第七話:異変
木陰を抜けた先に他のシェルターのように苔むした岩に偽装されたシェルターが見えてきた。
一つだけ、他のシェルターと違うことがある。
それは、扉がすでに開いているという点だ。
ミスティアは足を止め周囲を見渡す。
「私たち以外のパーティーが調査してるんですかね?」
フォルは周囲の地面を見渡し動き始めた。
「手違いの可能性もあるけど。ここでか?」
「血の匂いがする…」
アリアの顔は曇り、その場から半歩後退した。
さっきまでの笑い声が、耳の奥で遠ざかっていく。
近づいていくと、シェルター内部の明かりが赤い筋を照らしている。
――血だ。
「俺が先に入るよ。」
先程まで、はしゃぎまわっていたハクは短剣を構え、身体を屈め、音をたてずゆっくりと中へ入っていった。
アリアはフードを脱ぐと目を瞑り、静かに集中し始めた。
五感の強いエルドは、聴覚にも優れている。
ディーンも静かに剣を抜いて、体勢低くして身構える。
「中へ入っても大丈夫。手伝って!」
ハクの情けない声がシェルターから聞こえてきた。
隣にいたアリアは、「アイツ、マジで何なの」と小声をこぼした。
フォルは扉の前に立ち、手をこまねいている。
「手伝ってやってくれ、俺は見張りをするわ。」
「じゃ、あたしも耳と鼻が効くから」
「流石クランマスターやな。頼りにしてるで。」
アリアは何も言わずジッとフォルを睨みつけた。
ミスティアとディーンがシェルターの中に入ると、血痕が複数あり、かなりの惨状だった。
血があちこちに飛び散っている。
ハクは備蓄から薬を取り出し、すでに治療の準備に動いていることに気づいた。
シェルターの奥には、男が一人倒れている。
ミスティアは駆け寄り、出血している箇所の止血を始めた。
ミスティアに応急処置を任せ、ギルドへ報告の為、ディーンは端末を起動させた。
「電波がない…」
いくら設定端末を触っても圏外という文字が表示されている。
ミスティアは息を呑んだ。
「ここは通信圏内なのでは?」
外から様子を見ていたフォルは、地図を見ながら、
「妨害されてるなら、まずいな。近くの哨戒所へ一旦避難するか」
「なんですか? そこは」
ディーンには何処なのかわからなかった。
「危険な物質が近くにある警備目的の建物やけど、確実にギルドの人間接触できる。」
幸い倒れていた男は意識はないが、生きており、浮遊石を使用したタンカーに乗せて運ぶ事にした。
アリアが帯を腕に巻き、タンカーに男を乗せると
アリアの腰ほどの位置へタンカーが浮き上がった。
ハクは血痕のついた壁を見つめていたが、フォルの元へ近づき小声でささやいた。
「あいつ運んで大丈夫かな?」
「俺も正直悩んでる」
ディーンは二人の声がうっすら聞こえ、シェルターの中を見渡した。
血の量に対して男の怪我は少ないようにも見えるが、正直人の血どれほど広がるかなんて見たことも無く判断がつかない。
シェルターの扉を閉めると、何処か不安そうなアリアが指さした。
「多分、あっちからも血の匂いがしてる。シェルターの中の匂いだといいと思ったんだけど。」
「それは、行きたくないな。」
フォルはため息をつき、アリアが指さした方向に静かに歩み始めた。
しばらく、進むと、茂みの影から腕が見えた。
「こりゃ……酷いな」
フォルは周囲を見渡し、敵はいないと合図をした。
そこには、力技で引きちぎられた冒険者の死体と、切り刻まれた四肢がバラバラの冒険者が複数人倒れている。
あまりの酷さにミスティアは目を反らし、アリアは吐き気を催している。
「この5人、まだ死んで間もないね。血が固まってない。」
ハクは手慣れた様子で、彼らのタグを回収する。
「パーティーかな? Aランクのがリーダーっぽいね」
ディーンは、気を引き締めて周囲を見渡し気になった物を見つけた。
「これって錆タグですか?見たことなくて」
「そいつがつけてたのはね。本人のだったら良いんだけどね。」
錆タグ、ギルドで不祥事を起こし除籍された者あるいは他人のタグを身につけると、タグが錆びてしまう。
彼らの死体は一見すると錆タグの男とやり合ったように見える。
ミスティアは口元を押さえながら、錆タグを身に着けていた死体を見つめている。
「なんていうか、この人怪力ではなさそうですよね」
ミスティアの視線の先には、明らかに上半身と下半身を無理やり引きちぎられたような死体が横たわっている。
ディーンもその意見に同感で頷いた。先程の倒れていた男の方を見る。
「この人も、力があるように見えないというか」
ハクは、しゃがみ込み手掛かりが無いか探している
