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木漏れ火の断章-残火はまだ知らない-  作者: ここあらず


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第四話:死に損ないと冷めた料理


ディーンは、冷めかけた料理を手にして歩いている。


受付嬢にギルドの応接室まで連れてこられた。


「こちらです」


扉が開き、高級そうな家具、黒と白で整えられた空間に足を踏み入れた。


シェード、ディーン、ミスティア、アリアは席に付くと、


受付嬢は事前に用意され置いてあった用紙を読むように言う。


「シェルターへの物資補給と点検をお願いします。


ミスティアさん、アリアさん、アルケインさんは研修を兼ねます。担当はフォルさんです」


紙には、運搬する品と担当するシェルターの場所が記載されていた。


ディーンは、自身が何故この場に居るのかわからず、鼻の奥で笑いそうになった。


物資補給は割と人気の仕事だ。金は悪くない。低ランクには、報酬が高く新人の取り合いになる。


実はこの数日この依頼をエリナと一緒に受けようとするも枠が空いていなかった。


「……肝心のフォルとアルケインが、この場に居ないじゃないか」


シェードは苦笑いをしながら質問をした。


受付嬢は、紙の同じ行を指で押さえたまま言う。


「彼らには後ほど打ち合わせをします。」


ディーンは口を開きかけて、言い方を変えた。


「……荷物、返してもらえませんか。自分は関係ないでしょう。報告だけして帰ります」


依頼書の同行欄に目を落とす。並んだ名前の中で、自分だけが抜けている。


――部外者だ。そう言える。


受付嬢の視線が、顔と紙を一度だけ往復した。


「お仕事は必要でしょう?」


必要だ。エリナの治療もある。金は欲しい。


受付嬢は薄い端末を取り出して触りはじめた。


「とりあえず、ディーンさんも追加しておきました」


「……とりあえず?」


横でシェードが小さく吹き出した。笑うというより、呆れて息が漏れた感じだ。


「はは……そう来たか」


ミスティアは紙を見下ろしたまま、言葉を探す。


「研修なのは分かりますけど……ここに来てから、強引すぎませんか?」


アリアは腕を組み、隠す気もなく言う。


「行こ、ミスティア。やっぱ変だよ、ここ」


受付嬢は一拍だけ黙った。考えているのか、考えるふりなのか分からない。


その間に、シェードが椅子にもたれたまま言った。


「まぁ、シェルターの場所は覚えておいて損はないぞ。ギルドから物資の一部を貰えるしな」


ミスティアは小さく頷いた。


「……確かに魅力的ですね……避難場所は大事ですし、物資が出るのは助かります。」


受付嬢は、紙の上を指でなぞる。


「シェードさんとディーンさんは、このままお話があります。担当が参りますのでお待ちください」


「は?」


シェードの声が、素で漏れた。


「ミスティアさんとアリアさんは、冒険者登録の手続きが進んでいます。今なら本日中に間に合います。次は三日後です」


受付嬢は立ち上がり、二人を促した。


シェードは何かに気付いたのか、小さく鼻で笑った。


ミスティアとアリアは驚いた表情で固まった。受付嬢は二人を見向きもせず、部屋を出ていく。


扉が閉まった。


ミスティアは、シェードとディーンに一礼した後、アリアを連れて受付嬢の後を追った。


