第23話 親友
表彰式を終えた帰り道。
冬の空は少しずつ赤く染まり始めていた。
「ねえ涼」
「うん?」
「御堂組の人たちって、怖そうだったね」
ヒナが言う。
「そうかな」
「顔がね」
「顔だけ?」
「顔だけ」
ヒナは即答した。
涼は思わず笑う。
御堂誠司。
前世で世界を滅ぼそうとした魔王。
だが。
今日見た彼は違った。
タクと呼ばれる男とくだらないやり取りをしていた。
警察署で感謝状を受け取っていた。
そして。
橋の下でボクを助けてくれた。
前世の魔王とは何もかもが違う。
考えれば考えるほど分からなくなる。
「涼?」
「え?」
「また考え事?」
ヒナが覗き込んでくる。
昔からそうだった。
ヒナはいつでも、
自分が黙り込むとすぐ気付く。
「うん」
「悩み事?」
「そうかもしれない」
「聞くよ?」
ヒナは当たり前のように言った。
涼は立ち止まる。
ヒナも足を止めた。
住宅街の帰り道。
周囲には誰もいない。
冷たい風だけが吹いている。
「ヒナ」
「なに?」
涼は少しだけ迷った。
ずっと考えていたことだった。
前世のこと。
勇者のこと。
魔王のこと。
そして。
これからのこと。
「笑わないで聞いてくれる?」
「うーん」
ヒナは腕を組んだ。
「内容によるかな」
「そこは聞く前に約束しようよ」
「じゃあ努力する」
涼は苦笑した。
本当に昔から変わらない記憶。
だからこそ。
話そうと思えた。
「実は」
涼は深呼吸する。
「ボクは勇者なんだ」
沈黙。
風が吹く。
ヒナは瞬きをした。
「うん」
「異世界から来た」
「うん」
「前世の記憶がある」
「うん」
「世界を救うために戦っていた」
「うん」
「そして魔王とも戦った」
「うん」
「信じる?」
ヒナは首を傾げた。
「よく分からない」
「だよね」
涼は苦笑した。
当然だ。
ボクも信じられない話だ。
だが。
ヒナは言った。
「でも」
「?」
「涼だよね?」
涼は言葉に詰まった。
「え?」
「だから」
ヒナは不思議そうな顔をした。
「勇者でも異世界人でも何でもいいけど」
「うん」
「涼だよね?」
涼は黙った。
ヒナは続ける。
「だったらいいじゃん」
それはあまりにも簡単な答えだった。
「でも」
「なに?」
「ボクは君に隠し事をしていた」
ヒナは少し考えた。
そして笑った。
「知ってたよ?」
「え?」
今度は涼が驚く番だった。
「知ってた?」
「うん」
「いつから?」
「数ヶ月前くらい?」
涼は固まる。
ヒナは楽しそうに笑った。
「だって変だったもん」
「変?」
「うん」
「どこが?」
「いっぱい」
ヒナは指を折り始める。
「急に大人っぽくなったし」
一本。
「変なこと言うし」
二本。
「時々すごく遠くを見るし」
三本。
「あと」
四本。
「前より優しくなった」
涼は黙った。
ヒナは言う。
「違和感はあったよ」
「……」
「でも」
そこでヒナは笑った。
「今の涼も涼だったから」
涼は何も言えなかった。
ボクは前世から白を見ていた。
そして黒を見ていた。
理解したつもりになっていた。
だが。
一番近くにいた親友のことを。
何も分かっていなかった。
ヒナは気付いていた。
ずっと前から。
そして。
それでも変わらず隣にいてくれた。
視界が滲んだ。
「あれ?」
涼は目を擦る。
おかしい。
涙が止まらない。
「えっ」
ヒナが慌てた。
「なんで泣くの!?」
「分からない」
「分からないの!?」
「うん」
「困る!」
ヒナは慌てながらハンカチを取り出した。
そして。
昔と同じように。
そっと涼の頭を撫でる。
「大丈夫?」
「うん」
「ほんと?」
「うん」
「そっか」
その手は温かかった。
幼稚園の頃も。
小学校の頃も。
転んだ時。
落ち込んだ時。
泣いた時。
ヒナはいつもこうしてくれた。
変わっていない。
ずっと。
何も変わっていない。
「ねえ涼」
「なに?」
ヒナは真面目な顔をした。
「一つ聞いていい?」
「うん」
「勇者って何?」
数秒。
涼は固まった。
そして。
「そこから!?」
「だって知らないもん!」
「今までの話全部聞いてたよね?」
「聞いてた!」
「聞いてた結果それ?」
「うん!」
涼は思わず笑った。
ヒナも笑った。
夕暮れの住宅街に二人の笑い声が響く。
前世では守れなかった日常。
今はここにある。
そして。
涼は思った。
前世の勇者だったときから。
ボクは仲間に恵まれている。
「ありがとう」
「おい、涼たちがクラスにないぜ」
「え、知らないの?今日が警察署で表彰式で公欠よ」
「えーーーっ!俺を忘れてるだろーーーーーーーー!!」




