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果てしない海 ~終焉の魔眼と真理の瞳~  作者: kooy
第2章 この世界の闇

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第39話 (黒い獣)見えない敵

蒼真は何が起きたのか理解できなかった。


橋本は、まだ数歩先にいた。

拳も届いていなかった。

それなのに、俺は何か巨大なものに殴り飛ばされた。

腹部には焼けるような痛みが残っている。

制服を見ると、鋭い爪で裂かれたように大きくほつれていた。


「何だ……今の……」

思わず呟く。

そして、目の前の涼は、橋本から俺を守るように立っていた。

「……やっぱり」

涼は、その何かが見えているかのように呟いた。


「蒼真!」

朝比奈の悲鳴が聞こえる。

体に痛みはある。

だが、骨は折れていない。

「だ、大丈夫だ!」

自分を落ち着かせた。


それよりも理解できない。

(何かがいる!?)

それは、朝比奈にも見えていないようだった。

「涼!」

「何が起きたんだ!」

俺は確認するように叫んでいた。


そして、涼は視線を逸らさないまま言った。

「ヒナ」

「蒼真も、下がって!」

静かな声だった。


「蒼真!」

「琴音とヒナをお願い」

それは静かで、決意だけを宿した声だった。


俺も『何かできる』、そう思った。

「お、おい!」

「一人で行くな!」

だが、涼はもう前だけを見ていた。


俺は息を呑んだ。

涼の視線は橋本を見ていない。

そのさらに向こう。

何かを見ている。


「頼む!」

それしか言えなかった。

俺は拳を握り締めた。

悔しかった。

何も分からない。

何も見えない。

自分だけが置いていかれている。

それでも。

今の涼が、本気で危険だと感じていることだけは分かった。

俺は歯を食いしばりながら後退した。



そして。

ヒナと蒼真から見るそれは異常だった。

涼は橋本と対峙している。


橋本が涼に向かって進むと、ビリビリと空気が震えた。

突然、アスファルトが砕け、破片が飛び散った。


「リョー!」

ヒナが心配で叫んだ。

涼は、何かを避けながら、橋本に向かって語りかけている。

そして、涼は橋本に近づき。

手を伸ばした。

涼の整った顔が歪む。

膝をつく。

橋本も、その場へ崩れ落ちた。

「琴音……ちゃん……」

そんな声が橋本から聞こえた

橋本の瞳から狂気が少しずつ消えていく。

だが代わりに、涼の瞳から光が消え始めていた。

「リョー!」

ヒナが再び叫ぶ。



その声が。

涼には遠く聞こえた。

(苦しい。)

(息が……)

(立てない。)

橋本の黒が、涼の心を侵食していく。


そして。

橋本の黒の最も深い場所。

そこに沈んでいた感情が、涼に牙を剥いた。

『神宮寺が憎い』

『あいつさえいなければ』

『奪われなかった』

涼の身体が、意思とは無関係に動いた。

顔が上がる。

視線の先には、蒼真がいた。


橋本の憎悪が、涼の口から吐き出される。


「蒼真────ッ!!」


その叫びは、涼自身のものではなかった。

悲鳴にも似た声。

獣が獲物を見つけたような咆哮。


「リョー!?」

ヒナの顔から血の気が引く。


涼は地面を蹴った。

速い。

今まで誰も見たことのない速度だった。


「涼!?」

蒼真は目を見開く。

涼は、自分へ一直線に向かってくる。

その表情を見た瞬間、身体が凍りついた。

違う。

いつもの涼じゃない。

瞳は焦点を失い、苦しみに歪み、それでも涙だけが頬を伝っていた。


「……助けて」


小さく。

本当に小さく。

そう聞こえた気がした。

次の瞬間だった。


ドンッ!!


涼の身体が蒼真へぶつかる。

二人はそのまま地面へ倒れ込んだ。


「ぐっ!」

蒼真が背中を打つ。


気が付けば、涼は蒼真へ馬乗りになっていた。


「リョー!」

ヒナが叫ぶ。

しかし。

涼は反応しない。


涼の震える右手が、ゆっくりと持ち上がる。

手刀?

蒼真は自分の首が狙われてること悟った。


しかし、蒼真は動かなかった。

目の前にいるのは敵じゃない。

ずっと一緒にいた仲間。

その手を避けるという発想すら浮かばなかった。

(涼……)

涙を流しながら震えている。

本当は止めてほしい。

そんな顔だった。


「リョー!」

ヒナが止めようと駆け寄る。

間に合わない。


涼の腕が振り下ろされた。

その瞬間。


ガシッ。

大きな手が、その手首を掴んだ。


「……ほう」

低く響く男の声。

「随分と面白い力だ」


その場の全員が振り向く。

そこには、一人の男が立っていた。

黒いスーツ。

堂々とした体格。

鋭い眼光。

『御堂誠司』

その姿には、不思議な威圧感があった。


誠司の視線は涼を見つめていた。

そして、涼の身体から溜まっていた黒が、誠司の腕へ流れ始める。

「……!」

涼が目を見開く。

橋本から受け止めた黒。

胸を締め付けていた苦しみ。

息ができないほどの重圧。

それらすべてが、誠司へ吸い込まれていく。


黒は誠司の身体へ入ると、まるで帰る場所を見つけたように静かになった。

誠司は目を閉じる。

(なるほど)

身体の奥底。

漆黒の渦が歓喜する。

飢えていた何かが満たされていく。

魔力。

負の感情。

絶望。

そのすべてが、自分の力へ変わっていく。

「……そういうことか」

誠司の中でそれは確信に変わった。


涼は震える唇を開く。

「……ありがとう」

その声は、ほとんど聞き取れないほど弱々しかった。


だが。

誠司には確かに届いた。

「礼を言われることではない」

誠司は静かに答える。

「俺は、俺にとって都合の良いことをしただけだ」

そう言って涼の手を離す。


力を失った涼は、そのまま前へ倒れ込んだ。


「リョー!」


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