第28話 感謝の気持ち?
「おやっさん、ちわーっす」
タクが店主に手を上げる。
「あ……タクか」
店主は安堵したような表情を浮かべた。
「なんだか大変そうっすね」
「まあな……」
店主は高校生たちへ視線を向ける。
「最近あいつらが居座るようになってな」
「警察は?」
「呼ぶ前に帰るんだよ」
「なるほど」
「注文もしないで何時間も騒ぐだけだ」
店主は疲れ切った顔をしていた。
「客も減っちまった」
誠司はその話を聞きながらメニューを眺める。
「タク」
「はい?」
「唐揚げ定食がいい」
「聞いてました?」
「聞いていたが」
「本当に?」
「店主が困っているらしいな」
「そうっす」
「だが俺は腹が減っている」
「それも知ってます」
店主が思わず吹き出した。
少しだけ店の空気が和らぐ。
やがて料理が運ばれてくる。
誠司は箸を取った。
一口。
そして止まる。
「美味い」
真顔だった。
「美味いな」
「ありがとうございます」
店主が苦笑する。
誠司はさらに唐揚げを口へ運んだ。
前世にはなかった味。
人間はこんなものを作れるのか。
食事をするたびに感心する。
その時だった。
店の扉が勢いよく開いた。
「よう、親父!」
「今日も繁盛してるか!」
「いや、してねぇか!」
三人組の男が入ってくる。
店の空気が一気に冷えた。
常連客たちが目を逸らす。
店主の顔も強張る。
「あいつら……」
タクが眉をひそめる。
「黒崎組っす」
男たちは店内を見回しながら笑った。
「ずいぶん騒がしいなぁ!」
「静かにしてやろうか!」
「その前にまずい飯なんか出すのやめろよ!」
わざと大声で騒ぐ。
客の何人かが立ち上がった。
帰ろうとしているのだ。
誠司は箸を止めた。
唐揚げを見た。
次に男たちを見た。
また唐揚げを見た。
「タク」
「はい」
「食事の邪魔をされた」
「そうっすね」
「腹が立つ」
「そういう理由なんっすね」
男の一人がこちらに気付いた。
「あ?」
そして顔色が変わる。
「おい……」
「どうした?」
「あいつ……」
男は誠司を指差した。
「御堂誠司だ」
一瞬で空気が変わった。
高校生たちもざわつく。
「マジかよ」
「やべぇぞ」
「あいつが、誠司なのか」
誠司は座ったままだった。
「俺を知っているのか」
「知ってるに決まってんだろ!」
「そうか」
誠司は立ち上がる。
男たちが後退った。
「なら話は早い」
「な、何がだ」
「静かにしろ」
「は?」
「俺は、美味い飯を食っている」
男たちは一瞬ぽかんとした。
次の瞬間。
「なめてんのか!」
一人が怒鳴った。
誠司は男の頭を掴んだ。
片手だった。
「え?」
男の身体が浮く。
「おい」
誠司は静かに言う。
「店主に迷惑を掛けるな」
ミシッ。
「痛っ」
男の顔が歪む。
「痛い痛い痛い!」
誠司は首を傾げた。
「そうか」
そして店の外へ運ぶ。
まるで荷物を運ぶように。
扉を開ける。
放り出す。
ゴロゴロと男が転がった。
残った二人は完全に青ざめていた。
「次はお前たちか?」
二人は全力で首を横に振った。
「そうか」
「失礼しました!」
「帰ります!」
二人は仲間を抱えて逃げ出した。
店内は静まり返る。
騒いでいた高校生たちは顔を見合わせる。
「……帰るか」
「だな」
「今日はもう無理だろ」
誰からともなく立ち上がる。
先ほどまでの威勢はどこにもない。
会計を済ませると、そのまま店を後にした。
⸻
「助かったよ」
店主が誠司に頭を下げる。
「最近ずっと困ってたんだ」
「そうか」
誠司は席へ戻る。
「タク」
「はい」
「物足りなかったな」
「何がっすか」
「弱すぎた」
誠司は少し残念そうだった。
タクは確信した。
(若頭、絶対楽しみにしてたよな)
店主は笑いながら厨房へ戻る。
そしてしばらくして。
山盛りの唐揚げを持ってきた。
「サービスだ」
誠司は目を見開いた。
「本当か」
「もちろん感謝の気持ちよ」
「ああ、素晴らしいぞ」
誠司は本気で喜んでいた。
タクは思った。
(若頭、やっぱ飯が絡むと分かりやすいな)
店の中には久しぶりに笑い声が戻っていた。