「置いていくべきな気はするよね。そいつだけ怪我の具合が少ないし、なんで生きてんの?」
「人でなし」
アリアは小言で嘆いた。
フォルはアリアの様子を見た後、少しだけ考えた。
「とりあえず連れて行くか。タグ見る限りシルバーのBやし。それなりに戦えそうやしな」
フォルは頭をかきながらも、連れて行く選択をした。
ディーンには、どちらが正しい判断なのかわからず、黙り込むしか無かった。
歩き出して、しばらく歩くとミスティアは聞きづらそうに声をかける
「あの〜気になったんですけど、そのまだ強さの判断基準わからなくて。」
「私とアリアが一番この中で低いのはわかってるんですが、こう、、戦える相手なのか見極める基準が、、」
フォルは少し腕を組んで考えた後、口を開いた
「細かい話は省くけど、強さだけなら格上には挑まんほうが良いな。まぁ2人がかりならせいぜいFランク相手ならなんとかなるか?」
「ただ、傭兵は同じFランクでも細かいからな同じFランクでもF1とか数字が上がると別物やで」
「折角だし、俺らのランクで基準なるかわからんけど。」
フォル、ディーン、ハクはそれぞれ自身のランクを名乗った
フォルはゴールドのB
ディーンはカッパーのF
ハクはプラチナのA1
白銀、確か上から数えて3番目の部類のはず。ハクがそのランクなら心強い……いや、不安のが何故か勝ってしまう。
アリアは冷たい目でハクを見つめてため息をついた。
「盛るのはダサいよ。」
「おい、こら! 本物だよ、これ?」
フォルは呆れた表情でハクの方へ向いた。
「エリートなんやなハク、、驚きやわ」
ディーンは、こんな状況で締まらなくなるのはどうかとも思った。
するとフォルは何かを思い出し「あ」と言った。
「大事なことやけど、冒険者でもダストとスラグのランク帯には関わったらあかん。クズが多いからな。錆とったら、なおさらアウトや」
「あ~受付嬢の方が言ってましたね。問題多いとそのタグにるとか、錆てるのは除籍された人だって」
「野良の冒険者はそういうの多いからなぁ」
アリアは目を逸らした。吐き気を飲み込み、ぐっと堪える。
「ハクみたいな奴には気を付ければ良いんでしょ。」
フォルは親指を立て、グッドマークを作った。
「悲しいよ、俺は……」
ハクは項垂れたふりをするが、周りへの警戒は怠っていない。
しばらく歩き続けると、硝煙の匂いと、薬品のような匂いが漂ってくる。
五人は平原に入る前、木陰に隠れて周囲の様子を見た。
平原の中央には、周囲の風景と違い金属の塊の建造物がある。砦の周囲には穴が開けられており、塀の高さも優に5m近くある。
砦の正面では橋が持ち上げられ、厳重体制だった。
その周囲には複数人の死体が転がっており、哨戒所の扉は硬く閉ざされていた。
「ん〜これ、まずくない?中身占拠されてたら詰むよ」
ハクは、顔をしかめて哨戒所を見つめている。
フォルは立ち上がると、迷わず哨戒所へ歩き始めた。
「中に知り合いがいる。あいつが落とされてる事は無いと思う。勘で悪いけど、武器は抜かずについてきてくれ」
アリアとミスティアは顔を合わせて頷き、すぐにフォルの後ろをついていった。
ハクは露骨に嫌そうな顔をし、ディーンに「お前が前を歩けよ」と言いたげに指をさしてくる。
仕方なく、ディーンもフォルの後をつけることにした。
砦の前へ着くと、内側から叩かれる音がした。
五人が扉へ視線を向けると、砦の上に数人の人影が現れる。
顔はよく見えないが、あからさまに態度の悪い男が現れ、唾をはいた。
「何しに来た。てめぇらぶっ殺すぞ!。」
突然の怒号に空気は一瞬で凍りついた。
その時、ハクが小さく息をついてディーンの両肩をがっしり抑え込んだ。
「……あ~あ。正面は任せるよ前衛くん。」
冒険者タグについて
タグの色は一色または二色で、一色は個人のみ、二色はクランと個人それぞれの評価となります。
ランク一覧(下から順)
ダスト:要注意人物。
スラグ:警告対象。軽微な問題を繰り返した者。
カッパー/シルバー/ゴールド/プラチナ/ミスリル/オリハルコン
と信用度で色が変わっていきます。
強さに関して
EからSSSまで段階があります。
傭兵ランクについて
冒険者と同じ色分けですが、個人の強さに重きを置いています。
ランクはE3〜SSS3まで細かく区分されており、
冒険者のEランクと傭兵のEランクでは圧倒的に傭兵のが強くなります。
錆タグについて
除籍された者のタグ、または他人のタグを奪った場合に発生します。所有者の魔力供給が途切れると錆び始める仕組みです。見かけたら距離を置くことを推奨します。
次回
5月16日(土)20時頃を予定しています。




