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果てしない海 ~終焉の魔眼と白黒の勇者~  作者: kooy
第1章 転生

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16/30

第16話 おまえは何者?

十二月最後の日曜日。


朝の空気は冷たく、吐く息は白かった。


駅前商店街には正月飾りが並び始めている。


年末らしい慌ただしさの中、地域の公園には多くの人が集まっていた。


高校生。


地域住民。


商店街の人々。


そして地域ボランティア団体の関係者たち。


今日は年末恒例の清掃活動の日だった。


「寒いー!」


ヒナが両手を擦り合わせながら言った。


「寒いね」


涼も頷く。


「でも動けば温かくなるよ」


「お年寄りみたいなこと言わないで」


「そうかな?」


「そうだよ」


そんな二人の横を蒼真が通り過ぎる。


「お前ら遅いぞ」


「神宮寺くん、やっぱり来たんだ」


ヒナが即座に聞いた。


「当然だ」


「まあ、豚汁も出るらしいしな」


「それ目的だ」


「本当に目的はそれでだけ」


そう言って、ヒナは涼と、蒼馬を順に見た。


蒼真は目を逸らした。


「なに?」


涼は意味が分からないので、とりあえず微笑んだ。



集合場所の前方に、一人の男性が立っていた。


五十代後半ほど。


細身の体格。


スーツを着こなし、紳士的な人だ。


眼光は鋭いが、不思議と威圧感はない。


「皆さん、本日はありがとうございます」


落ち着いた声だった。


周囲が静かになる。


「無理はしなくていい。怪我だけはしないように」


それだけ言って頭を下げる。


ヒナが小声で言った。


「なんか会長さん、紳士的でいい人。私、好きだな」


「そうだね」


涼も頷いた。


良い人だと思った。


黒も少ない。


穏やかな人だった。


「御堂さんって、結構有名なんだよ」


莉乃が説明する。


「地域活動とか色々やってるらしい」


「なるほど」


涼は感心した。


人を助けるために動く大人。


涼は御堂を少し好きになった。


人を助けるために動く大人。


少しだけ勇者だった頃を思い出した。



やがて活動が始まる。


涼と蒼真は清掃班。


ヒナも同じ班だった。


莉乃と美羽たちは炊き出し班である。


「じゃあ、この辺担当ねー」


顧問の佐伯が地図を広げる。


「えーとね、ゴミ袋はね、こっちね」


「始まった」


ヒナが呟く。


「始まったね」


美羽も頷いた。


「ね」が多いのである。


本人は無自覚だった。



清掃活動は思ったより忙しかった。


落ち葉。


空き缶。


吸い殻。


公園の隅には意外とゴミが多い。


「人間はなぜ捨てるのだろう」


涼が真面目に呟く。


「ホントだ。ゴミ箱に捨てろよ」


蒼真が即答した。



一方その頃。


炊き出し班では。


大鍋から湯気が立ち上っていた。


「莉乃ー!」


「なに?」


「こんにゃく切った!」


「大きいよ」


「え?」


「それほぼ岩じゃん」


「え?」


美羽が固まる。


周囲から笑い声が上がった。


最初は面倒だと思っていた。


休日だ。


家で勉強をしたい。そう考えていた部員も多い。


しかし。


昼近くになると。


「ありがとう」


「温まるわあ」


「美味しい!」


地域の人たちが笑顔になる。


その様子を見て、莉乃は少しだけ驚いていた。


テストで高得点を取る。


順位が上がる。


それとは違う。


数字では測れない達成感があった。



「よし!豚汁だ!」


いつの間にか蒼真が列に並んでいた。


そして。


「やったー、豚汁いただきまーす!」


蒼真が嬉しそうに頬張る



その頃。


公園から少し離れた場所。


数人の男たちが集まっていた。


その中心に目付きの悪い男がいる。


以前。


誠司に拳を潰された男。


今でも恨みは消えない。


思い出すだけで腹が立つ。


恐怖も蘇る。


あの男には勝てない。


二度と関わりたくない。


だが。


その父親なら。


「御堂を潰せ!」


男が吐き捨てる。


「そうすれば、あの野郎にも復讐できる」


黒い感情が膨らむ。


怒り。


嫉妬。


執着。


それを見つめる存在がいた。


離れたビルの屋上。


夜乃だった。


「いいわね」


楽しそうに笑う。


「良い闇です」


そして夜乃は蒼真を見た。


勇者。


夜乃は蒼真の抹殺を狙っていた。勘違いとも知らずに。


だからこそ。


蒼真の周囲で育つ闇に興味があった。


