第九話:捨駒
休憩所の隣にある来客用の部屋にディーンは足を踏み入れた。
周囲には原型の無い死体や、頭、上半身、いたる部位がない死体が並べられていた。
デネブが話していた内容には武器庫が爆破された話があった。
この惨状はそれが原因だ。
なぜこんな事を?と考えても無駄なのはわかってはいるが、時々人間という生物が嫌になる。
手の震えが止まらない。
ディーンは何度も深呼吸するが、自身の心臓の高鳴りが止まらない。
昨日は魔物に殺されかけて、今日は人に殺されそうな状況に頭がおかしくなりそうだ。
ディーンは、内臓を撒き散らした死体から装備や使えそうな金具を物色し、使えそうな物を集める。デネブの許可は取ってある。
それでも倫理的に見るとただの追い剥ぎである。遺族はどう思うのか、色んな不安がよぎる。
でも、少しでも生存率をあげるためなら仕方ないと、自分に何度も何度も言い訳をする。
今は自分にできることは、それぐらいしかない。
漁りながら先ほどのデネブの指示を思い出していた。
フォルは休憩所から外れ、ハクとアリアは周囲の警戒ということで見張りに行った。
案の定アリアは納得がいかずかなり不満そうだったが、デネブの指示に従うことにしたようだった。
ディーンは、休憩所に集められていた冒険者達を考える。
もう戦力と呼べない者たちだった。片足の断面に布を巻いただけの男が、壁にもたれて息をしている。
誰も看病をしていない。余裕がないのは理解できるが、ディーンは胸が傷んだ。
先程、五人ほど移されてきた。怪我の軽い、動ける者は見張りに回された。
それに、自分も彼らと同じ間違いなく切り捨てられる側の人間だという考えが頭をよぎる。
少し前に、ハクがディーンに話しかけに来たときだ。
「気を悪くしないでほしいんだけどね。もしなにかあれば俺の近くに来いよ」
初めて見る真剣なハクの顔に困惑した。
「また、肉壁にでもする気ですか?」
「違う違う。デネブは連盟ギルドの人間を編成から遠ざけてんだよ。」
ディーンは意味がわからず、言葉が出なかった。
「ギルドへ報告に外へ出されたのも、連盟ギルドの人間で編成されてたんだよ。野盗に合わせて奇襲を仕掛けたのは全員連盟ギルドが承認した人間だったらしいんだよね。」
「なるほど。自分は数に入って無いということですね」
自身のランクはC、ギルドに移籍したばかりだ。それに、外で亡くなっていた冒険者はAランクとBランクの混成パーティーだった。
「そんな暗い顔するなよな。もう行かなきゃいけないからさ。街へ帰ったら飯でも食いに行こうぜ」
ディーンは途端に不安になった。そういえば昨日死んだチャップも飯の話していたと……幸運なんていつまでも続くわけがない。
でも、こんな所で終わってたまるか。恐怖の中に、どこか悔しさだけが心の底で煮詰まっていく。
死体を漁っていると次第に肉の焼けた匂いがして、胃が気持ち悪くなる。街で食べた肉料理を思い出させ、吐き気を催してくる。
それでも、自分に今できる事は、彼らの遺品で防具を補強すること。どうせ切り捨てられるなら、少しでも死なないように防具を固めておくしか、生きる手段は思いつかなかった。
「大丈夫ですか?私にもできることありますか?」
突然後から声が聞こえ、ディーンは震え上がった。振り返るとそこにはミスティアが屈んで覗き込んでいた。
ミスティアも、顔色が悪い。目の前には爆破で原型のない死体があるなら当たり前の話だが。
「これ、一緒に運んでもらえませんか」
ディーンは木箱に入れた、使えそうな物とタワーシールドを持ち上げ、つい先程ここに並んだ冒険者に頭を下げた。
彼はさっきまで生きていた。ディーンが防具を補強する姿を見て、予備の防具とタワーシールドを譲ってくれた人物であった。
休憩所に戻り、ミスティアを見る。自分でも馬鹿な事だと理解しているし、まだ知り合って数時間ほどだ。それでも、死なれるのは嫌だと思った。
「良ければ、防具の補強しましょうか?」
ミスティアは驚いた顔をして自身の防具を見直した。
