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果てしない海 ~終焉の魔眼と真理の瞳~  作者: kooy
第2章 この世界の闇

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第36話 (黒い獣)情報網

「若頭(わか)!」

事務所の扉が勢いよく開いた。

「あのお嬢ちゃんのこと、調べたっす!」

タクが数枚の紙を片手に、どこか得意げな表情で入ってくる。


誠司はソファへ腰掛けたまま視線だけを向けた。

「早かったな」

「当然っす」

タクは胸を張る。

「俺を誰だと思ってるんっすか」

「タクだろ。」

「……そうっすけど!」

思わず突っ込むタクを見て、事務所にいた若い組員たちが笑う。


誠司は首を傾げた。

「何が面白いのだ?」

「若頭……」

タクは苦笑する。

「そこ笑うところなんっすよ」

「そうなのか」


誠司は特に気にする様子もなく腕を組んだ。

「それで?早く報告をしろ」

「はいっ」

タクは紙を机へ広げる。

「まず、お嬢ちゃんの名前は」

「水瀬涼。」

「高校二年生」

「妹も同じ高校に通ってます」

「成績優秀。」


誠司は静かに資料へ目を落とす。

(水瀬……涼)

橋の下で出会った少女。

(あの力……)

どう考えても普通の人間ではない。


「他は」

「通学はバスと電車」

「インターアクトクラブ所属」

「例の清掃活動してたのも、その部活っす」

誠司は小さく頷いた。

「なるほど」


タクはさらに身を乗り出す。

「そんで、お嬢ちゃんが学校内じゃ結構有名人らしいっす」

「有名人?」

「はい。」

「友達に当たりそうになった野球ボールを素手で叩き切ったとか」

「廊下で転びそうな先生を片手で支えたとか」

「他にも色々」

「まぁ、尾ひれは付いてるでしょうけどね」

「超能力者って噂らしいっす」


誠司は静かに目を閉じた。

橋で感じた違和感。

あの少女は。

自分と同じく、この世界では説明できない何かを持っている。

「そうか」

誠司は資料を閉じる。


「タク」

「はいっ?」

「お前、使えるな」

タクは一瞬きょとんとしたあと、大きく笑った。

「へへっ。もっと褒めてくれていいっすよ」

「調子に乗るな!」

「はいっ!」

返事だけは威勢がいい。

誠司は小さく息を吐いた。


前世には、このような情報網はなかった。

一つの情報を得るだけで何日も掛かった。

今は違う。

人間は弱い。

だが。

道具を使い、組織を使い、情報を集めることに関しては驚くほど優れている。

(面白い世界だ)


「それで」

誠司が顔を上げる。

「今、涼はどこにいる」

「あー」

タクはスマートフォンを取り出した。

「ちょっと待ってください」


慣れた手つきでメッセージを送る。

『今どこ?』

数秒後。

すぐ返信が返ってきた。

「お、分かりました」

「早いな」

「うちの組の若いヤツは返信が早いんっすよ」

「そういうものか」

「そういうもんっす」


タクは画面を見ながら答える。

「学校終わって」

「駅前のカフェ」

「友達数人と一緒にいるみたいっす」

「そうか」


誠司は立ち上がった。

「会いに行くぞ」

「え?」

タクが目を丸くする。

「今からっすか?」

「そうだ」

「いやいや」

タクは笑いながら首を振る。


「若頭? ひょっとして」

「コクるんすか?」

誠司は真顔で答えた。

「何だそれは」

「好きですって言うやつっす」

「何を言っているか理解できんな」

誠司は即答した。

「確認したいことがあるだけだ」

「またまた」

タクは肩をすくめる。

「若頭って、そうやって誤魔化すんっすね」

誠司は本当に意味が分からないという顔をしていた。

「やはり理解できんな」


タクは苦笑する。

「じゃあ行きますか」


 ⸻


駅前へ向かう車の助手席で、タクはスマートフォンを眺めていた。


「便利なもんだな」

誠司が呟く。

「何がっすか?」

「そのスマホだ」

「スマホ?」

「数秒で情報が届く」

「まあ、それが普通っす」

「普通か」


誠司は窓の外を見る。

この世界は、前世とは何もかも違う。

もっとこの世界を知っておく必要があると感じた。


その時だった。

スマートフォンが震える。

「あ」

タクが画面を見る。

「若頭」

「お嬢ちゃん達、店を出たみたいっす」


「そうか」

誠司の視線が前を向く。

「追うぞ」


「了解っす」

タクは運転手へ行き先を伝える。


数分後。

車を降りた二人は、人混みの中を歩いていた。


少し前方。

制服姿の男女が歩いている。

「あれっす」

タクが小声で言う。


誠司も視線だけを向ける。

間違いない。

水瀬涼だった。


しかし。

「……ん?」

タクの足が止まる。

「若頭」

「どうした」

「あいつ」


タクが指差した先。

一人の男が、電柱の陰から望遠レンズ付きの一眼レフを構えていた。

その視線は、真っ直ぐ水瀬たちへ向いている。


「誰っすかね。」


少し考え、タクはぽつりと呟いた。

「……あいつもストーカーっすか?」


誠司は黙ったまま男を見る。

その瞬間だった。

男の足元の影が、不自然に揺らいだ。

風ではない。

光でもない。

まるで生(・)き(・)物(・)のように。

誠司の瞳が細くなる。


「……魔(・)物(・)か。」


その一言だけを残し、誠司は静かに歩き始めた。


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