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果てしない海 ~終焉の魔眼と白黒の勇者~  作者: kooy
第1章 転生

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第21話 思い出

御堂組は建設現場の足場工事や警備などを主な仕事としている。


「今日もお疲れ様っす!」


夕暮れの帰り道。


タクは大きく伸びをした。


「若頭、今日も凄かったっすね。二人分くらいの資材を軽々運んでたじゃないっすか」


「そうだったか?」


「そうだったかじゃないっすよ」


タクは呆れたように笑う。


「普通の人間なら腰やるっす」


「そうか」


誠司は適当に返事をした。


そして。


視線の先には公園があった。


ボール遊びをしていた子供が転ぶ。


すぐに母親が駆け寄る。


それだけの光景。


それだけのはずだった。


だが誠司は足を止めた。


勇者たちとの最後の戦い。


ふと思い出した。


勇者たちは最後まで協力していた。


互いを信じ。


互いを支え。


命を預け合っていた。


理解できなかった。


信頼。


友情。


仲間。


そんなものに何の意味があるのか。


前世の余には分からなかった。


そして余の周囲にいた配下たちは、


純粋な破壊。


純粋な恐怖。


ただそれだけ。


余を慕っていたわけではない。


余を恐れていただけだ。


だが。


今は違う。


親父。


タク。


組の仲間たち。


彼らを見ていると分かる。


服従ではない。


恐怖でもない。


信頼というものは確かに存在する。


そして。


それは意外と悪くない。


「若頭?」


タクが首を傾げる。


「また考え事っすか?」


「ああ」


誠司は歩き出した。


(この世界の人間は興味深い)


それは本心だった。


前世では知らなかった。


知ったつもりになっていただけだった。


人間とは。


もっと複雑で。


もっと面白い。


そして最近。


誠司には理解できない感情がある。


弱者を踏みにじる者を見ると腹が立つ。


理屈ではない。


身体の奥から力が湧く。


タクを襲った男。


橋の下に現れた男。


なぜか許せなかった。


(この思い、まるで勇者だな)


「笑えん」


「何がっすか?」


「独り言だ」


誠司は苦笑した。


するとタクが急に顔を近付ける。


「ひょっとして」


「なんだ」


「あの女子高生のことっすか?」


誠司の動きが止まった。


橋の下の乱闘。


あの少女は、


あの男を前にしても怯えていなかった。


攻撃を受けても立ち上がろうとする。


そして。


少女に触れた瞬間。


失われていた何かが満たされたような感覚。


不思議だった。


「あれは何だったのか」


誠司は呟く。


「何とも言えん心地良さだった」


タクは真顔になった。


「若頭?」


「なんだ」


「それ犯罪っす!」


「は?」


「女子高生、触って心地良いとか完全にアウトっす!」


「違う!」


「ロリコンっすか?」


「違う!!」


「言い訳する人ほど怪しいっす」


誠司は無言でタクの頭を叩いた。


「痛っ!」


夕暮れの住宅街にタクの悲鳴が響いた。



放課後。


インターアクトクラブの部室。


顧問の佐伯が手帳を見ながら言った。


「みなさん聞いてくださいね。明日は警察署で表彰式がありますからね」


年末のボランティア活動での襲撃事件。


その際の功績が評価されたらしい。


「全員参加でお願いしますね」


しかし。


莉乃は困った顔をした。


「すみません先生」


「どうしました?」


「明日は学年末考査も近いの学校に残ってもいいですか?」


「ああ」


佐伯は納得したように頷く。


三学期。


在校生は学年末考査。


三年生は受験本番。


学校全体がどこか落ち着かない空気だった。


「私も塾があるので」


「私もです」


次々と辞退の声が上がる。


結局。


表彰式に参加するのは涼とヒナだけになった。


部室を出る途中。


涼は莉乃を見た。


友人たちと問題集を広げている。


真剣な表情。


いつもの余裕は少ない。


周囲には黒い靄が漂っていた。


尖った棘のような形。


焦り。


不安。


緊張。


そんな感情が滲んでいる。


さらに視線を向ける。


三年生の教室。


受験を控えた先輩たち。


そして澪。


妹も必死に机へ向かっていた。


彼女たちの黒は濃い。


だが。


魔物の黒とは違う。


前世なら理解できなかっただろう。


黒は悪だと思っていた。


だが今は違う。


焦りも。


不安も。


悔しさも。


人が前へ進もうとするから生まれる感情だ。


悪ではない。


人間の一部なのだ。


ボクの中にもある感情。


前世で黒は悪。僕の中に黒は不必要だと考えていた。


理解したつもりになっていた。


だが。


本当は何も知らなかったのかもしれない。


人間は白と黒の両方を抱えて前へ進む。



帰り道。


ヒナが楽しそうに歩いていた。


「表彰なんて緊張しちゃうね」


「そうだね」


「でも楽しみ!」


「そうだね」


涼は頷いた。


この世界は平和だ。


このまま続いて欲しい。


そう思う。


ふと。


橋の下の魔物のことを思い出した。


そしてあの男性は何だったのだろう。


とても強かった。


ボクだけでは危なかった。


ボクは守られた。


そして前世の仲間たちを思い出した。


レイナ。


サラ。


ビラ。


みんな今どうしているのだろう。


もしかしたら。


この世界のどこかにいるのだろうか。


「ねえ涼!話、聞いてる?」


「うん?」


「本当に聞いてた?」


「聞いてたよ」


「じゃ、何の話だった?」


涼は少し考えた。


そして答える。


「明日の表彰式の話でしょ?」


「そう!」


ヒナは嬉しそうに頷く。


「楽しみだなー」


「うん」


「ところで」


涼は首を傾げた。


「表彰って何?」


数秒の沈黙。


そして。


「もーっ!!」


ヒナの叫び声が夕暮れの街に響いた。


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