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固有スキル【生成AI】で異世界全自動化 〜魔法陣はAIで組み、国はAIが建て、気づけば俺の仕事がなくなりました〜  作者: 歩人


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第81話: お前は危険な男だ

 夜。執務室の灯りの下で、レンは水鏡の映像を三度目に再生していた。


 ノエルが水面に映し出す映像は、淡い青色の光を帯びている。ゴーレム恐慌の前——市場通りで「旅人」として出入りしていた男たちの記録。フードを深く被り、顔を隠しているが、足運び、体の使い方、視線の配り方。それぞれが特徴的な癖を持っていた。


「ご主人様。この三名の行動パターンと、セントラリア使節団の護衛騎士の行動パターンを重ねた結果を、改めてお見せいたします」


 ノエルの声は丁寧だが、内容は冷徹だった。


 水鏡の映像が二分割される。左には「旅人」の足運び。右にはアルデンの配下である騎士たちの歩行映像。歩幅、体の揺れ方、角を曲がる時の体軸の取り方——。


「一致率、九十七パーセントです。三名のうち二名は完全一致。残る一名も靴を変えた程度の差しかございません」


「つまり、アルデンの部下が『旅人』としてアルゴリズに出入りしていた」


「左様です」


 レンは椅子の背にもたれた。天井を見上げる。


 ——わかっていた。ゴーレム暴走の陰に外国の工作があったことは、Arc6の終わりで掴んでいた。だが、それがセレスティア姫の護衛騎士——アルデンの配下だったとなると、話が変わる。


「イグニス」


 炎がふわりと灯った。レンの肩口で、小さな火の精霊が欠伸をしている。


「聞いてた?」


「聞いてたよ。つまりあの銀髪の堅物が黒幕ってことだろ」


「黒幕かどうかはまだわからん。姫様が命じたのか、アルデンの独断か——」


「どっちにしろ、ゴーレム暴走で人が怪我してる。オルグのじいさんの弟子が店を畳んだのも、元を辿ればあいつらのせいだ」


 イグニスの炎が、わずかに揺れた。怒りの色。


 レンは立ち上がった。


「アルデンを呼ぶ。二人で話す」


「おい、一人で行く気か。あいつは剣の達人だぞ」


「だから呼ぶんだ。こっちの土俵で」




 深夜の城壁塔。


 レンが指定した場所は、アルゴリズの東壁の見張り塔だった。精霊灯が一つだけ灯る、狭い石造りの部屋。窓の外には月光に照らされた平原が広がっている。


 アルデンは、呼び出しに応じた。


 白銀の騎士鎧を纏い、剣を帯びたまま。銀髪が月明かりに冷たく光っている。鋼色の目がレンを捉え——微かに警戒の色を浮かべた。


「こんな時間に、こんな場所に呼び出すとは。何の用だ、アルゴリズ王」


「二人きりで話したかったんでね」


 レンが精霊灯のそばの椅子に腰を下ろした。アルデンは立ったままだ。


「座れよ。剣は抜かなくていい」


「私は立つ。用件を聞こう」


「じゃあ単刀直入に」


 レンの目が——据わった。普段のカジュアルな空気が消え、冷たい分析者の目に変わる。


「お前が『旅人』としてアルゴリズに出入りしていたのは知っている」


 アルデンの手が、剣の柄にかかった。


「お前の部下が三名、ゴーレム恐慌の前からこの国に潜入していた。精霊ネットワークを通じた制御魔法陣への改竄——ゴーレム暴動に金を流していたのも、お前たちだ」


 沈黙。


 石造りの塔に、風の音だけが響いている。


「——セントラリアの密偵だな?」


 アルデンの手が——剣の柄を握った。関節が白くなるほど強く。


 数秒。


 十秒。


 ——抜かなかった。


 長い沈黙のあと、アルデンの手がゆっくりと柄を離れた。


「……偵察して確信した」


 アルデンの声が、低く響いた。騎士の格式ばった口調ではなく、もっと素の声。


「お前は危険な男だ。AIで一国を作り変える力がある。だが——」


 一拍。鋼色の目がレンを見据えた。


「——敵ではない」


「敵じゃないなら、なぜ暴動を煽った?」


「……姫殿下のためだ」


 アルデンが——初めて、目を伏せた。


「政略婚の条件を有利にするために、お前の国を揺さぶれと命じられた。——いや」


 言い直した。


「命じられた、というのは正確ではない。上層部からの示唆があった。姫殿下の外交を有利にするために、アルゴリズの不安定要素を増やせ、と。——私はその示唆に従い、独断で配下を送り込んだ」


