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果てしない海 ~終焉の魔眼と白黒の勇者~  作者: kooy
第2章 この世界の闇

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第25話 お弁当

午前中の授業が終わった。


チャイムが鳴ると同時に、教室の空気が一気に緩む。


友人同士で机を寄せる者。


購買へ向かう者。


スマホを取り出す者。


そんな中、澪はふと窓際の席へ視線を向けた。


黒崎蓮。


午前中ずっと気になっていた男子生徒だ。


授業は聞いている。


ノートも取っている。


成績が悪そうには見えない。


だが、全てが気だるそうだった。


周囲に興味がない。


そんな雰囲気を纏っている。


その時だった。


「おい」


黒崎くんが渡辺くんに声をかけた。


朝、席を取られていた男子生徒である。


渡辺くんが小走りで近付く。


黒崎くんは財布から千円札を取り出した。


「弁当」


それだけ言って渡辺くんへ渡す。


命令だった。


お願いではない。


渡辺くんは少し困った顔をした。


だが逆らわない。


「……分かった」


そう言って教室を出て行った。


澪は唇を噛む。


周囲を見る。


誰も反応しない。


まるで当たり前の光景のようだった。


数分後。


渡辺くんは購買から戻ってきた。


弁当とお釣りを黒崎くんへ渡した。


黒崎くんは当然のように受け取る。


礼も言わない。


澪の近くで昼食を食べていた女子生徒が小さく呟いた。


「かわいそ」


「え?」


「渡辺くん」


女子生徒は声を潜める。


「あれ、絶対パシリだよ」


「先生は何も言わないのかな?」


「言わないよ」


その答えはあまりにもあっさりしていた。


「だって問題児じゃん」


まるで理由になっていない。


だが、教室のみんなは理解しているようだった。


澪だけが理解できなかった。


渡辺くんは自分の席へ戻る。


正確には黒崎くんの席だ。


そこで持ってきた弁当を広げる。


その表情は困惑していた。


怒っているわけでもない。


笑っているわけでもない。


ただ困っていた。


澪の胸が苦しくなる。


黙っていればいい。


みんなそうしている。


自分は入学したばかりだ。


余計なことをする必要はない。


そう思う。


思うのだが――。


(違う)


心の奥で何かが否定した。


(お姉ちゃんの学校は、こんな学校じゃない)


涼から聞いていた。


優しい人がいて。


楽しい人がいて。


頑張る人がいて。


そんな学校だと。


だから。


気が付けば立ち上がっていた。


「えっ?」


隣の女子生徒が驚く。


「ちょ、ちょっと!」


止めようとする声が聞こえた気がした。


だが足は止まらない。


澪は黒崎の前まで歩いた。


教室中の視線が集まる。


心臓がうるさい。


逃げ出したい。


怖い。


それでも。


黒崎くんの前に立っていた。


「良くないと思います」


言った。


黒崎くんが顔を上げる。


「……ああ?」


低い声だった。


獣のような目。


澪の身体が震える。


それでも続けた。


「そういう態度、良くないと思います」


教室が静まり返る。


黒崎くんは数秒黙った。


そして。


「俺、お前に何かしたか?」


「それは……」


「してねぇよな?」


威圧感が凄かった。


声が出なくなる。


それでも澪は逃げなかった。


黒崎くんの目が細くなる。


「だったら黙ってろ」


「でも――」


「うるせぇ!」


怒声が教室に響いた。


澪の肩が跳ねる。


クラス全員が固まった。


黒崎くんが立ち上がる。


背が高い。


近くで見ると余計に怖かった。


澪は思わず一歩下がる。


その時だった。


「澪ちゃーん!」


場違いなほど明るい声が聞こえた。


教室の後ろの扉が開く。


「ひなお姉ちゃんだよー!」


ヒナだった。


教室の空気が一瞬でおかしくなる。


「気になって来ちゃった!」


笑顔で手を振るヒナ。


そして。


「あれ?」


周囲を見回す。


「なんか、場違いなタイミングだった?」


全員がヒナを見ていた。


あまりにも空気が読めていない。


逆に凄かった。


黒崎くんが舌打ちする。


「チッ」


次の瞬間。


バンッ!


椅子が倒れた。


「めんどくせぇ」


黒崎くんは教室を出ようと歩き出す。


その進行方向にはヒナちゃんがいた。


そして。


ヒナちゃんの隣にはお姉ちゃんがいた。


黒崎くんは二人を睨みながら通り過ぎようとする。


その瞬間とき


腕が掴まれた。


「どうしたのかな? 少年」


お姉ちゃんだった。


優しい笑顔。


黒崎は本能的な違和感を覚えた。


振り払おうとする。


しかし動かない。


びくともしない。


(なんだこいつ)


黒崎の目が見開かれる。


涼の瞳は黒崎を見ていた。


正確には。


黒崎に絡みつく黒い茨を。


憎しみ。


怒り。


諦め。


様々な黒が絡み合っている。


だが。


その奥には。


まだ消えていない白もあった。


涼は静かに目を細める。


その時だった。


「おーい!」


聞き慣れた声が廊下から聞こえた。


「置いていくなよ!」


蒼真だった。


息を切らしながら現れる。


そして黒崎を見た。


「ん?」


黒崎も目を見開いた。


「先輩……?」


蒼真が首を傾げる。


数秒後。


「あー!」


思い出したように指を差した。


「黒崎じゃねぇか!」


「お久しぶりです」


さっきまでとは別人のような口調だった。


教室がざわつく。


蒼真は笑う。


「お前、この学校入れたんだな」


「なんとか」


そして蒼真は涼を見る。


「で?」


「ん?」


「なんで涼がお前の腕掴んでんの?」


「いや」


涼はあっさり手を離した。


「何でもないよ」


黒崎は腕をさする。


だが視線は涼から離れなかった。


何なんだこの女は。


そんな疑問が黒崎の中で広がっていた。


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