「良いんですか?でも、ディーンさんは自分の防具を補強する為に、集めてたんじゃ」
「譲って頂いた方の防具がそのまま使えそうなので。それに呼び捨てで良いですよ」
ミスティアは少し迷った顔をするも、頭を下げた。
「ありがとうございます。そうですか。では私も呼び捨てで、敬語も必要ないです」
敬語の必要がない。ディーンは少し悩んだ。正直年齢やら興味のないディーンは面倒なので全員に対して丁寧な言葉を使う事が多かった。
「そ、そう?えーっと、気になる防具の箇所はある?」
明らかに不自然な声のトーンに少しミスティアは笑みを浮かべた。
「防具のこと詳しそうだし、必要そうなところを直してくれれば」
「わかりました。とりあえず軽装の手足から調整しますか。」
ミスティアは首をかしげた。
「職人さんなんですか?」
「いえ、防具屋の家系で生まれたもので、弟が家業を継ぎましたけどね。」
「そうなんですか。見ていても良いですか?」
ディーンは頷くと、間に合わせで防具の調整をし始めた。手際良く進めていくも、じっと見ているミスティアの視線で少しやりにくい。
片足の装備を数分で調整し終えると、ミスティアに渡した。
「凄い。ぴったりです。なんでわかったんですか?」
ディーンは少し眉間にシワを寄せて、目を逸らした。
「見たら何となく当たりが付くというのか、、」
「なるほど。出発の時に渡したアリアを見てた時は、そういう想像してたんだ」
「違う!いや、、違わないけど違う!」
しどろもどろになるディーンを見て笑うミスティア。ディーンは言い訳も思いつかず黙って防具を補強を続け、数十分経った頃に大きな爆発音と共に施設が揺れた。
建物の電気系統がやられたのか、何度も点滅を繰り返し、不安を煽ってくる。
ディーンは補強の仕上げを素早く済ませ、盾を担ぎ、臨戦態勢に入る。
ミスティアも慌てて装備を装着した。
「今のって……どうしよう?皆いないし」
ディーンもどう判断すべきなのかわからなかった。
「おい、あんたら。今のは多分、奥の倉庫だ。走って入口まで向かいな」
片足を失った冒険者は、ぐったり壁にもたれかかりながらも、2人へ声をかけた。
ミスティアは怪我人を連れて行こうと近づくが、
「やめておけ。俺達はもう無理だ。ここで新入りができることはない。合流しろ」
また、、また誰かを見捨てて生き残るべきなのかディーンの足は止まる。でも、仲間を連れてこれば彼らを連れ出せるかもしれない。
ディーンは拳を握りしめ、声を発した。
「ミスティア行きましょう。仲間を連れてきます。待っててください。」
片足を失った冒険者はニッコリ微笑んだ。
砦の搬入口までの距離はそれほどないはずだ。
2人は休憩所を後にして、走り続ける。
悪寒が走った。理由はないが身体は勝手に動き盾を背後へ向けた。
金属が接した甲高い音とともに、火花が散る。
血まみれになった冒険者が、ヒビの入った剣を振り回し、ディーンを殺しにくる。
ディーンは盾を構えたまま前方へ体当たりをすると、冒険者は後退した。
その時、後方からディーンの頬を何かが掠めた。男の首に矢が刺さり、倒れ込んだ。
「え?ちょっと。」
思わず振り返りディーンは声をあげてしまう。
「思ったよりギリギリになっちゃいました。まぁ、怪我はしてないし……」
ミスティアは苦笑いした。
内心冗談じゃないと言いたくなるも、ミスティアの後方から走ってくるフォルの姿が見えた。
「大丈夫そうで良かった。」
フォルは目の前に倒れていた冒険者を見ると、躊躇なくトドメを刺した。
唖然として見つめる2人へ振り返る。
「こいつ、倉庫に捕らえられてた奴や」
ディーンは、焦りで少し早口になる。
「休憩所にいた方が倉庫での爆発だと言ってました。彼らを運ぶのに人手がいります。」
「それは許可できない。」
フォルの腰から声がした。通信機である。ディーンはその声の主がデネブだと察した。
「見捨てるんですか…外へ出した冒険者達みたいに」
ミスティアは少し驚いた表情をし、フォルは黙っていた。
