第27話 強者、いない
夜。
蓮は静かに部屋を出た。
行ってらっしゃい、坊ちゃん」
黒崎組の組員たちが頭を下げる。
いつものことだった。
蓮は振り返ることなく歩き出す。
向かう先は同世代の仲間たちの集まる場所だ。
もちろん涼たちの通う高校の生徒はいない。
学力は低く、素行も良くない。
そんなヤツらが集まる学校の連中ばかりだった。
⸻
「蓮!」
待ち合わせ場所に着くと、一人の少年が声を上げた。
「集めてきたぜ」
「そうか」
「お前すげぇよな。あんな優等生ばっかの学校に入学しちまうんだからな」
「どうでもいい」
蓮は興味なさそうに答える。
「それより何人だ」
「十人だ。うちの学校にも面白そうな新入生が入ってきたからな」
「そうか」
蓮は用意していた茶封筒を差し出した。
少年が中を見る。
数万円の現金が入っていた。
「おおっ」
「じゃあ、よろしく」
「おいおい、どこ行くんだよ」
「帰る」
「今日の店は?」
「いつもの所でいい」
それだけ言って蓮は背を向けた。
「あいつ相変わらず愛想ねぇな」
「でも金払いはいいぜ」
「今日も晩飯代浮いたな」
「マジ助かるわ」
高校生たちは笑いながら歩き出す。
蓮はその声を聞き流した。
騒ぐことしか楽しみのない連中。
だが、自分も大して変わらない。
生まれた場所が少し違っただけだ。
そんなことを考えながら、蓮は夜道を一人で歩いていった。
⸻
「おい、タク」
夜の商店街を歩きながら誠司が口を開く。
「はい?」
「最近退屈だ」
「退屈?」
「弱者を襲っている強者がいない」
誠司は真剣な顔で言った。
タクは思わず苦笑する。
(普通は喜ぶところなんだけどなぁ)
「若頭のお陰っすよ」
「そうか?」
「そうっす」
誠司は少し考え込む。
「残念だ」
「いや、残念じゃないっすけど」
そんな会話をしながら歩いていると、一軒の飲食店の前に差しかかった。
店の中から騒がしい声が聞こえる。
ガラス越しに見れば、高校生くらいの集団が大声で騒いでいた。
他の客は迷惑そうな顔をしている。
店員も困り果てていた。
「若頭」
タクが顎で店を示す。
「あれ、どうします?」
「どうとは?」
「若頭が言う『強者』ではないっすけど」
誠司はしばらく店内を見つめた。
「そうだな」
そして一言。
「腹が減った」
「あ、入るんすね」
二人は店へ向かった。
店の扉を開ける。
騒いでいた高校生たちの視線は視線を向ける。
だが、誠司は気にしない。
空いている席に腰を下ろした。
「元気な若者もいるものだな」
「若頭、あれは元気じゃなくて嫌がらせっす」
「嫌がらせ?」
「店に居座って迷惑かけてるんすよ」
「嫌なら力で分からせればいいではないか」
「それやると捕まるんすよ」
「そうか」
「そうっす」
タクは深くため息を吐いた。
その時だった。
高校生たちの笑い声がさらに大きくなる。
店員の表情はますます困ったものになっていた。
誠司は黙ってその様子を見つめる。
そして小さく呟いた。
「なるほど」
「なんすか?」
「少しだけ退屈しなくて済みそうだ」
タクは嫌な予感しかしなかった。