残ったのは、シェードとディーン。


ディーンは机の端を見て、遅れて気づく。


「……荷物、持っていかれたままなんですけど」


シェードが笑う。


「酷い茶番だよな。まぁ……俺も、ここまで強引な話になるとは思わなかった」


少し間を置いて、シェードは声を落とした。


「俺の予想だが。フードを被ったアリアって子と、さっきの受付嬢は同族だ」


「そうなんですか? 知識が疎くて……」


「……プログレスティアって国、知ってるか?」


「年中戦争ばかりの、肉体を機械化している……イグニスって呼ばれる種族の国でしたっけ」


「屍人って言わないんだな」


プログレスティア。軍事国家で奴隷や人体実験など悪名高い。

その国の人々を肉体の大半を機械化しており、屍人言われ、忌み嫌われる種族である。


ディーンの知識はそれぐらいしかないが、人生で一度たりとも足を踏み入れる気も起きない国だ。


シェードは頷き、短く付け足す。


「最近はエルドの中でも白狼の奴隷が増えたって話だしな」


エルドは主に獣人と言われる混血種の種族の総称だ


ディーンは言葉を選びながら、ぽつりと零した。


「……フェンリスティア公国は敗戦したんですよね。」


「ああ、プログレスティアにな」


「それで、信頼できる人と組ませたかったんですね?」


「フォルに、だろうけどな。ギルドマスターは元義姉だからな」


「え? フォルさんはヒュム(人族)では?」


「そうなるよな? あの顔で、エルフと元義姉って笑えるだろ」


シェードは肩をすくめた。


「……たぶん俺たちは、巻き添えを食らったんだろな。」


その瞬間、扉がノックされた。


入ってきたのは男女二人。片方は、エーラだった。


エーラは軽く会釈して、近くの席に腰を下ろす。


もう一人の男は、顔色が悪い。血の気が薄いというより、光が当たっていないみたいな白さだった。


服装はきっちりしている。そこだけが妙に浮いて見える。受付の空気とは明らかに違う“上の人間”だった。


「悪いね。君たちとは話をしておきたくてね」


男は椅子に座りながら言い、言葉の調子だけは妙にフランクだった。


「早速、本題に入ろうか」


「確認したい。昨夜のネームドの件――見たままを、順に」


さっきまでの“手続きの空気”とは違う。


部屋が少し狭くなった気がした。


シェードが面倒くさそうに眉を動かす。


「なぁ、ノワールさんよ。話はいいんだけどさ。飯冷めてんだよ。まだ予定より早いだろ」


エーラも首を傾げる。


「私も早めに来たはずなのですが……受付の方に呼ばれました。時間を間違えたのかと」


ノワールは嫌そうな顔をする。


「どこかのクソエルフ(ギルドマスター)が好き勝手したせいで、割を食っていてね。……食事しながらでいい」


ディーンは一拍遅れて口を挟んだ。


「あの、すみません。自分は依頼の内容と、タグの提出だけかと思っていたんですが……」


ディーンは冒険者のランクを示すタグを差し出し、データ提出の確認だけで終わる――そう思っていた。


被害が大きい以上、調査が長引くのは覚悟していたが、口頭での報告まで想定していなかった。


ノワールは鞄から機材を取り出しながら、思い出したように言う。


「そういえば、君とははじめましてだね。ノワールと呼んでくれ」


「肩書は……副ギルドマスター、ってことになってる」


(この短時間で、ギルドの上の方とばかり会う羽目になるとは思わなかった)


