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魔王(よしこ62歳)と勇者パーティ  作者: 歩人
Arc4: 聖教会の子どもたち

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第45話: 新入園児の朝

◆よしこ視点




 朝。


 鳥の声で目が覚めた。窓から光が入ってる。




 ——あ。


 シオンくんたちが来てから、三日目の朝や。昨日までは何かとバタバタしてたけど——今日から、ほんまの日常が始まる。




 保育園の園長時代を思い出す。定員30人。朝の受け入れが一番忙しかった。保護者が「先生おはようございますー!」って子ども預けて走っていくねん。


 30人に比べたら11人。余裕やん。




 ——いや。




 廊下を歩いて気づいた。




 トイレの前に列ができてる。




「……並んでる(^^)」




 レオンくんが壁にもたれて目を閉じてる。半分寝てる。シオンくんがその後ろで直立不動。軍人の姿勢で待ってる。ミーナちゃんが一番後ろで「わたしは大丈夫です」って遠慮してる。




「ミーナちゃん。大丈夫やない顔してるで(^^)」


「は、はい……問題ありま——」


「もう一個あるで。奥の。ティアちゃんに聞いたら案内してくれるわ(^^)」




 ミーナちゃんが小走りで去っていった。微笑んだまま。でも足は速かった。正直や。




 シオンくんが振り返った。灰色の目。




「……魔王殿。おはようございます」


「おはよう(^^) シオンくん、朝は敬語やなくてええよ」


「……了解しま——おはよう、ございます」




 敬語やん。まぁええか。




 レオンくんが薄目を開けた。




「……うるせぇ。朝から元気かよ……」


「おはよう、レオンくん(^^)」


「……おはよ……ございます……」




 寝ぼけると敬語が出る子、保育園にもおったなぁ。




 トイレのドアが開いた。ドルガが出てきた。210cmが通ると廊下が揺れる。




「ふん。朝の陣取りか。——邪魔だ、小僧ども」


「おはよう、ドルガくん(^^)」


「……フン。おはようございます。——ではない。おはようだ」




 照れてるやん。210cmが照れてるやん。






◆ティア視点




 11組。


 布団が——11組。




 干さなければ。全部。


 先代魔王様の時代は2組だった。魔王様とヴェルザ様の分。わたしとピプ様は自分で干していた。メル様とドルガ様は——干さなかった。干さない種類の方々だった。




 今は11組。




「ティアちゃん、手伝うで(^^)」


「い、いえ! 魔王様にそんなことは……!」


「何言うてんの。布団なんか園長時代にお昼寝布団何十枚も干してたわ(^^)」




 魔王様が布団を抱えて中庭に出ていった。尻尾がぱたぱた——いけない。わたしの尻尾が勝手に。




 中庭の物干し竿。足りない。圧倒的に足りない。




「ヴェルザ様。物干し竿が……あの……足りません」


「…………11組ですか」


「は、はい……」


「……かしこまりました。手配します」




 ヴェルザ様の金色の目が遠くを見ていた。300年仕えて、布団を11組干したのは初めてなのだと思う。




 レオン様の布団。——汗の匂い。ちゃんと寝たみたい。よかった。


 リーゼ様の布団。——きれいに畳んである。几帳面。


 ガルド様の布団。——大きい。190cmだから。布団が小さい。新しいのを用意しなくては。


 ドルガ様。——干す前に直した。形が変わっていた。寝相が悪い。210cmの寝相。




 シオン様の布団。——折り目が正確。軍隊式。でも少しだけ枕がずれていた。


 ミーナ様の布団。——濡れていた。枕のあたりが。涙の跡。嬉しい涙か、悲しい涙かはわからない。でも——泣けたなら、よかった。


 トール様の布団。——重い。190cm。もう一つ大きいのが要る。ガルド様のと同じサイズ。




 メル様が紅茶を持って中庭に出てきた。




「あら。大変そうでございますわね、ティア」


「は、はい……11組は……」


「ふふ。わたくしは干す側ではございませんので」


「…………」


「冗談でございますわ。——この紐を使いなさい。わたくしの魔法で強度を上げてありますから」




 メル様がリボンを渡してくれた。物干しロープ。紫色。おしゃれ。


 尻尾がぱたぱた——いけない。




「……あ、ありがとうございます、メル様……」


「礼には及びませんわ。——ところで、11組の次は洗濯ですわよね」


「…………はい」


「何人分?」


「……11人分です」


