表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木漏れ火の断章-残火はまだ知らない-  作者: ここあらず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

第五話:巻かれた釣餌



夜が明けきらない頃、ディーンは宿を出る。

昨日の帰りに買った花束を、亡くなった者たちへ供えた。


チャップとは、上手くやれそうな気はしていた。


あの時、自身が状況を見て動けていたら、チャップは死なず、エリナの怪我は防げたのでは無いかと自問自答を繰り返す。


「いや...そんな考えは、おこがましいか」


ディーンは近くにあったベンチに腰を下ろす。集合まで、まだ二時間ある。


正直、生きている実感が、まだない。


――休みたかった。


けれども治療費がかかる今は少しでも余裕が欲しい。


静かな時間が流れた。

手持ち無沙汰になって、端末を開く。


最近の材料の値段や相場を、ただ黙々と調べ続ける。


そうこうしているうちに、早朝の依頼書の更新がされる時間が近づいてくる。


ディーンは昨日の副ギルドマスター――ノワールの話を思い返していた。


『君は外部の人間だ、見ている景色が違うだろう?時間がある時でいい、何か感じたら報告してくれ』


ディーンは端末を閉じ、腕を精一杯広げて立ち上がる。


いつもは気にしていなかったが、周辺の建物は金属を打ち付けたような無骨なものが多い。


それに比べてギルドは木造で、派手さはない。なのに、周囲と違って少しだけ落ち着いて見えた。


「歩いていれば、嫌でも1日が始まる、、か」


自分にそう言い聞かせて、ディーンは歩幅を少しだけ速めた。


掲示板の前には、もう人だかりができていた。冒険者が報酬額を凝視し、受付嬢が紙の依頼書を並べていく。


紙の依頼は、急に入った仕事や、期限間近で報酬が上がった仕事が混じる。早いもの勝ち――その分、地雷も混じる。


ディーンは依頼書に目を走らせ、息を吐いた。


(締切日、依頼内容、金額、発行者、情報提供者のニックネーム……全部記録していたら終わらないよな……)


――ノワールの話では、偽装の件は実在している人物の名前だったが、彼らは関わって居なかった。


本来見落とされることは無いが、エーラはこの緊急性の高い依頼書に埋もれた1枚で悲惨な目にあったのだ。


どれも自分には縁のない仕事に見える。


運搬、護衛、巡回。名前の知らない区画、知らない人間、知らない規則。


子供の頃なら、憧れたのかもしれない。


でも今は違う。報酬の下に並ぶ条件が、全部心に刺さる。


必要な等級。必要な実績。必要な能力。


どれも足りない。足りないものが多すぎる。


偽装の件だって、読んで分かるなら苦労しない。エーラの偽装された依頼書を見たが正直違いがわからなかった。


(ギルド職員でも見つけられてない情報を、どうやって調査しろってんだ)