夜乃の力が男たちに流れる。


男たちの黒が膨らんだ。


さらに大きく。


さらに濃く。



夕方。


活動は終盤を迎えていた。


清掃班が戻ってくる。


炊き出し班は後片付けを始めている。


「疲れたー」


ヒナが伸びをする。


「でも楽しかったね」


「そうだね」


涼も頷く。


その時だった。


公園の裏手。


御堂が倉庫へ向かう。


そして。


物陰から男たちが飛び出した。


「やれ!」


鉄パイプ。


角材。


怒号。


一瞬だった。


「危ない!」


ヒナが叫ぶ。


御堂が振り向く。


間に合わない。


だが。


その前に。


蒼真が飛び出していた。


「おっさん!」


ガンッ!


鉄パイプを腕で受ける。


激痛が走る。


「君は、下がれ」


「一般の参加者を避難させてくれ」


御堂が言った。


「無理だろ!」


蒼真は男たちの前へ出た。


参加者の方へ行かせるわけにはいかない。


「おい、君!そっちは」


御堂の声は、蒼真に届いていなかった。


蒼真の身体は勝手に動いていた。


しかし、男たちに囲まれていく。


二人。


三人。


四人。


蒼真は応戦する。


空手で鍛えた身体。


一対一なら負けない。


だが相手は多い。


後ろから蹴られる。


横から殴られる。


それでも立つ。


また立つ。


蒼真は男たちが参加者のところへ。


涼たちのところへ行かないように応戦した。



「美羽!」


莉乃が叫んだ。


「動画撮って!」


「えっ!?」


「証拠!」


「あっ!」


美羽が慌ててスマホを取り出す。


手が震えている。


怖い。


それでも撮影を始めた。


「みんなは避難誘導!」


「先生は警察に連絡を!」


莉乃の指示が飛ぶ。


周囲が動き始める。



「誰か来てーーー!」


ヒナの声が公園中に響いた。


その大きな声に遠くの人まで振り返る。



蒼真は限界に近かった。


男の一人が鉄パイプを振り上げる。


顔面へ。


避けられない。


次の瞬間。


カンッ!


乾いた音が響いた。


鉄パイプを持った男が固まる。


蒼真も固まる。


そこには。


清掃用の箒を持った涼がいた。


「は?」


蒼真が呟く。


鉄パイプが弾かれている。


箒で。


意味が分からない。


さらに別の男が女子生徒たちへ向かった。


涼が動く。


一瞬だった。


気付けばもう女子生徒たちの前にいる。


男が目を見開く。


「なん――」


「危ないな」


涼は箒を構えた。


自然な動作だった。


まるで剣を握るように。


勇者だった頃の癖。


本人は気付いていない。



振る。


角材が弾かれる。


振る。


男が尻餅をつく。


振る。


近寄れない。


誰も大怪我はしない。


だが。


誰も突破できない。


蒼真は見ていた。


全部見ていた。


移動速度。


反応速度。


身体の使い方。


おかしい。


絶対に女子高校生の動きではない。



やがて。


パトカーのサイレンが聞こえた。


男たちは顔を見合わせる。


目付きの悪い男は指示を出す。


「逃げるぞ!」


一斉に走り出す。


その時。


涼はその目付きの悪い男を見た。


中心にいた男。


右拳に包帯を巻いた男。


その身体に。


とても大きな黒い棘がいくつも見えた。


この世界で見たこともない。


濃い。


重い。


胸の奥で何かがざわつく。


「……」


だが。今は追えない。


男たちは闇の中へ消えていった。



騒ぎが落ち着く。


蒼真は地面に座り込んでいた。


腕が痛い。


顔も痛い。


全身が痛い。


「大丈夫か?」


涼が覗き込む。


「……ああ」


蒼真は答える。


少し沈黙する。


そして。


涼を見る。


「なあ」


「なんだ?」


「お前」


蒼真は言葉を選ぶ。


「本当に何者なんだ?」


涼は首を傾げた。少し考えた。


「ん、ただの女子高校生だよ」


「?」


涼には質問の意味が分からなかった。


「そういう意味じゃねえ」


「……」


蒼真は頭を抱える。


だが一つだけ確信した。


自分より強い。


圧倒的に。


目の前の涼は。


絶対に何かを隠している。


夕暮れの空は赤かった。


そして。


誰も知らない場所で。


男たちの闇はまだ静かに膨らみ続けていた。


「莉乃、蒼真。カッコ良かったね」

「え、ええ。なんで私にいうの?音羽」

「前から気になっているんでしょ」

「ちょ、ちょっとやめて。もう」

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