「…………がんばりなさい」




 メル様は紅茶を飲みながら去っていった。手伝わないんかい。




 ——あ。今の、心の声。魔王様が移ったのかもしれない。






◆よしこ視点




 厨房。


 パンクしてる。




 ガルくんが鍋を三つ同時に回してる。スープ。炒め物。粥。190cmが忙しく動いてる。




「ガルくん、大丈夫?(^^)」


「だ、大丈夫です! 11人分なんて……えへへ、やったことないけど、やってみます!」




 トールくんが横に立った。185cm。並ぶと厨房が狭い。




「……手伝う」


「ほんと!? じゃあ皿を並べて——」




 ガシャン。




「…………」


「…………」




 トールくんが皿を一枚、割った。




 二人の目が合った。




「す、すまない……」


「だ、大丈夫だよ! 割れるよ皿は! 僕も昨日2枚割ったし……」


「……2枚?」


「あ、あの一昨日は3枚……」




 二人して下を向いた。190cmと185cmが肩を落としてる。遠近感がおかしい。




「あんたら(^^) 皿なんかいくらでもあるがな。気にせんでええよ(^^)」




 二人が同時に振り返った。同じタイミング。同じ角度。似てる。この子ら、ほんまに似てる。




「……よしこさん」


「……よしこ殿」


「ほら、皿は後で補充したったらええねん。それより——パンは?(^^)」




 ガルくんの目が光った。




「焼けます! もうすぐ!」




 オーブンからパンの匂いがした。焼きたて。ええ匂いや。


 トールくんが鼻をひくひくさせてる。




「……いい、匂いだ」


「でしょ!? えへへ……」




 ガルくんが嬉しそうに笑った。この子がパンの話する時の顔、ほんまにええ顔するわ。








 食堂。テーブル二つ繋げ。昨日と同じ。


 全員集合。




 メルちゃんが定位置(窓際の端)に座った。紅茶を注ぎ直してる。


 ドルガが「フン」と言いながら座った。テーブルが軋む。


 ヴェルちゃんが全員の着席を確認してる。出欠取ってる。四天王筆頭が出欠を。


 リーゼちゃんがパンの匂いを嗅いで——ほんの少しだけ、目が開いた。この子が匂いに反応するのは分析魔法の副産物やけど、今のは多分それやない。




 シオンくんが——椅子の座り方がわからないみたいに、背筋をピンと伸ばして座ってる。食堂やで。リラックスしてええんやで。




「シオンくん。肩の力抜き(^^)」


「はい——了解であります」


「それトールくんの台詞やで(^^)」


「……失礼しました」




 トールくんが首を傾げた。自分の台詞を取られたことに気づいてない。この子はこの子でおもろいな。




 ガルくんがパンの山を運んできた。湯気が立ってる。




「で、できました! 11人分! ……ちょっと多いかもしれないけど……」




 多い。明らかに多い。20人分くらいある。




「ガルくん、張り切りすぎやで(^^)」


「え、えへへ……だって、みんなに食べてほしくて……」




 スープをよそう。炒め物を盛る。粥をよそう。


 トールくんが皿を配ってる。慎重に。さっき割ったから。一枚ずつ両手で持って、そーっと置いてる。


 レオンくんが「遅ぇよ」って言ったけど待ってる。




 ミーナちゃんがパンを受け取った。




「……温かい」


「焼きたてだから! えへへ!」




 ミーナちゃんの水色の目が——少し揺れた。




 全員揃った。11人。




「いただきます(^^)」




 ばらばらの声。昨日より少し揃ってきた。シオンくんは半拍遅れ。レオンくんは小声。ドルガは「フン」って言ってから食べ始めた。




 食べる。喋る。ガルくんが「おかわりありますよ!」って走り回る。トールくんがスープを三杯飲んだ。リーゼちゃんがパンを二枚——あ、三枚目に手を伸ばした。えらいな。


 ミーナちゃんが粥を食べてる。スプーンの持ち方が上品。教会仕込み。でも食べるスピードは速い。お腹空いてたんやな。


 シオンくんだけ——パンを手に持ったまま、止まってた。周りをきょろきょろ見てる。レオンくんがかぶりつくのを見て、ドルガが片手でちぎるのを見て——おそるおそる、かじった。小さく。端っこから。


 教会では食事の作法が決まってたんやろな。好きに食べていい、って言われても、「好きに」がわからへんのや。




「ガルド殿。この……パン。……うまい」




 トールくんが言った。朴訥に。まっすぐに。




「えへへ……! ほんと? ほんとにうまい?」


「……うまい」




 ガルくんが真っ赤になった。190cmが真っ赤。




 ——保育園より多いわ(^^)