「姫様は知っているんですか」


「姫殿下は知らない」


 アルデンの声に、初めて苦しみの色が滲んだ。


「姫殿下の外交を——いや、姫殿下の未来を守るためだった。政略婚が成立すれば、セントラリアの技術的遅れを一気に取り戻せる。そのためにアルゴリズの立場を弱くすれば、交渉で姫殿下が主導権を握れる。——卑怯な手だった」


「卑怯だな」


 レンが静かに言った。感情を抑えた声。


「ゴーレム暴走で怪我人が出た。市場で暴動が起きた。店を畳んだ職人がいる。家族を養えなくなった人間がいる」


「……」


「アルデン。お前が——命令を遂行しきれなかった理由を、聞いていいか」


 アルデンが顔を上げた。


「遂行しきれなかった、とは」


「ノエルのデータによると、工作活動は暴動の三日前に停止している。暴走の種だけ撒いて、追加の工作をやめた。なぜだ」


 アルデンが——唇を噛んだ。


 長い沈黙。月明かりが窓から差し込んで、騎士の銀髪を照らしている。


「……この国の職人たちの顔を見ているうちに」


 声が、かすれた。


「命令を遂行する気が失せた」


「どういう意味だ」


「オルグの鍛冶通りで、一人の鍛冶師が泣いていた。息子が街を出て、工房を継ぐ者がいなくなったと。六十年の技が途絶える、と」


 レンの脳裏に、ヴォルフの顔が浮かんだ。いや——ヴォルフではない。もっと無名の、もっと普通の鍛冶師。


「あの鍛冶屋の親父が泣いていた。あれは——」


 アルデンの声が震えた。


「——俺の父と同じ顔だった」


 口調が崩れた。「私」ではなく「俺」。騎士の仮面が、一瞬だけ剥がれた。


「父は鍛冶師だった。騎士の家系などではなく、田舎の鍛冶師の倅だ。父の技は——時代に合わないと言われ、工房は潰れ、俺は騎士になるしかなかった。剣が振れたから、取り立てられた。それだけだ」


 レンは——黙って聞いていた。


「だから、わかった。この国の職人が何を失いかけているか。ゴーレムに仕事を奪われ、誇りを踏みにじられ——それをさらに外から煽るのは、俺がやっていいことじゃなかった」


 アルデンが背筋を正した。騎士の姿勢に戻る。だが、目は——さっきより正直だった。


「全ての責は私にある。姫殿下を巻き込むつもりはない」




 翌朝。


 セレスティアの私室に、レンとアルデンが並んで立っていた。


 報告を聞き終えたセレスティアの顔は——凍りついていた。


 プラチナブロンドの髪が、窓からの朝日に輝いている。深い青の瞳が、アルデンを射抜いていた。


「アルデン」


 氷のような声。


「わたくしは工作を命じていないわよ?」


「……姫殿下の外交を有利にするための独断です。全ての責は私に——」


「そんなことを聞いているのではないわ」


 セレスティアが立ち上がった。ティアラが朝日を弾いて光る。


「わたくしの名を——汚したのよ。あなたは」


 アルデンが頭を垂れた。


「セントラリアの王女が、卑怯な工作で他国を揺さぶったと。そう思われるのよ? わたくしが。わたくしの名前で」


 声が震えている。怒りで。


 そして——。


「ちょっと!」


 地が出た。


「なんでそういう勝手なことするのよ! わたくしの交渉力を舐めてるの!? 正面から行ってもセントラリアが負ける相手じゃないでしょ! なんで裏工作なんか——あたしの面子どうしてくれるの!」


 「わたくし」が「あたし」になっている。品のある王族口調が完全に崩壊している。


 レンは——ちょっと驚いた。


 そしてアルデンは——さらに深く頭を垂れた。


「……面目次第もございません」


「面目次第もないじゃないわよ! あたしが何年かけて外交戦略を練ってきたと思ってるの! 正攻法で技術提携を勝ち取る算段だったのに、裏で工作してたなんて知れたら——」


