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果てしない海 ~終焉の魔眼と白黒の勇者~  作者: kooy
第1章 転生

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18/25

第18話 全治3ヶ月

涼の身体が吹き飛ぶ。


だが地面へ叩き付けられることはなかった。


涼は空中で身体を捻ると、


体勢を整えて足から着地した。


それだけ。かすり傷すらなかった。


しかし。


その魔物の目は完全に涼だけを見ている。


黒い棘が脈打つ。


獲物を見つけた魔物のように。


涼を見つめて魔物は叫ぶ。


その声はもはや人間のものではなかった。


涼は理解する。


まずい。


あれは危険だ。


今まで見たどんな黒よりも。


濃く。


重く。


禍々しい。


魔物が地面を蹴る。


一直線に涼へ向かった。


速い。


人間の身体とは思えない速度。


その瞬間。


別の影が飛び込む。


誠司だった。


「下がれ!」


誠司は涼の前へ立つ。


魔物の拳が振り抜かれる。


避けない。


避けられない。


次の瞬間。


鈍い音が響いた。


魔物の拳は誠司の腹へ突き刺さっていた。


貫通。


魔物の腕が背中から突き出る。


「ん?貫かれたのか?」


「若頭ーー!!」


タクの叫び声が河川敷に響く。


誠司の口から血が溢れる。


それでも。


誠司は倒れない。


「貴様……」


低い声だった。


誠司は自分の腹を貫いている腕を両手で掴む。


離さない。


絶対に。


目の前にいる女子高校生へ届かせない。


その執念だけだった。


涼は目を見開いた。


その姿が重なる。


数ヶ月前の、


魔王と戦った日々。


仲間たち。


何度も僕を庇って傷付いた者たち。


最後まで背中を預けてくれた者たち。


胸が少しだけ痛んだ。


そして。


涼は黒い棘へ手を伸ばした。


「――やめろ!」


誰かの声が聞こえた気がした。


だが涼は止まらない。


一本目を掴む。


重い。


冷たい。


引き剥がす。


魔物が悲鳴を上げる。


二本目。


三本目。


四本目。


棘が剥がれるたびに。


黒が流れ込んでくる。


身体が重い。


息が苦しい。


それでも止めない。


目の前の魔物は危険だ。


放置してはいけない。


勇者として。


そう思った。


「まだだ」


さらに引き剥がす。


棘は大きい。


今まで見たどんな黒よりも。


濃く。


深い。


そして。


痛い。


身体が軋む。


指先が震える。


視界が揺れる。


それでも。


一本。


また一本。


引き剥がしていく。


そして魔物の顔色が変わる。


怒り。


憎しみ。


狂気。


それらが少しずつ消えていく。


代わりに現れたのは。


恐怖だった。


「な……」


男が後退る。


「なんだ……」


黒が消えていく。


力が抜ける。


理解できない。


だが恐ろしい。


目の前の誠司が。


急に恐ろしく見えた。


拳を握り潰されたあの日。


思い出した。


あの男だ。


勝てない。


絶対に勝てない。


男は震え始めた。


一方。


誠司も異変を感じていた。


力が戻る。


魔王だった頃に感じていたもの。


畏怖。


威圧。


支配。


男が恐怖を感じるほど。


なぜか自分の力は増していく。


「なるほど」


誠司は笑った。


「そういうことか」


男は後退る。


誠司は前へ出る。


その瞬間。


勝負は終わっていた。


拳が振るわれる。


男が吹き飛ぶ。


別の男も。


また別の男も。


次々と倒れていく。


恐怖は伝染した。


男たちは戦えない。


ただ怯える。


誠司を見るだけで震える。


そして中心にいた男は。


完全に心が折れていた。


「やめろ……」


「来るな……」


地面に座り込む。


涙を流しながら。


頭を抱えていた。


遠くから警察車両サイレンが聞こえる。


ようやく終わった。


その時。


誠司はふと振り返る。


女子高校生。


あの子は大丈夫か?。


そう思った。


涼は地面に倒れていた。


意識がない。


誠司は近付く。


そして肩へ触れた。


そう、その身体に触れた。


その瞬間だった。


身体の奥が熱くなる。


力が流れ込む。