 でも——保育園と同じや。朝ごはんを食べて、「おいしい」って言う。それだけのことが、こんなにぎゅうぎゅうで、こんなに温かい。






◆ピプ視点




 ボク、ガルくんの肩が好き。


 高い。広い。見晴らしがいい。ガルくんの肩に座ると、みんなの頭の上が見える。よしこの角も見える。ヴェルザの銀色の髪も見える。




 でも今日、新しいのを見つけた。




 トールの肩。




「ねぇねぇ! トール!」


「……何だ」


「ボク、トールの肩にも乗ってみたい!」




 トールが困った顔をした。ガルくんと同じ顔。この二人、ほんとに同じ顔する。




「……乗る? 肩に?」


「うん! ガルくんの肩はね、柔らかいの! トールの肩はどう?」




 ガルくんが振り返った。目が光ってる。




「え? ピプちゃん? 俺の肩のほうが広いよ?」


「えー、でもトールの肩も気になる!」


「俺のほうがふかふかだよ? 筋肉が柔らかいって言ってくれたでしょ?」




 ガルくんの目がきらきらしてる。あれ。なんか違う。いつもの困り顔じゃない。




「……俺の肩でも、構わないが」


「にへへ、じゃあ——」


「待って! ピプちゃん! 俺が先だよ!」




 ガルくんがトールの前に立った。190cmが185cmの前に。




「……ガルド。……俺は別に取ろうとしたわけでは——」


「い、いいの! ピプちゃんの肩ポジションは……僕の……僕の場所だから……!」




 あー、ガルくんが珍しく張り合ってる。




 レオンが遠くから見てる。




「……お前ら何やってんだ」


「レオン! ボク、レオンの肩にも乗る?」


「乗るか! 重い!」


「ひどい! ボク軽いよ!」


「130cmのガキが軽いわけねーだろ!」




 ドルガが腕を組んで笑った。




「ハッ! 俺の肩に乗ってみろ。——全員が見下ろせるぞ」




 210cmの肩。




「……すごい。高い」


「当然だァ!」




 ガルくんが「ピプちゃーん!」って叫んでる。トールが「……俺はまだ乗ってもらっていない」って呟いてる。




 ボク、肩がいっぱいある。




 嬉しい。肩がいっぱいあるの、嬉しい。




 ヴェルザが遠くで頭を抱えてる。




「……四天王が。四天王の肩が。遊具になっている……」




 よしこが笑った。




「ええやん(^^) 遊具も保育園には必要やで(^^)」


「ここは魔王城です、魔王様」


「一緒やて(^^)」




 ヴェルザがため息をついた。300年分くらい長いやつ。




 でも——ヴェルザの口元、ちょっと緩んでた。


 ボク、わかるよ。みんなの顔、上から見えるもん。




 肩がいっぱいある朝。


 ボク、ここが好き。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


第45話「新入園児の朝」。第5アーク「魔王城の新入園児」の開幕です。


Arc4「聖教会の子どもたち」の緊張から一転、日常に戻ります。11人の大家族の最初の朝。やることは保育園と変わりません。トイレの順番待ち、布団干し、朝ごはん。よしこにとっては40年間やってきたことと同じです。ただし、人数が増えました。


ティアの布団干しパート。11組の布団を干しながら、一人ひとりの寝た痕跡を読み取るティア。ミーナの枕が濡れていたこと。シオンの布団が軍隊式に畳まれていたこと。ティアは言葉にしません。でも、見ています。見ていることが、この子の優しさです。


ガルドとトールの厨房コンビ。190cmと185cmが並んで皿を割る。体が大きいだけで戦わされてきた二人が、今は台所に立っています。「壊す」しかできなかった手で、パンを焼いて、スープをよそう。まだ皿は割るけど——皿はいくらでもあります。


ピプの肩ポジション争い。ガルドが珍しく張り合う場面。この子は自信がなくて、自分の居場所を守ることに必死です。ピプの肩という「自分の場所」を取られそうになって、初めて主張した。小さなことだけど、ガルドの成長です。


ここからしばらくコメディが続きます。毎日ごはんを食べて、笑って、たまに泣いて。魔王城は保育園です。


ブックマーク・評価をいただけると、物干し竿がもう一本増えます。感想もお待ちしています。

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