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果てしない海 ~終焉の魔眼と白黒の勇者~  作者: kooy
第1章 転生

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第5話 魔王、キレる

誠司がこの世界に来て、数日が過ぎていた。


誠司は公園のベンチに腰掛け、空を眺めていた。


夕暮れだった。


雲が赤く染まっている。


ただそれだけの光景。


前世なら価値などなかった。


空を見ても力は増えない。


敵も倒せない。


生き残ることにも繋がらない。


なのに最近は違う。


足を止めてしまう。


風が吹けば心地良いと思う。


空を見れば綺麗だと思う。


理解できなかった。


今の俺は、無駄が多すぎる。


俺は変わったのか。


誠司は自分の掌を見る。


魔力は戻らない。


いや、正確には不安定だった。


集まる時は集まる。


だが維持できない。


まるで意思を持っているように散っていく。


この器、不快だ。


それなのに。


どこかで受け入れている自分がいる。


記憶が蘇る。



煙草の匂い。酒の匂い。大きな背中。


『強い奴はな』


組長が言う。


『弱い奴を守るもんだ』


当時の誠司には意味が分からなかった。


だから聞いた。


『なぜですか』


親父(オヤジ)は笑った。


『格好いいだろ』


その時の俺は、親父を確かに恰好いいと思っていた。


今のおれは、


だが最近、その言葉を思い出す。


理由もなく。


頻繁に。



「若頭―」


声が飛んだ。


振り向く。


タクがいつものように纏わりついてくる。


「また空、見てたんすか」


「ああ」


「なんか悩みでもあるんすか?」


「そうなのかもしれん」


タクは少し驚いた顔をした。


「ほんと、最近の若頭、変わったすよね」


「ん、どう変わったというのだ」


「え、若頭ってそんなに深く考え込むことなんてなかったんじゃねえかな」


誠司自身も驚いていた。


「…、」


確かに、以前のこの器は分からないが、


以前の余は、悩むことなど必要なかった。


力が全てだった。


しかし、変化している。


少しずつ。


確実に。


二人は並んで歩いた。


取り留めのない会話をしながら。


以前なら沈黙を選んでいた。


今は違う。


タクが話し続けることを当然のように受け入れていた。


気付けば日も落ちていた。



人通りの少ない道に入る。


その時だった。


前方に人影が見えた。


後ろからも足音が聞こえる。


誠司は足を止めた。


タクも止まる。


「……あー」


タクが頭を掻いた。


「そういう感じか」


前方には鋭い目つきの男。


数日前。


少年を脅していた男だった。


その後ろには数人。


後ろにも数人。


完全に待ち伏せだった。


男は笑う。


「待ってたぜ」


タクがため息を吐く。


「ガキは、暇なんだな」


「舐めた口きいてんじゃねぇぞ」


男の顔が歪む。


恨み。


怒り。


屈辱。


そんな感情が見えた。


タクは肩をすくめた。


「悪いことしたとは思ってねぇよ」


その一言だった。


男たちが一斉に動く。


数は力だ。


確かに、タクは強い。


だが限界がある。


一発。


二発。


三発。


タクの体に、鈍い音が響き始める。


誠司は見ていた。


地面に倒れるタクを。男たちの笑い声を。


胸の奥が軋んだ。


嫌な感覚だった。


呼吸が乱れる。魔力がざわつく。


なぜだ。


理解できない。


前世なら興味も持たなかったこと。


弱者が倒れようが知ったことではない。


なのに。


目の前の光景が不快だった。


酷く。酷く不快だった。


組長の声が蘇る。


『弱い奴を守るもんだ』


意味は分からない。


今も…。


だが。


男たちを見ていると。


妙に腹が立ってきた。


誠司は一歩前に出る。


男たちが振り向く。


その瞬間。


空気が変わった。


男たちの笑みが消えていく。


誠司は自分でも分かっていた。


怒っている。


生まれて初めての感覚。


心の底から。


怒っている。


そして。


その感情が。


どうしようもなく心地良かった。


口元が歪む。


笑っていた。


魔王の笑みだった。


「面白いじゃないか」


その声に。


男たちは本能で悟った。


自分たちは今。


絶対に怒らせてはいけないものを怒らせたのだと。


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