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固有スキル【生成AI】で異世界全自動化 〜魔法陣はAIで組み、国はAIが建て、気づけば俺の仕事がなくなりました〜  作者: 歩人


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第98話: 王が俺たちを守った

 前線が崩れかけた瞬間、カイルの剣が折れた。


 金属の悲鳴が戦場に響いた。ヴィクトルが量産した標準装備剣——AI最適化鍛造の最高傑作と謳われた一振りが、魔王軍の前衛が放った紫黒の瘴気しょうきに触れた途端、刀身に亀裂が走り、砕けた。


「なっ——!」


 カイルが柄だけになった剣を見下ろす。同時に、前線の至るところで同じ音がした。


 折れる音。砕ける音。叫び声。


 ノエルの冷たい声がレンの耳に響いた。


「主様、前線のヴィクトル式武器が一斉に脆化ぜいかしています。被害規模——全装備の約七割」


「七割だと……!?」


 レンは指揮所の投影盤を睨んだ。前線に展開する連合軍の武器状況がリアルタイムで更新されている。赤い点が次々に増えていく。すべてヴィクトルが提供した量産武器だ。


「概念干渉です」


 ノエルが淡々と分析を続けた。


「魔王軍の瘴気が、武器に刻まれた魔法陣に干渉しています。AIが生成した魔法陣は構造が均質なため、一つの干渉パターンで全てを無力化できる。——均質であることが、弱点になっています」


「全部同じ設計図だから、全部同じ方法で壊せるってことか」


「左様です。セキュリティで言えば、同一パスワードを全アカウントに設定したようなものですね」


 ノエルの毒舌が、今は痛い。




 ヴォルフは前線の少し後方——鍛冶陣地にいた。


 仮設の炉が赤く燃えている。戦場に設けた応急修繕所だ。折れた剣、砕けた槍、ひしゃげた盾を抱えた兵士たちが列を成している。


 だが——列には妙な偏りがあった。


 ヴィクトル式の量産武器を持つ兵士は、全員が修繕を求めている。刀身が灰色に変色し、触れれば崩れるほどに脆くなっていた。


 一方で、ヴォルフが仕上げた武器を持つ兵士は——立っている。武器を構えたまま、前線に向かっている。


 若い兵士が、ヴォルフの前で剣を掲げた。


「鉄翁殿、この剣は……無事です。隣の奴の剣が砕けたのに、俺のは何ともない」


「当たり前だ」


 ヴォルフは短く答えた。鉄を叩く手を止めなかった。


「一振り一振り、使う奴の手に合わせて打っておる。魔法陣も、刃紋も、重心も——全部違う。同じ鋳型から出したもんじゃない」


 若い兵士が、剣を見つめた。柄を握り直した。手に馴染む。ゴーレムが打った均質な握りとは違う。自分の手の形に沿うように、わずかに膨らんだ柄。


「この剣、手に馴染むんです。ゴーレム製とは全然違う」


「……ふん」


 ヴォルフの口元が、微かに動いた。笑みとは呼べない。だが——鍛冶師としての矜持が、炉の火より熱く燃えていた。


「行け。その剣は折れん。——わしの名にかけて」


 兵士は頷いて、前線に駆けていった。




 レンは投影盤の前で拳を握った。


 三つの武器が、戦場で試されている。


 一つ目——ヴィクトルのAI完全量産武器。品質は均一。生産速度は圧倒的。だが構造が同一であるがゆえに、一つの攻撃パターンで全てが崩壊した。


 二つ目——伝統軍の完全手作り武器。職人が一本一本手で打った刃は、概念干渉に耐えている。だが数が足りない。戦場に必要な数の十分の一しか供給できていない。


 三つ目——レンとヴォルフの共同鍛造武器。AIによる粗打ちで生産量を確保し、ヴォルフの手仕上げで一本一本に個性を与えた。品質と量を両立させた、第三の選択肢。


「ノエル。共同鍛造武器の被害状況は」


「脆化ゼロです。一本も折れていません」


 レンは——息を吐いた。


「あの爺さんの言った通りだ。『手は嘘をつかない』」


「主様」


 ノエルの声のトーンが変わった。


「ヴィクトル様から通信です。——お怒りのようです」




 ヴィクトルの声が、精霊通信越しに聞こえた。冷静であるはずの声に、初めて感情の揺れがあった。


「レンハルト。俺の武器が壊れた。全てだ。なぜだ」


「お前の武器は全部同じ設計だ。一つ壊す方法がわかれば、全部壊せる。——俺は前に言ったよな。『多様性がないシステムは脆い』って」


「……」


「ヴィクトル。今は責めてる場合じゃない。お前の兵士が丸腰で最前線に立ってる。武器脆化の影響を受けたのは第三大隊から第七大隊まで、計二千四百名。うちの共同鍛造武器を前線に回す。在庫は八百本。足りない分は追加で打たせる。受け取れ」


