専属聖女そしてプロポーズ?
カリスト公爵に抱きかかえられたまま、私は王宮の長い廊下を運ばれていました。
視界に入るのは、彫刻のように整った彼の顎のラインと、私の言霊のせいでいまだにキラキラと発光し続けている彼の軍服の肩。
(……やばい。尊さの過剰摂取で視神経がやられる。っていうか、さっきからすれ違う侍女さんたちが、発光する閣下を見て拝み始めてるんだけど!?)
「あの……閣下。もう歩けますので、降ろしていただいても……」
「ダメだ。君は今、僕が保護した『重要な証拠品』のようなものだからね。勝手に動かれては困る」
カリスト様は、前を向いたまま涼しい顔で言いました。でも、その声には隠しきれない「面白がっている響き」が混ざっています。
「それにしても、この光……。君が僕を『聖光』だなんて言うから、さっきから街の方角にまで光が漏れ出しているらしい。今頃、民衆は新しい神でも降臨したかと騒ぎになっているだろうね」
「うっ……。申し訳ありません、つい語彙力が死んでしまって……」
「謝ることはない。退屈な王宮行事に飽き飽きしていたところだ。……さて、着いたよ。ここが僕の執務室だ」
彼は私をふかふかのソファに、まるで壊れ物を扱うように――あるいは珍しい標本を置くように――そっと降ろしました。
そして、自分は対面の机に腰掛け、足を組んで私をじっと見つめます。
「さて、エレナ。改めて聞こう。君は、僕が『死の運命さえねじ伏せる超越者』だと言ったね?」
「は、はい。閣下はゲーム……ではなく、この国の歴史上、最も気高く、最強で、どんな絶望的な戦況もひっくり返す、まさに概念を超えた存在ですので!」
「ふむ。……では、試してみようか」
カリスト様は、机の上にあった、魔力が枯渇してひび割れた「古の魔道具」を手に取りました。それは宮廷魔導師たちが数十年かけても直せなかったという、伝説の遺物です。
「これを、君の言葉で『定義』してみてくれないか?」
「えっ、私がですか? そんな、恐れ多い……」
「いいから。君が思う、僕に相応しい道具としての姿を語ればいい」
彼の黒い瞳が、期待に満ちて輝いています。
(……そんな顔で見つめられたら、断れるはずがない!)
私は意を決して、そのボロボロの魔道具を凝視しました。
「閣下が手に持つものは、ただのガラクタではありません! それは、閣下の深淵なる魔力に応え、天の理さえも書き換える、神の智慧が宿る至宝です! 閣下の指先が触れるだけで、その傷跡は銀河の輝きを秘めた装飾へと生まれ変わるはずなんです!!」
――キィィィィィン!!
次の瞬間、執務室全体がまばゆい銀色の光に包まれました。
光が収まった時、カリスト様の手にあったはずのひび割れた石は、見たこともないほど巨大で美しいダイヤモンドのような輝きを放つ宝珠へと変貌していました。
「……ははは! 見事だ。本当に、言葉一つで世界の理を上書きしたな」
カリスト様は、手の中の至宝を無造作に放り投げると、私に近づき、逃げ場をなくすようにソファに両手をつきました。いわゆる、ソファ・ドンです。
「エレナ。君は自分がどれほど恐ろしい……いや、魅力的な力を持っているか自覚しているかい?」
「あ、あの、私はただ、閣下を推しているだけで……」
「そう、その『愛』だ。君の偏った……おっと、熱狂的な情熱が、僕の周囲の法則を書き換えてしまう。……面白い。これほど退屈しのぎになる存在に、今まで出会ったことがない」
カリスト様は、私の頬を指先でなぞりました。その手つきは驚くほど優しいのに、瞳の奥には底知れない独占欲が渦巻いています。
「今日から君は、この公爵邸の『特別顧問』だ。……いや、僕の『専属聖女』として、一生僕の隣で愛を囁き続けてもらう。……逃げようとしても無駄だよ? 君が僕を『逃げられない運命の相手』だと口にした瞬間に、本当にそうなってしまうんだから」
「……っ!」
(……待って。今の、プロポーズ!? それとも、一生かけての公開処刑!? どっちにしろ尊すぎて、心臓がオーバーヒートする……!!)
「さあ、エレナ。次は僕の何を褒めてくれる? 君の言葉で、僕をどこまで変えてくれるのかな?」
腹黒い笑みを浮かべた推しに、至近距離で見つめられる。
私の、国外追放どころか「心臓追放」されそうな激動の日々が、幕を開けたのでした。




