろぎはじめた。
「まぁ、私としては信用できそうなメンバー増えて良かったけどね」
デネブはお菓子を5人の元へ運んできた。
「私の護衛の二人は長い付き合いなんだけどね。正直、他は付き合い浅いしね」
フォルは首を傾げる。
「言うて、俺もほとんど昨日今日の付き合いやで」
「ハク以外は信用できるよ、多分」
アリアは運ばれてきたお菓子を漁りながら言う。
「君、ほんと可愛げ無いね!」
ハクはアリアが食べようと集めていた菓子の中から1つを手に取り、袋から出して口へ投げ入れた。
それを見たアリアは机に乗り、ハクへ掴みかかり取っ組み合いになる。
隣に座っていたミスティアとディーンは、そっと2人から自分の席を離して座り直した。
ミスティアはどこか呆れた顔をしている。
「普段はもう少しマシなんですけど。今日は情緒不安定でダメそうですね。」
ディーンは飛んできたお菓子が目の前に転がり落ちる。
「これ、貰いますね。自分はこんな元気ありませんよ。まぁ……心強くはあるか」
デネブは取っ組み合いをしている2人を無視して話し始める。
「明日には、ギルドが異常に気づいて調査班送って来るだろうから、今夜襲撃来ると予想してるんだけどね」
「ん?引きこもれば良いだけちゃうの?」
「魔力用のタンクと電力機械壊した奴がいたのよ。半殺しにしたけど」
ミスティアは、下ろしていたシェルターの補給物資を見直した。
「最後のシェルター用の物資なら、まだありますけど。足りますかね?」
ディーンは腕を組み考え込んだ。
「そもそも裏切り者って、もういないんですか?隠しておいた方が良いような」
「そうね。言わない方が良いかも。今、負傷していない冒険者は7人。貴方達含め12人。疲れてる所悪いけど、手伝ってもらうわね」
デネブはそう言うと、メンバー編成を決めてくると立ち去り、5人は夜へ備えてしっかりと休むことにしたのであった。
その頃、医務室では。
フォル達が助けた男は、ベッドで目を覚まし起き上がった。
男は起き上がりながら、自身の体の状態を確認した。
周囲を見渡すと首を折られた死体が2人並べられてる。
男は何も言わず、近くにあった時計で時刻を確認した。
「ずいぶんと予定時刻より早いが、どういうことだ?」
医務室の診察台で足を組んでいる男が一人いた。
「タグを確認しろ。お前、錆びてるぞ。時間切れだしくじったな。」
男は自身のタグを確認すると、シルバーだったタグは錆びついていた。
「ここに戻れる賭けに成功はしたが、タグを奪う相手が悪かったわけか」
白衣を着た男は、近くにあった飲料を飲み干した。
「俺1人じゃ、流石にきつい。せっかくお前が戻ってきたんだ。殺されるのを黙って見てるわけがないだろう」
男はベッドから立ち上がると、身に付けていた物を探しはじめた。
「外への合図は飛ばしてある。だが本命の到着には時間がかかる」
白衣の男は苦笑いをした。
「俺達の仕事は、今は時間を稼いで、デネブに何もさせないことだ。対策は準備できてるんだろうな?」
白衣の男はケースから魔道具らしき物を投げ渡した。
「問題がある。お前を連れてきた連中で敵が5人増えた。3人は駆け出しだが、残り2人は教育係って所だろうよ」
男は魔道具を懐にしまい、
「悪いな。他に良い案が浮かばなかったんだ。俺が責任持って可愛がってやるとするよ」
「なら俺は先に結界の破壊に取り掛かる。もうしばらく身体は薬の影響でなまってるはずだ」
「寝ていた分、仕事はする。」
医療班だった男は装備を投げ渡し、部屋を出ていった。
残された男は、装備を着用すると、慣れた手つきで死体を隠しはじめた。
治療用の薬品やポーションを必要な数だけ取ると、残りは処分し部屋から出ると鍵を閉め鍵を折って扉を開かなくする。
「助けるつもりは無かったが、あの出来損ない共も拾っていくか。」
男は口笛を吹きながら、施設の奥へ向って歩きはじめた。
次回の投稿予定は5月17日(日)になります。
確認作業が出来ていないため20時予定ですが、少し投稿時間が遅れる可能性があります。