 沈黙が長かった。


「……なぜ助ける。俺は、お前の避難判断を愚策だと言った」


「覚えてるよ。でも今、お前の兵士が丸腰で前線に立ってる。兵士に罪はない。——届けるから、使ってくれ」


 通信が切れた。ヴィクトルが何か言おうとして、言えなかった気配だけが残った。




 前線の混乱が収まり始めたのは、共同鍛造武器が行き渡った後だった。


 だが、レンの頭の中では別の計算が回っていた。


 ——武器は足りない。共同鍛造の在庫にも限りがある。ヴォルフが一人で仕上げられる本数には物理的な上限がある。


「ダリウスさん」


「はい」


「避難所の状況は」


「住民の避難は完了しています。アルゴリズ中心部の地下避難施設に——」


「違います。避難所の住民に、志願兵を募れるか聞いてもらえますか」


 ダリウスの手が止まった。


「……住民に、戦えと?」


「強制はしません。志願だけです。——あと、武器を持てなくても、できることはあります。物資の運搬、負傷者の手当て、情報の伝達。前線だけが戦場じゃないですから」


 ダリウスは——眼鏡を押し上げた。そして頷いた。


「了解しました。ただし、結果は保証いたしかねます」


「わかってます」




 結果は——レンの予想を超えた。


 避難所から、人が出てきた。


 最初に来たのは鍛冶屋の親方だった。手作りギルドの金のハンマー紋章をエプロンに付けたまま、槌を手に前線陣地に現れた。


「王が俺たちを守った。今度は俺たちが守る番だ」


 声は低く、太かった。親方の後ろに、職人が四人続いていた。全員がエプロン姿で、手に道具を持っている。


「鍛冶場をもう一つ立てる。折れた武器の修繕と、新しい武器の鍛造。——手は動く。武器も作れる」


 レンは言葉が出なかった。


 次に来たのは——フィオだった。


 学舎の制服のまま、息を切らして走ってきた。後ろに、第二期生の子供たちが七人。


「先生!」


「フィオ、なんでここに——」


「僕たちにもできることがある!」


 フィオの声が震えていた。怖い。それは見ればわかる。だが——目は逃げていない。


「AIの情報分析なら——嘘を見抜けます! 先生が教えてくれたでしょ! クロスリファレンスで情報の真偽を判定する方法!」


 レンは——一瞬、目を閉じた。


 自分が教えたことが、ここで返ってくるのか。


「先生が教えてくれたのは、疑う力だった。でも——疑うだけじゃなくて、守るためにも使えるんです」


「……フィオ」


「指示ください、先生。——僕たち、戦場には出られない。でも情報なら、読めます」


 レンはフィオの肩に手を置いた。


「前線の報告書が大量に来る。その中に、嘘の情報——偽報が混じってる可能性がある。みんなの仕事は、それを選り分けることだ。間違った情報で部隊が動いたら、人が死ぬ。——できるか」