傷口が蠢く。


腹を見る。


あり得ない。


貫通していた傷が。


塞がっていく。


肉が。


血管が。


皮膚が。


見る間に修復される。


誠司は目を細めた。


「なんだ……これは、あの時と同じ」


理解できない。


だが。


不思議と嫌な感覚ではなかった。


身体は軽い。


むしろ今までで一番調子が良い。


少し離れたとことにいたタクが固まっていた。


「若頭?」


「なんだ」


「今、腹に穴開いてましたよね?」


「開いていたな」


「塞がってるんすけど」


「そうだな」


「怖っ」


タクは素直な感想を口にした。


誠司は少し考える。


そして言った。


「まあ、生きているなら問題ない」


「問題しかないっすよ!」


タクが叫んだ。


その時だった。


涼が小さく息を吐く。


ゆっくり目を開けた。


身体が軽い。


不思議だった。


ずっと感じていた重さがない。


最近。


学校で。


人を助けるたびに少しずつ溜まっていた黒い残滓。


それが綺麗に消えていた。


転生したばかりの頃のようだった。


「あ」


涼は起き上がる。


そして誠司を見る。


腹を押さえている。


大怪我をした人だ。


心配になる。


「大丈夫でしたか?」


誠司は固まった。


「は?」


「怪我」


「いや」


誠司は言葉を失う。


大怪我をしたのは確かに自分だ。


だが。


この子も普通ではない。


タクも頷く。


「いやいやいや」


「お嬢ちゃんの方が心配だから」


「そうですか?」


「そうです!」


二人同時だった。


涼は首を傾げる。


よく分からない。


その時。


警察車両が到着し、警察官たちが駆け寄ってくる。


涼は立ち上がる。


周囲を見回した。


逃げた者はいないだろうか。


まだ危険は残っていないだろうか。


少し気になった。


「どこ行くんだ?」


タクが聞く。


「探さないと」


「何を?」


「危ない人たち」


誠司とタクは顔を見合わせた。


警察官が駆け寄ってくる。


「君!待ちなさい!」


涼は足を止める。


そして誠司たちを指差した。


「あの、この二人を助けてあげてください」


警察官は頷く。


「分かった」


涼は安心した。


そして走り去っていく。


警察官は誠司とタクを見る。


発狂したように怯える男たち。


その前に立つ二人。


状況は明白だった。


「あなたたちが彼女を助けたんですね」


誠司とタクは顔を見合わせる。


違う気もする。


だが説明が難しい。


結局。


二人は事情聴取のためその場に残ることになった。



そして数日後。


年が明けた。


始業式前日。


涼とヒナは病院を訪れていた。


病室のベッドには蒼真がいる。


なぜか少し嬉しそうだった。


「大袈裟だよな」


蒼真が笑う。


「ただの骨折だぜ」


「ただのじゃないわよ」


ヒナが即答する。


「全治三か月だってさ」


蒼真は胸を張った。


「でも明日の始業式は行くから」


「来なくていいから」


「いや行くぜ」


「骨折してるのよ?」


「関係ない」


「あるわよ!」


ヒナが心配?して言う。


「寂しがるなよ」


「いや、寂しくない」


涼も言った。


蒼真は少し傷付いた顔をした。


その後。


ヒナが最近の話を教えてくれた。


「年末の事件だけどね」


莉乃や先生から聞いたらしい。


「あの人たち、その後河川敷に移動して女子高校生を襲おうとしてたんだって」


「そうなんだ」


涼は頷く。


「それで御堂組の人たちが助けたらしいよ」


「へえ」


「犯人は全員捕まったんだって」


「でも精神状態がおかしくなっていて、今は治療施設にいるらしいよ」


涼は静かに聞いていた。


そして。


「あとね」


ヒナが笑う。


「今回の件で部活のみんなと、御堂組の人が表彰されるんだって」


「おお!」


蒼真が嬉しそうに反応する。


「やっぱ俺ってヒーローだよな」


「違う」


二人同時だった。


蒼真はまた傷付いた。


だが。


涼は少しだけ安心していた。


あの夜。


私は見つけられなかったけど、


きっとあの二人は。


どこか別の場所でも誰かを助けて、


逃げた男の人たちを捕まえてくれたのだろう。


「よかった」


涼は微笑んだ。


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