第2話 魔王、入院!
目を開いたとき、そこは見慣れた魔王城ではなかった。
白い天井。
規則正しく点滅する光。
そして鼻を刺す、薬品の匂い。
魔王は、わずかに目を細める。
(薬品……)初見だが存在は理解できた。
そして、この空間は“戦場”ではない。
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「若頭……!目ぇ覚ましたっすか!」
軽い声が飛んだ。
ベッドの脇に、男が立っていた。
御堂組の舎弟、タク。
若い。
軽い。
そして、危機感が薄い。
魔王はその存在を観察する。(弱い)
「いや~ほんと若頭、生きててよかったっすよ」
間合いが近すぎる。
不可解な存在だ。
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「歩いていたら急に倒れて、病院に運ばれて、ずっと意識戻らなくて、三日目すっよ」
「ほんと!良かったっす!」
耳障りな奴だ。
ここは、病院。治療施設。
人間を延命する場所。
この器の記憶が補う。
そして、私は御堂誠司、27才。
誠司は静かに理解する。
(死に損なった、という状態か)
(くだらない)
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誠司の記憶は曖昧だが、この世界の人間としての経験を感じることができる。
しかし、細かいところで確認が必要のようだ。
「ところで、タク。この魔法陣は何だ」
「心電図っすよ。心臓の動き見るやつっす」
「心臓の“動き”を外部化しているのか……合理的だな」
「これは何を流している」
「点滴すっか、栄養っす」
「魔力供給ではないのか」
「魔力……?若頭、大丈夫っすか?今、親父さんに、報告してくるっす」
その言葉に、誠司はわずかに反応する。
(親父)
御堂誠司の父。
この器の“支配的存在”。
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舎弟が出ていき、暫くすると、扉が開いた。
静かな男だった。
声は低く、感情の波も少ない。
御堂組組長、御堂恒一郎。
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「……大丈夫か」
それだけ言うと、誠司を見下ろすでもなく、
哀れみでもない。
ただそこに立っていた。
誠司の内側に、微かな警戒が走る。
(これは……何だ)
圧倒的な力でもない。
魔力でもない。
だが逆らえない関係。
初めての感じた圧力。
「問題ない」
誠司は短く答える。
「好きにしろ。だがあまり親に心配をかけるな」
恒一郎はそれ以上何も言わず、背を向けた。
扉が閉まる。
『親』か。
誠司は、恒一郎が去った扉をしばらく見つめていた。
理解ができない。
ただ、あの一言の裏にあった、
ひどく不器用で、ひどく重い響き。
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舎弟のタクが息を吐く。
「いや~親父さん、相変わらず怖いっすけど、カッケーっすね」
誠司は無言で組長の出ていった扉を見つめていた。
この無防備で不器用な『心配』という刃に対して、どう反撃すればいいのか、
誠司は、魔王は知らなかった。
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窓の外。
見慣れぬ都市。
だが秩序はある。
人は生きている。
恐怖の中ではなく、“日常”の中で。
誠司は理解する。
(ここは終わっていない)
(まだ滅びていない)
(ならば――)
誠司の目がわずかに細くなる。
その奥に、冷たい理性が戻る。
そして、静かに結論づける。
(まだやるべきことがある)
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誠司はベッドから立ち上がる。
その瞬間、わずかに頭痛が走る。
断片的な未来。
意味不明な映像。
白と黒の揺らぎ。
そして――見えない“何か”。
誠司は目を細める。
(……まだ終わっていない)
誠司はわずかに口角を上げた。
「面白い」
誰にも聞こえない声で、誠司はそう呟いていた。




