第3話 魔王(転生3日目)、現代に馴染む
病院の自動扉が開き、外の光が差し込む。
誠司は一瞬だけ目を細めた。
(外界)
それだけを認識する。
隣には舎弟のタクがいる。
軽い足取りで歩きながら言う。
「退院できてよかったっすね、若頭」
誠司は短く答える。
「問題ない」
⸻
街に出ると、音が増える。
秩序はあるが、戦場の規則性ではない。
誠司は周囲を観察する。
道路を様々な車が通り過ぎる。
「動力源は、魔力ではないのだな」
「何言ってるんすか。ガソリンっすよ」
「燃焼で動くのか」
「そんな感じっすね。本当に大丈夫っすか」
「事実を観測しているだけだ」
交差点で信号が切り替わり、車が止まった。
誠司はそれを見ていた。
(命令ではなく規則か)
「興味深い」
「え?」
⸻
誠司が建物を観察するように歩いていると
タクがスマホをショルダーバックから取り出した。
「あ、これ若頭のスマホっす」
魔王はスマホを受け取る。
「軍事情報端末が個人に配布されているのか」
「……言い方、怖いっすね」
「事実だ」
タクは歩きながら、ふと笑う。
「若頭。なんか変わったすね」
「ん?」
「前は、まわりにあんま興味なかった感じだったっすけど……今の若頭って、ちょっとカワイイっすね」
「なんだと! 俺のことを舐めているのか」
一瞬、空気が止まり、誠司の視線がタクに向く。
その間、周囲の空気がわずかに重くなる。
「いやいや、……別に悪い意味じゃないっす!」
タクは小さく息を吐く。(今のはちょっと死ぬかと思った)
”カワイイ”、解析不能な評価だ。
魔王は歩きながら続ける。
「だが、お前の評価基準は興味深い」
「え、どういうことっすか?」
「意味は不明だが、否定する理由もない」
タクは少し笑う。
「やっぱ変わったっすね、若頭」
「……。しかし、お前は他者との間合いを測らないのか」
「間合いっすか?」
「距離だ」
タクは少し考えてから言う。
「いや……そういうの、よくわかんないっすね」
理解不能だな。
⸻
タクがコンビニを見つけを指さす。
「若頭、飯買って行きましょうよ」
「そうだな」
「じゃあ一緒に行きましょうよ」
「なぜ?」
「なんとなくっす」
拒否する理由はない。
「構わない」
「え、マジで来るんすか?」
「お前が誘ったのだろ」
「また、そんな圧かけて怒んないでくださいっすよ」(今のもちょっと死ぬかと思った)
⸻
コンビニの扉が開く。
「補給施設だな。戦闘とは無関係に機能している」
「そうっすね、平和っすからね」
魔王はその言葉を反芻する。
「平和……」
理解の定義がまだ曖昧だった。
⸻
コンビニを出ると、夕陽が見えた。
街が少しだけ静かになる。
突然、金属が歪む音が近くでした。
「……事故っすかね」
タクが音の方向を向いて呟いた。
誠司はその方向をずっと見ていた。
“終わりの形”。
流れ。
収束。
【終焉の魔眼】は発動していた。
「……そうか」
(この身体でもスキルは使える)
「え?」
タクが後ろを追う。
「何か分かったんすか?」
魔王は何も言わず歩き出す。
その瞳だけがわずかに赤く光を宿し、変質していた。
誠司はわずかに口角を上げ、小さく呟く。
「面白い」