それでも、金は前払いで受け取ってしまった。


エリナの治療費が足りなかったからだ。今更返せるわけがない。それにまあ……エリナには色々助けられてきた。ちょっとぐらい背伸びをして、安心させたい気持ちもある。


ディーンは紙から目を離し、首を回して目頭を押さえた。


「はぁ~、エリナが居たらな、、」


ここ最近は依頼を選ぶのを、エリナに任せていた。


そもそも、ディーンも冒険者になったのは半年前であり、依頼書の違いや違和感なんて感じたことなんて一度も無い。


ディーンは、なんとなく名前と依頼Noだけメモしていく。突然、肩を叩かれた。


ディーンは肩が跳ね上がった。


背後にはフォルが串に刺さった肉を食べながら立っていた。


「真面目やな。魔物の時期や依頼内容の流れが分かれば、準備出来るもんな。」


ディーンは、メモしていた紙をポーチへしまう。


「お、おはようございます。 依頼内容の流れ?ですか?」


フォルは肉を食べ終えると、腕を組んだ。


「今の時期は、巡回や護衛が多い、もうしばらくすると冥樹の森討伐依頼や、街中依頼が増えるからな」


「なるほど、、、そういうのあるんですね。」


「まぁな、それに色々巻き込んで悪いな。今回の依頼よろしく頼むわ」


ディーンは軽い会釈をすると、フォルが「行こうか」と声をかける。依頼書は全て見終えていなかったが、事情を話すわけにもいかず後ろをついて行った。


集合場所には、既にミスティアとアリアが座っていた。だが、空気が変だ。


2人の正面に、陽気そうな男が居座っている。妙に距離が近い。


アリアは露骨に顔をしかめ、ミスティアは冷えた目で男を見ていた。


フォルは立ち止まり、ディーンの方を振り返った。


「……なぁ?俺、詳しく依頼の話聞いてないんやけど。あれ同行者か?」


ディーンは男を見て、首を横に振る。


「いや...…見たこと無いですね。」


「はぁ、、早速絡まれてるのか。朝からめんどいなぁ」


フォルは頭をかきながら、少しペースをあげて歩き出した。


周囲を見渡していたミスティアの視界に入ったのか、ミスティアは席を立ち、飛び跳ねながら手を振っくる。


何処か嬉しそうな表情で。


「おはようございます!。あの~新しい方増えたんでしょうか?」


アリアはもっと直球だった。


「ねえ。私コイツいや!」


アリアは椅子の背を蹴るように立ち上がる。


直球すぎて、失礼にも思える。とはいえディーンも、アリアの気持ちが理解出来る。


正直、あの男は面倒くさそうに見えている。


座っている男は、何処かわざとらしく悲しげな表情をする


男は、当たり前みたいに二人の名前を呼んだ。


「はぁ~俺は悲しいよ。フォルとディーンだろ?話は聞いていると思うけど、俺はハクね!」


フォルとディーンはお互いに顔を見合わせると、2人揃って顔を横に振る。


「いや、知らんぞ。お前誰や。」


フォルの声のトーンは少し下っていた。


「ええ〜っと……残りはアルケインさんだけですよね?」


ディーンは少し大きめの声で質問してみる。


それを聞いたアリアは席を立つと、大声で文句をいう。


「やっぱ不審者じゃんか!何こいつ!キモい!」


ハクと名乗った男は、口を開けたまま固まってしまう。


「ん?えっ、、???いや、、、アルケインから聞いてないの?俺代理なんだけど。」


「..…初耳やけど」


フォルは頭をかきながら、困った顔をしている


ハクは机に手をつき、うなだれはじめた。


「あの野郎、何が伝えておくだ! いーっつも報連相にうるさい癖してこれか!?」


急に怒り出した、ハクを見てその場に居た4人は固まった。


小走りの足音が後方から聞こえてきた。若い受付嬢だ。


ディーンは、初めてギルドに来た時に案内をしてくれた、研修中とつけていた女性だと思い出した。


確か名前は……ミランダだったっけ……人の名前を覚えるのはあまり得意ではないものの、エリナと同年代ということで二人は盛り上がっていた為、印象は残っていた。


「すいません!。その人は一応ちゃんとした代理です。」


ハクは目を見開くと抗議する。


「一応、、?いち、、、?ちゃんとした代理!? ちょっと昨日助けてあげたのに酷くない!?」


「……別に貴方に助けられた訳ではないですが。」


「.…..まぁ、、、確かに俺見てただけだもんな。」


ハクは顎を引くと、妙に素直に納得しはじめる。


フォルは呆れながらも席へつくと


「それ、俺らが来る前に言えたんじゃないか?」


フォルは受付嬢を見て、首をミスティアとアリアの方向へ傾けた。


ディーンもそれは思った。あの微妙な空気というのか、事故は未然に防げていたように思える。


