第34話 (黒い獣)見える女子高校生
部室での話を終えると、涼たちは校舎を後にした。
夕暮れの風はまだ暖かく、グラウンドからは運動部の掛け声が聞こえてくる。
「そういえばさ。」
美羽がみんなに問いかけた。
「このまま帰るの?」
「そのつもりだけど」
「だったら駅前のカフェ寄らない?」
「カフェ?」
「うん!この前、インスタに上がっていたお店なんだけど、すごく雰囲気がいい感じなのよ」
「パンケーキも美味しいらしよね」
莉乃が笑顔で続ける。
「琴音も気分転換になるんじゃない?」
「え……」
琴音は少し戸惑った表情を浮かべた。
「でも、ご迷惑じゃ……」
「ならない、ならない!」
ヒナは琴音の肩をぽんと叩く。
「一人で考え込む方が良くないよ!」
「そうそう。」
莉乃も優しく微笑む。
「今日はみんなで帰ろ」
琴音は少し考え、小さく頷いた。
「……はい。」
その表情は、部室にいた時より少しだけ柔らかくなっていた。
校門を出ようとした、その時だった。
「おーい! 涼!」
聞き慣れた声に振り返る。
蒼真が、部活帰りらしくスポーツバッグを肩に掛けて駆け寄ってきた。
「蒼真!」
ヒナが手を振る。
「今から駅前のカフェ行くんだけど、一緒にどう?」
「マジで?」
蒼真は少し驚いたように目を丸くする。
「俺が行ってもいいのか?」
「もちろん!」
ヒナは即答した。
「男子一人だけどね」
「いや、そこは気にしろよ!」
蒼真が苦笑すると、その場に笑い声が上がった。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
蒼真も自然と輪へ加わった。
⸻
駅前へ続く歩道は、学校帰りの学生で賑わっていた。
「そういえば、蒼真って甘いもの好きなの?」
莉乃が尋ねる。
「好きだぞ」
「意外」
「おい、それどういう意味だ」
「ラーメンしか食べないイメージ」
ヒナが言う。
「なんだよ、それ。」
「ね。リョー!」
「そうね」
話を振られた涼は少し考えて、
「蒼真は、よくクラスでラーメン屋の話をしているよね」
「ほら見なさいよ」
「まぁ……、否定はできないな」
蒼真が肩をすくめると、また笑いが起きた。
琴音も小さく笑っている。
それを見た莉乃は、少しだけ安心した。
⸻
やがて、一行は駅前にあるカフェへ到着する。
白を基調とした落ち着いた外観に、大きなガラス窓。
店内からはコーヒーの香りが漂ってきていた。
「ここだよ。」
美羽が少し誇らしげに言う。
「わぁ。」
ヒナは目を輝かせた。
「おしゃれ!」
「でしょ?」
「それじゃあ入ろう」
店内は平日の夕方ということもあり、学生や会社帰りの客でほどよく賑わっていた。
窓際の六人席へ案内され、それぞれ飲み物を注文する。
「私はカフェラテ」
「私は紅茶かな」
「パンケーキも一つ頼もうよ!」
「ヒナ、それ夕飯入るの?」
「別腹!」
元気よく答えるヒナに、一同が笑う。
料理が運ばれてくると、自然と会話も弾み始めた。
休日の過ごし方。
好きな映画。
最近流行っているスイーツ。
女子四人は次々と話題を変えながら盛り上がっていた。
「うん。そのお店いいよね」
涼も自然と会話へ加わる。
「リョーも知ってるの?」
「澪と行ったことがあるよ」
「えっ、ずるい。今度私も一緒に行こうよ」
ヒナが拗ねたように言う。
「蒼真は話についてきてるの?」
蒼真が苦笑する。
「俺、さっきから全然分かんねぇ」
「蒼真はスポーツかラーメンの話しかできないもんね」
「失礼だな」
そのやり取りに、琴音も思わず吹き出した。
「あ……」
慌てて口元を押さえる。
「ご、ごめんなさい」
「謝ることじゃないよ」
莉乃が優しく微笑む。
「笑ってくれた方が嬉しい」
琴音は照れながら小さく頷いた。
その時だった。
ふと、涼の表情が変わる。
笑顔が消え、窓の外へ視線を向ける。
【真理の瞳】
胸の奥がざわつく。
今まで感じていた黒が、急にはっきりと輪郭を持ち始めた。
(……近い。)
だが、それだけではない。
もう一つ。
橋本とは違う、重く、底知れない黒。
(……二つ?)
涼は静かに目を細める。
「リョー?」
ヒナが不思議そうに声を掛ける。
涼は窓の外を見つめたまま、小さく呟いた。
「……橋本先生がいる」
テーブルの空気が止まる。
「え……」
琴音の表情から血の気が引いた。
「どこ?」
莉乃が息を呑む。
「あの向かいの雑居ビル。屋上」
全員が窓の外を見る。
しかし、それらしい人影は見えない。
「おいおい」
蒼真が苦笑する。
「何でそんなこと分かるんだよ」
涼は返答に困る。
『黒が見える』そう説明するわけにはいかない。
すると、ヒナが胸を張った。
「リョーには見えるの!」
「え?」
「リョーには特別な超能力があるんだから!」
「ヒナ……」
涼は思わず苦笑する。
「琴音ちゃんも霊感の最強版みたいな感じだよ」
ヒナは自分の知識をフル活動して答えた。
「そうなのか」
蒼真は意外にも素直に納得した。
莉乃と美羽も顔を見合わせ、小さく頷く。
涼は静かにカップを置いた。
そして。
涼は静かに立ち上がった。
「行こう」




