↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
果てしない海 ~終焉の魔眼と真理の瞳~  作者: kooy
第2章 この世界の闇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/41

第31話 (黒い鎖)命令

その夜、黒崎組の事務所は異様な空気に包まれていた。

パトカーの赤色灯が窓の外を照らしている。

発砲事件。

複数の逮捕者。

押収された拳銃。

当然、黒崎組にも捜査の手は伸びていた。


二階の自室から蓮は階下の様子を眺めていた。

「黒崎組の構成員ですね?」

「知らねぇな」

父親は平然としていた。

「逮捕された者の中には、そちらの事務所への出入りが確認されている人物もいます」

「勝手に出入りしてただけだろ」

父親は鼻で笑う。

「うちは関係ねぇ」


蓮は目を細めた。

まただ。

いつもそうだ。

都合が悪くなれば切る。

捨てる。

昨日まで仲間だった者も。

長年尽くした者も。

利用価値がなくなれば切り捨てる。

まるで最初から存在しなかったかのように。


父にとって人は道具だった。


 ◇


昔、母が父に言っていたことがある。

『あなたは人を大事にしなさすぎる』

『皆、家族のために働いているのよ』

『組のために命を張っているのよ』


父は笑っていた。

『使えなくなったら終わりだ』

『それだけの話だろ』


その時の母の悲しそうな顔を蓮は覚えている。

そして。

蓮は母に似た。

少なくとも父親はそう言う。

蓮自身もそう思う。


だから。

父のそういうところが嫌いだった。


 ◇


蓮は参考書へ視線を戻した。

興味はない。

どうでもいい。


だが心のどこかで、少しだけ気になっていた。


 ⸻


翌朝、教室へ入ると騒がしかった。

蓮は自分の席へ向かった。


すると数人の生徒が近付いてくる。

「黒崎くん、おはよー」

「昨日のやつ、やっといたよ」

化粧の濃い女子生徒が笑う。

「やっといた?」

「うん」

女子生徒は得意げだった。


「委員長になったからって調子に乗ってたし」

そう言って水瀬澪の席を指差す。


蓮は視線を向けた。

水瀬澪が立っていた。

困ったような顔をしている。

机には落書きがされていた。

油性ペンで書かれた悪口。

意味のない中傷。

幼稚な嫌がらせ。


蓮は無言だった。

確かに言った。

嫌がらせをしろ、と。

だが。

実際に形になると妙な気分だった。


「黒崎くんのおかげだよ」

女子生徒は笑う。

「これで少しは大人しくなるんじゃない?」


蓮は何も答えなかった。


「おはよう、澪」

「お姉ちゃん、、、。」

教室の入り口から声がした。

振り向く。

あの女だ。

涼の後ろにはヒナと蒼真がいた。


「ひどい……」

ヒナが机を見て顔をしかめた。

「澪ちゃん、大丈夫?」


「うん」

澪は困ったように笑う。

「う、うん。別に平気……」


「平気じゃねぇだろ」

蒼真が言う。

「これ誰がやったんだ」


教室が静かになる。

誰も答えない。


すると。

涼がゆっくり教室を見回した。

【真理の瞳】

そして。

一人の女子生徒を見た。

「君かな」

女子生徒の肩が跳ねる。

「え?」


「ボクの妹が、君に何かしたかな」

穏やかな声だった。


女子生徒は顔を青くした。

「ち、違……」

「違う?」

涼は真っ直ぐ見ている。


逃げ場がない。

女子生徒の目に涙が浮かぶ。

「わ、私は……」

そして泣き出した。

「私は黒崎くんに言われただけなの!」


教室がざわつく。

蓮は眉をひそめた。

(言われた?)

(命令された?)

確かにそうだ。

自分が言った。


嫌がらせをしろ、と。


 ◇


蓮の脳裏に父親の姿が浮かぶ。

『やれ』

『行け』

『潰せ』

組員たちは従う。

誰も逆らわない。


そして問題が起きれば。

責任を取るのは組員たちだ。

父親ではない。


蓮はそのやり方が嫌いだった。

ずっと。

昔から。

だが。


(同じか)


胸の奥が少しだけ重くなる。


 ◇


蓮は女子生徒を見た。

怯えている。

自分を見ている。

組員たちと同じ目だった。


身体がふと浮いた。

「は?」

神宮寺先輩に胸ぐら両手で掴まれていた。


「てめぇ!」

先輩の目が怒りで燃えている。

「何してくれてんだ!」

「神宮寺先輩……」


「澪はな!」

蒼真は怒鳴る。

「大事な妹なんだよ!」


「妹?」

水瀬澪。お前に姉兄は何人いるんだ。


「とにかくだ!」

蒼真は吐き捨てる。

「今から綺麗にするぞ!」

「はぁ?」


 ⸻


その後、蓮は蒼真と一緒に澪の机を磨いていた。

油性ペンはなかなか落ちない。


「もっと力入れろ」

「……はい」

「そこ残ってる」

「……はい」

なぜ自分が。

そう思う。

だが反論する気にはなれなかった。


澪は少し困った顔をしていた。

二人の姉は静かに見守っていた。


そして誰も蓮を責めなかった。

それが逆に居心地が悪かった。


 ⸻


落書きが消えた頃。

蓮はふと隣の席を見た。

渡辺が座らされている席。


「渡辺」

「え?」

「席、返すわ」

渡辺が目を丸くする。

「いいの?」

「ああ」


 ⸻


その日の帰りのホームルーム。


蓮の左隣には水瀬澪が座っている。

担任の塚本は何も言わない。

穏やかな顔で教室を見渡している。


窓から風が入る。

静かな午後だった。

蓮は前を向く。


だが。ふと隣を見る。

澪は真面目に担任の連絡をノートに取っていた。


そして。

なぜか少しだけ笑っているように見える。


蓮には、その理由が分からなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。