「いや……これなんでちょっと....…」


眉をひそめ、一歩後退する受付嬢。


ディーンはいたたまれない気持ちになった。自分が言われたら、受付に行けなくなりそうだと思う。


かくいう言われた本人は、何故か笑顔であった。


「んん~あれ?意外にもそっちもイケる口かな?悪くないね。」


ミスティアはため息をつき、アリアは小声で嘆いた。


「キモい」


微妙な空気になったがこの場で年長者であるフォルが仕切り直す。


「研修に代理って初めて聞くけど、可能なのか?」


「実は、、、昨夜色々ありまして、、」


受付嬢が気まずそうに答えると、ハクは仁王立ちする。


「仕方ない。活躍を話してやろう!」


少し時間は遡る。


アルケインとハクは昨日の夕方頃にギルドに足を踏み入れた。


アルケインはハクを睨みつけ、小言を言う。


「どうせ、お前適当に仕事してたんだろうが」


「いやいやいや?もう7年近く連絡してこなかったのそっちじゃんか!」


「前払いの依頼で、まだ続いているはずだが」


「まぁ?その通りではあるんだけど、予想外というかさ?色んな苦労があったんです。はい。」


ハクは言い訳を並べながらも、何処か反省しているとは思えない態度だった。


突如受付から怒鳴り声が聞こえる。


「もう1週間経つんだぞ!それに、今日には捜索する手筈だったはずだ!」


「ちょっと、、キッシュの兄貴落ち着いて、、」


「お前は黙ってろバルト」


その目の前には胸ぐらを掴まれ、半泣きになる受付嬢がいた。


周囲の者たちが止めに入ろうとし、騒ぎは大きくなっていった。


周囲からは、噂話が聞こえてくる


「そういえばそこのクランマスター達はまだ消息不明なのか」


「キッシュも大変だよな、ネームドが出てギルドが人員避けなくなったんだろうよ」


「でも、誰も行きたがらねぇだろ?Sランク冒険者のパーティーの消息不明なんてよ」


アルケインは少し考えた素振りをすると歩き出す。


「行くぞ。」


「あの受付嬢可愛いな〜。まぁ、関わらない方がいいか。」


ハクは、アルケインに話しかけたつもりだったが、隣に姿は無くあろう事か、アルケイン騒ぎの元へ向かっていた。


怒号を上げるキッシュと呼ばれていた男に近づくと、アルケインは声をかける


「おい、これで足りるか?」


アルケインは傭兵のタグを見せると、受付嬢の顔が和らいだ。


キッシュは胸ぐらを掴んだまま固まっていたが、いつまでも胸ぐらを離さない事に痺れを切らした受付嬢は、鼻筋を目掛けてぶん殴った。


殴られたキッシュは鼻を押さえていたが、鼻血で服が血まみれになった。


本人も殴られると思っていなかったのか呆然としていた。


「確認してきます!そこでお待ちください!」


そう言って立ち去ったのだ。


ハクはその一連の光景を自慢するように説明し、その影響でハクが代理として参加することになったと。


「いや~!あのパンチ素晴らしかったよ。ぜひ俺も.…..」


フォルは話を被せる


「なるほどな。アルケインってよりはシェードの代理なのか。」


フォルは何処か納得した表情をして頷いた。


ミスティアはハクを見つめていた。


ハクは嬉しそうに手を振るが


「その話だと、ハクさん何もしてませんよね」


その場にいた者が感じていた事を真顔で質問するミスティア。


笑いが止まらないフォルに対して、悲しそうにするハク。


ハクの動きはわざとらしくも感じたか、初めてのパーティにしては何処か雰囲気が少しだけ和らいだようにディーンは感じた。


しばらくして、フォルたちがギルドを後にするのを二階から見送った後、シェードが沈黙を破った。


「……なぁ。なんでディーンを引き抜いたんだ?」


ノワールはすぐには答えない。しばらく沈黙した後、ようやく口を開いた。


「移籍をさせたのは、あのクソエルフだ。……君とエーラに会う場を作ったのは、私だがね」


「……治療費を建て替えたんだってな。何を企んでる」


シェードは目を細めた。数年付き合ってる。こいつが善意で金を出すはずがない。


「未来ある若者の治療費を立て替えるのが、そんなに奇妙か?」


「……ふっ。よく言う。そんな聖人君子、初めて聞いた」


「偽造の件、俺も答えを探してる。だがな――誰かを危険にさらすような事はするなよ」


シェードは持たれていた柵から離れると、その場を後にする。


ノワールは何も言わず、ただ見送った。


背を向けて去っていく姿が遠のくと、彼は誰に聞かせるともなく独り事を言う。


「……相手が理性的なら、助かるんだがな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