「できます」


 フィオの声が、もう震えていなかった。




 手作りギルドの職人たちが来た。


 革細工師が予備の防具を持ち込んだ。織物師が包帯用の布を運んだ。パン屋の女将が、焼きたてのパンを山積みにした木箱を背負っていた。


「腹が減っちゃ戦えないだろう!」


 パン屋の女将が木箱を下ろした。湯気が立つ。戦場に、焼きたてのパンの匂いが広がった。


 兵士たちの目が——変わった。


 疲弊した顔に、生気が戻る。パンの匂いが、ここが守るべき場所だと思い出させる。


 エルナは——少し離れた場所で、自分のパンを配っていた。レンの目と合った。


「……レンの国の人たち、すごいね」


「俺が募集したわけじゃない。自分で来たんだ」


「知ってる。だから、すごいって言ってるの」


 エルナがパンをレンに差し出した。


「レンも食べなさい。指揮官が倒れたら終わりでしょ」


 レンはパンを受け取った。噛んだ。焼きたてのライ麦パン。いつものエルナの味がした。戦場のど真ん中で、いつもの味。


「……うまい」


「当然でしょ」


 エルナが背を向けた。次のパンを兵士に配りに行く。粉まみれのエプロンが揺れている。


 レンは——パンの最後の一口を飲み込んで、投影盤に向き直った。


 鍛冶場が二つに増えた。情報班が発足した。物資の補給線が住民の手で組まれ始めている。


 これはAIの最適解じゃない。


 人が自分で決めて、自分で動いた結果だ。




 イグニスの声が頭上から降ってきた。


「小僧。北東の防衛線に魔王軍の第二波が来るぞ」


「規模は」


「第一波の倍はある」


「……倍か」


 レンは投影盤を叩いた。全軍に指示を出す。共同鍛造武器を持つ部隊を北東に集中配備。フィオの情報班に偵察報告の精査を指示。ダリウスに補給線の再編を命じる。


 そして——鍛冶陣地のヴォルフに通信を飛ばした。


「ヴォルフさん。追加の武器は間に合いますか」


「間に合わせる」


 短い返答だった。ヴォルフの背後で、手作りギルドの鍛冶師たちの槌の音が聞こえた。ヴォルフの指導の下、粗打ちを手分けしている。


「粗打ちをこいつらに任せる。仕上げはわしがやる。——数は出る」


「頼みます」


 通信が切れた。


 レンは——前線を見た。


 鍛冶屋の親方が炉の前で汗を流している。フィオの班が報告書を読み漁っている。パン屋の女将が兵士にパンを押し付けている。エルナが負傷兵に水を運んでいる。


 誰も、AIに「やれ」と言われたわけじゃない。


 自分で来た。自分で決めた。自分で動いている。


 ——これが、俺がやりたかったことだ。


 最適解じゃない。効率的でもない。鍛冶屋の親方は素人だし、フィオはまだ子供だし、パン屋の女将の声はデカすぎる。


 でも——全員が、自分の意志でここにいる。


「ノエル」


「はい、主様」


「前線の戦況を全軍に共有しろ。——隠すな。良いニュースも悪いニュースも、全部伝えろ」


「……よろしいのですか。悪い情報は士気を下げる可能性が——」


「隠す方が信頼を壊す。——俺は、こいつらを信じる」


 ノエルは——一拍、間を置いた。


「かしこまりました。——主様、控えめに申し上げて、それは賢明なご判断かと存じます」


 ノエルに褒められたのは、たぶん初めてだった。




 北東の空が、紫黒に染まり始めた。


 魔王軍の第二波が、地平線を覆い尽くすように押し寄せてくる。


 レンはパンのカスを払い、立ち上がった。


「さて——第二ラウンドだ」


 背後で、鍛冶の槌の音が響いている。焼きたてのパンの匂いが漂っている。フィオの声が「この報告、整合性取れてません!」と叫んでいる。


 最適解なんてない戦場で、不完全な人間たちが立っている。


 ——悪くない。悪くないぞ、この国。



最後まで読んでいただきありがとうございました。


第98話「王が俺たちを守った」。第8アーク「世界最適化戦争・防衛編」の一話です。


このエピソードのテーマは「3つの武器哲学」でした。ヴィクトルの完全AI量産は効率的だが脆い。伝統の完全手作りは強いが数が足りない。レンとヴォルフの共同鍛造は、その両方を補う第三の道。これはまさにこの作品全体のテーマ——「AIと人間の最適な境界線はどこか」の縮図です。


そして、避難させた住民たちが自ら志願するシーン。レンが「強制はしない」と言ったのがポイントです。ヴィクトルの国では「AIが志願は非効率と判断する」ので誰も動かない。レンの国では、人が自分で考え、自分で決め、自分で動く。その差が、次話の核心に繋がります。


フィオの「先生が教えてくれたのは疑う力だった。でも守るためにも使える」という台詞は、Arc5の教育テーマの回収です。教えたことが、最も予想しなかった場所で花を咲かせる。それが教育の本質かもしれません。

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