 セレスティアが息を吸った。荒い呼吸を整える。


 数秒後、王女の仮面が戻った。だが、目の奥にはまだ炎が燃えている。


「……レンハルト殿」


「はい」


「わたくしは、この件を知りませんでした。信じてもらえるかはわかりませんが」


「信じますよ」


 レンがあっさり言った。


 セレスティアが、意外そうに目を瞬いた。


「……根拠は?」


「姫様が工作を命じていたなら、もっと上手くやっています。ノエルに三日で特定されるような雑な工作を、姫様がやるとは思えません」


「……褒められているのか貶されているのか、微妙なところですわね」


「褒めてますよ。姫様は聡明ですから」


 セレスティアが——少しだけ、口元を緩めた。だがすぐに表情を引き締めた。


「アルデン」


「はい」


「あなたの処分は——追って決めます。今は使節団の任務を優先しなさい」


「姫殿下——」


「黙りなさい。わたくしが怒っているのは、あなたの忠誠心ではなくて——」


 セレスティアが言葉を切った。何かを飲み込むように。


「……あなたが、わたくしを信じなかったことよ」


 アルデンの肩が——震えた。


 それ以上、何も言わなかった。




 セレスティアの私室を出た後。


 廊下を並んで歩く二人の間に、奇妙な空気が漂っていた。


 敵対の空気ではない。かといって友好でもない。何か——新しい種類の距離感。


「レンハルト」


 アルデンが口を開いた。


「何だ」


「なぜ、これを姫殿下に直接報告した? 私を投獄することも、外交問題にすることもできたはずだ」


 レンは頭を掻いた。いつもの癖。


「投獄しても意味がない。外交問題にしたら姫様との交渉が潰れる。それは俺にとっても損だ」


「損得勘定か」


「半分はな」


 レンが立ち止まった。窓の外の朝のアルゴリズを見下ろす。市場通りに人が動き始めている。


「もう半分は——お前の顔を見てわかった。あの鍛冶師の話をした時のお前は、嘘をついていなかった」


 アルデンが——何かを言おうとして、やめた。


「それと」


 レンが振り返った。


「お前が密偵として何ヶ月もこの国を見てきたなら——この国の何が見えた?」


「……」


 アルデンは答えなかった。だが、その沈黙が答えだった。


 見えたのだろう。ゴーレムだけの国ではないことが。職人が誇りを取り戻し始めていることが。パン屋の娘が笑顔で焼いたパンが、国の顔になっていることが。


「……一つだけ言わせてもらう」


 アルデンが低い声で言った。


「お前は——やはり危険な男だ。AIで国を建てるだけでなく、人の心まで動かす」


「大袈裟だな」


「大袈裟ではない。密偵として潜入した私が、工作を止めた。——それだけでも証明になっている」


 レンは——少し笑った。


「お前、褒めてるのか脅してるのか」


「……自分でもわからない」


 アルデンが微かに口元を緩めた。この男が笑ったのを見たのは、初めてだった。


「レンハルト」


「ん」


「借りができた。——騎士として、返す」


「どう返すつもりだよ」


「剣で」


 アルデンの目が、真っ直ぐにレンを見た。鋼色の瞳に、騎士の矜持が戻っている。


「密偵として暗躍した私を、お前は正面から問い詰めた。裏工作ではなく、面と向かって。——ならば私も、正面から返す」


「まさか決闘とか言わないよな」


「決闘だ」


「言ったよ」


 レンが頭を抱えた。


「剣で語れ、アルゴリズ王。それが騎士の流儀だ」


「いや、俺は剣なんか——」


「逃げるのか?」


「逃げるというか、スペックの問題というか——」


「三日後。城壁外の訓練場で待つ」


 アルデンがマントを翻して去っていった。白銀の鎧が廊下の奥に消える。


 レンは窓枠にもたれて、深いため息をついた。


「……詰んだ」


 肩口で、イグニスの炎がゆらりと揺れた。


「おい、レン。あいつ本気だぞ」


「わかってる」


「お前、剣なんか振ったことあるのか」


「ない」


「終わったな」


「うるさい」


 窓の外で朝日が昇り始めていた。アルゴリズの屋根が金色に染まっていく。


 三日後。


 ——どうやって生き残るか、考えなければならない。


 AIに聞いてみようか、と一瞬思った。「最強の騎士との決闘で生き残る方法」と。


 だが——。


 アルデンが正面から来ると言った。騎士の流儀で、と。


 なら、こちらも正面から行くしかない。


 レンは窓から離れ、廊下を歩き出した。向かう先は——カイルの宿舎だ。


 剣を教えてくれる人間は、一人しかいない。



最後まで読んでいただきありがとうございました。


第81話「お前は危険な男だ」。アルデンの正体が発覚し、レンとの対峙が描かれました。


このエピソードで一番書きたかったのは、アルデンが口調を崩す瞬間です。「私」が「俺」になり、「騎士の家系」ではなく「田舎の鍛冶師の倅」だった本当の出自が漏れる。騎士道の仮面の下に、父と同じ痛みを知る人間がいた。


そしてセレスティアの怒り。「わたくし」が「あたし」に崩れる瞬間は、この王女キャラの一番おいしいところです。怒りの理由が「裏工作をしたこと」ではなく「わたくしを信じなかったこと」だという点に、セレスティアとアルデンの関係の深さが表れています。


次話「騎士の流儀」では、レンが人生初の剣術特訓に挑みます。カイルのスパルタ指導と、レンの絶望的な運動音痴が炸裂するコメディ回です。

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