「対局を見るべきよ。医療室に死体が2つ見つかったの。立てこもれないように倉庫も爆破されたんでしょうしね。」
ディーンは不満だったが、黙って聞き続けた。
フォルは口を開いた。
「倉庫の爆破は予想通りやな。生き埋めの可能性もあったからなるべく分断されたくなかったんよ。」
「私達が運んだ人、、なくなったんですか?」
ミスティアは小さな声で確認をする
「居なかったわ。多分その男ともう1人大柄な医療班の1人がネズミ(裏切者)よ」
フォルは腰に手を当て、片手で前進むように合図をする。
「悪いな。あいつを運ぶように指示出したんは俺や、俺の落ち度や。」
「いいの、敵が見え.…」
通信機から声が途切れ声が消えた。
「設備内の通信もダメにされてもうたか。」
ミスティアは不安そうにフォルを見つめた
「アリアと、、ハクさんは?」
「大丈夫や。もう他のメンバーは上に集めてある。俺は2人を連れてくるよう言われて迎えに行ってる最中やってな。」
フォルは小走りになり前を走り出した。
ただ、ディーンには良く聞き取れなかったが、ミスティアの小声が頭から離れなかった。
小さな声で「嘘つき」と言った言葉が。
もし、仮にミスティアの言った言葉がその通りならディーンもミスティアもデネブの数に入って居なかったのかもしれない。
理由はわからない。でも1つ言えるのは、胸糞悪い気分だということ。
3人が出てくると、身体に包帯を巻いた冒険者が扉の前に資材を押し込み封鎖した。
ディーンはその様子を見て固まってしまう。
「連れて行くと言ったのに自分は、、、」
その様子に気付いたミスティアはディーンへ近づいた。
「デネブさんの指示です。早くやっつけて迎えにいきましょ。」
外では結界を攻撃する音が聞こえてくる。
デネブの周囲には護衛の男女が立っていた。
1人は身の丈ほどある大きなケースを背負い腕は丸太のように太く勝てる気がしない。
もう1人の女はバックラーを手につけ片手に剣を持っている。
ディーンは武器に詳しくはないが、魔剣の類に見える。金属に赤紫のシミが薄っすらついており、何度も補強されたような年季を感じる。
おそらく特殊武器の1つなんだろうと思う。
長年同じ武器を使い続けると本人の魔力で武器が変異すると言われている。彼女の武器はどれほどの魔物や人の血を吸い続けたのだろうかと考えてしまう。
「全員集まったのね」
何が全員だよとディーンは内心思ってしまう。
デネブと護衛、槍の男を含めて4人。
怪我人は2人いた。
全員で11人。戦えるのは9人。
少なくともデネブの言っていた「7人」より戦える冒険者は3人少ない。
そう考えるとかなりまずい状況だ。
その時、外の結界にノイズのような物が走る。
「心臓部は守れてもやっぱり予備を潰されたか、確認出来てる敵の数は?」
デネブの問いに対して槍を持った男が答える。
「外は10人ぐらい、中に2人か?医療班のゴツい奴は確かAランクだろ」
デネブは何かに察したのか閉ざされていた貨物用の通路に目を向けた。
「待ってくれなさそうね。」
彼女は虚空から杖を出現させると、先ほどディーン達が出てきた扉の隣にある、物資の搬送用の大きな通路から大きな音がした。
厚い金属の扉が歪み、鈍い音を立てて倒れ、その中から2人の男が現れる。
フォル達が運んだ男が血が滴った武器を持ち、片手で人を引きづっている。
「おいおい減ってねぇじゃねえか。あの死に損ないしくじりやがったな」
血のついた白衣をガタイの良い男は脱ぐと、はち切れそうな筋肉が服の下からでも見えてくる。
ガタイの良い男は肩を回し、音を鳴らす。
「爆薬が無駄になったか、最初から最後まで使えない男だ」
「最大の敵は無能な味方ってか、確かにアイツがしくじらなければこうなってなかったろうな。」
男は笑みを浮かべながら外の扉の方へ目を向けた。
ディーンは男の視線に目を向けると、金属の扉は溶けて崩れ落ち、ぞろぞろ人が入ってきた。
最悪の状況に、ディーンは息を飲んだ。
遅くなってしまいました。
次回の投稿予定日は20日(水)となります。