ディーンは表情を固めたまま、短く頭を下げた。


---




ノワールは紙束を机に揃え、上の一枚だけを指で弾いた。


その一瞬で、エーラの視線が紙に吸い寄せられる。


「エーラ、君の受けた依頼内容はこれで間違いないかな?」


ノワールの口調は軽い。


「ギルドの記録したデータと報告内容が違う話は耳にしているんだけどね」


「順番に進めていこうか。まぁ、ある程度は私の耳に入っている。依頼、支給品、地図――この三つを確認しておきたくてね」


エーラは黙って、依頼書の文面を目で追った。


「……今回の討伐はネームド一体で、特殊能力もない個体――プレーンの討伐予定でした」


ディーンは背中が冷えるのを感じた。


「実際は、プレーンどころかユニーク個体――しかも札付きの疑惑まで出てるとはね」


ノワール眉間にシワを寄せ、足を組み直した。


ディーンは頭の中で、ギルドの“ネームド”に関する説明を思い返した。


プレーンは、フィジカル面が異常発達した個体。


ユニークは、特殊な能力を備えた個体。


札付きは、それらの混合――あるいは複数の特殊能力を抱えた個体だ。


毎年出る犠牲者の大半は、いつも札付きが占めている。


依頼が偽物というより、依頼の中身が嘘であり、確実に依頼を受けたものを殺しに来ていると感じてしまう。


シェードがぼそっと言う。


「……久々だな」


「ああ。依頼の偽装は今回で2回目だ。あの時と同じか君には確認してもらいたくてね。」


シェードの目を抑えた後に、エーラ持っていた依頼書を受け取ると目を通し始めた。


ノワールは、ケースから焼け焦げた導蟲銃と、一枚の地図を取り出し、机の上へ置いた。


---


ノワールは手袋をつけると導蟲銃を撫で、焦げ跡をなぞった。


「私の知る限り、このような壊れ方はしない認識なのだがね。」


ディーンは、その導蟲銃が昨夜自身が使っていたものだと気付く。


「それ……自分が昨日使っていたやつですよね」


エーラが焦げ跡を見て、短く息を吐いた。


「……支給のロットは?」


ノワールは銃の根元を指で叩いた。


焦げの下から、刻印が覗く。


「デタラメだった。現在他にないか調査中でね。」


シェードの目つきが変わる。


「とんでもない奴が居たもんだな。」


ノワールは頷きもしない。


「確認に数日はかかる見込みでね。」


「何か心当たりが無いか聞いておきたくてね」


「チャップという冒険者の先輩から渡されました。ただ……その……昨日亡くなりました」


「そうか……思い出させてすまないね」


---


ノワールは謝罪すると、地図を広げる。


部屋がとても静かで、廊下の足音が聞こえてくる。


「アルケインが持っていた地図だ。隣国で守衛から買ったらしい」


エーラは少し困惑した様子で地図を覗き込む。


「そういえば、彼は道に迷ってあの場に居たとおっしゃってましたね」


ディーンも視線を落として、違和感の位置で止まる。


地図の道のりは途中まで正しい道のりだったが、徐々に道を反れるような記載がされている。


「道案内ってより誘導ですね……これ」


ディーンは声に出してしまった。


シェードが、ほんの一瞬だけ目を細めた。


「……近くの国から出国した冒険者が、時々消えるって話。あれの線か」


ノワールは地図を畳まない。


「これに加えて、街の結界に人為的な干渉の後が見つかってね。困ったもんだ」


ディーンは喉の奥が乾くのを感じた。


もし、自分この街へ来る時にこの地図を受け取っていたら、この場に居なかったのかもしれない。


ノワールは椅子にもたれた。


フランクな顔のままだが、声のトーンだけ徐々に下がる。


「馬鹿げた偶然が重なっているからね。」


シェードは依頼書を机に置いた。


「調査にこの2人も参加させるんだな。」


参加ということは、シェードは元々ノワールと

何かを調査していたんだろうか?

ディーンは頭に少し疑問がよぎる


ノワールは視線を上げる。


「それぞれ、立場や共通点は違うだろう? クソエルフ(ギルドマスター)のせいで、私の予定は狂いつつあるがね」


「――さて。タダ働きは嫌だろう? この件での調査報酬の話をしようか」


ノワールは契約書と思われる用紙を2枚取り出した。


「ここでの話は他言無用で頼むよ」


ありがたい話だ。……納得はできないが、引き受けるしか選択肢はなかった。


それに、この調査の話も依頼の話も断る機会を与えられていないようにしか思えない。


ネームドに遭遇した。

ただそれだけで、この場に参加する話に繋がる

ものなのか。疑問が消えない。

次回の更新予定日は5月13日(水)23時頃の予定となります。

基本的に[水、土、日]に投稿の予定となります。

週3投稿を予定していますが、変更や出せない場合後書きに前もって記載します。

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