表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
固有スキル【生成AI】で異世界全自動化 〜魔法陣はAIで組み、国はAIが建て、気づけば俺の仕事がなくなりました〜  作者: 歩人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/99

第73話: 暴走ゴーレム

 怒号が、壁を揺らした。


 レンが執務室を飛び出した時、市場広場はすでに群衆で埋まっていた。


 反ゴーレム派の集会。昨日までは数十人だった人だかりが、今日は二百を超えている。プラカードを掲げた男たち。声を張り上げる女たち。子供を抱えて不安そうに見守る母親たち。


「ゴーレムを止めろ!」


「俺たちの仕事を返せ!」


「人間の手で作ったものに価値がある! 機械に奪わせるな!」


 レンは広場の端に立って、群衆を見渡した。


 マルクの姿があった。群衆の中央で、両手を広げて何かを訴えている。声は群衆の怒号に紛れて聞こえないが、身振りから察するに——暴力を抑えようとしているらしい。あの男なりの線引きだ。


 だが、群衆は制御を超えつつあった。


 端の方で、若い男が積み荷用ゴーレムに石を投げた。鉄の体にかつん、と乾いた音が響く。ゴーレムは反応しない。命令がなければ動かない——それが正常な動作だ。


 もう一つ石が飛んだ。三つ目。四つ目。


 ゴーレムは微動だにしない。


 その沈黙が、逆に群衆を苛立たせた。


「こいつら、石をぶつけても何も感じねえんだ!」


「感じねえから俺たちの仕事を奪えるんだよ!」


 レンは奥歯を噛んだ。


 ——止めなきゃいけない。でも、どうやって。


 彼らの怒りには理由がある。ゴーレムの自動化で仕事を失った。家族を養えなくなった。技術に誇りを持っていた鍛冶師が、荷運び人が、石工が——「お前はもう要らない」と機械に言われた。


 その怒りを「やめろ」の一言で止められるはずがない。


 レンが群衆に向かって一歩踏み出そうとした時——


 地面が、揺れた。




 最初は地震かと思った。


 違った。


 振動は地面の奥からではなく、工房地区の方角から来ていた。規則的で、重い。巨大な何かが歩いている振動。


 ずしん。ずしん。ずしん。


 群衆の怒号が止まった。全員が同じ方角を見た。


 工房通りの角から——鉄の巨人が現れた。


 鍛冶ゴーレム。高さ三メートル。胴体は鍛冶場の炉を模した構造で、両腕は大槌を振るうために太く、関節は赤熱した魔法陣の光で繋がれている。


 だが——目が、おかしかった。


 通常のゴーレムの目は淡い青色の魔法光が灯る。待機中は薄く、稼働中はやや明るく。常に安定した光だ。


 今、鍛冶ゴーレムの目は——赤かった。


 明滅している。不規則に。脈打つように。


「な——」


 レンの血の気が引いた。


 ゴーレムが一歩を踏み出した。通りの石畳が砕けた。


 二歩目。格納庫の壁をかすめた。鋼鉄の腕が壁をえぐり、煉瓦が砕けて飛んだ。


 三歩目——市場広場に向かっている。


「暴走……!」


 レンは走った。


「みんな逃げろ! ゴーレムが制御を外れてる!」


 群衆がパニックになった。怒号が悲鳴に変わった。プラカードが投げ捨てられ、人波が四方に散った。


 子供の泣き声。転倒する老人。押し合う人々。


 鍛冶ゴーレムが広場に踏み込んだ。露店の屋台を踏み潰した。木材が砕け、果物が地面に散らばった。鋼鉄の足が、昨日まで人々が買い物をしていた場所を破壊していく。


 レンはAIに叫んだ。


「緊急停止! 鍛冶ゴーレム三号機、コマンドコード——ハルト・オーバーライド!」


 反応がない。


「停止命令! 最優先割り込み! コード:ゼロ・デッド・ストップ!」


 ゴーレムの目が赤く明滅した。止まらない。


 AIの応答が返ってきた。


『制御系統との通信が確立できません。対象ゴーレムの魔法陣ネットワークが応答していません』


「——嘘だろ」


 制御系統が死んでいる。AIからの停止コマンドが届かない。ソフトウェアでは止められない。


 ゴーレムが右腕を振り上げた。大槌を打つための腕。あれが人に当たったら——。


「下がれえ!」


 声が、腹の底から轟いた。


 カイルだった。


 金髪の大男が群衆をかき分けて飛び出してきた。背中の大剣を抜き放ち、ゴーレムの前に立ちはだかった。185センチの巨体でも、三メートルのゴーレムの前では小さい。


「こういう時こそ冒険者の出番だろうが!」


 カイルがゴーレムに斬りかかった。大剣が鋼鉄の脚に叩きつけられる。火花が散った。刃が弾かれた。


「——硬ってえ!」


 だが、ゴーレムの注意がカイルに向いた。赤い目がカイルを追う。振り上げた腕が——カイルに向かって振り下ろされた。


 カイルが横に跳んだ。鋼鉄の拳が石畳を粉砕した。衝撃波で周囲の露店の残骸が吹き飛ぶ。


「ぐっ——!」


 着地で体勢を崩しかけたが、踏みとどまった。


「おい、そこの! 動くな!」


 カイルが背後に叫んだ。逃げ遅れた母子がいた。子供を抱えた女性が、恐怖で足が動かなくなっている。


 カイルは迷わなかった。ゴーレムに背を向けて走り、母子を抱えて転がった。直後、ゴーレムの腕が空を薙いだ。風圧がカイルの髪を乱した。


「走れ! 南通りの方に!」


 母親が子供を抱えて走り出した。カイルが立ち上がり、再びゴーレムに向き直った。


 血が滲んでいた。右肩。鋼鉄の腕がかすめたのだ。外套が裂け、赤い線が見えている。


「カイル!」


 レンが叫んだ。


「かすり傷だ! 気にすんな!」


 カイルが笑った。血を流しながら。大剣を構え直しながら。


「レン、止め方考えろ! 俺がこいつの相手する!」




 レンの頭がフル回転した。


 AIで止められない。制御系統が物理的に切れている。ソフトウェアからのアプローチは無意味。


 なら——ハードウェアに直接触るしかない。


 動力核。ゴーレムの胸部にある魔力の心臓。そこに直接手を触れて、魔力供給を遮断すれば——物理的に停止する。


 だが、三メートルの巨体が暴れ回っている。胸部にたどり着くには——。


「先生!」


 声がした。高い声。聞き覚えのある声。


 レンが振り返った。


 フィオが、広場の端の建物の二階から身を乗り出していた。赤銅色のショートヘアが風に踊っている。


「そこにいろ! 危ないから降りてくるな!」


「降りないよ! でも見えるの、ここからだと!」


 フィオの目がゴーレムを追っている。じっと。集中して。鍛冶場の火を読む目。風を読む目。


 ゴーレムがカイルに向かって腕を振った。カイルが避けた。ゴーレムがもう一歩踏み出した。止まった。また動いた。


「先生! 左腕の関節が3秒おきに止まる!」


「何?」


「左腕! 振り上げてから振り下ろすまでに、関節がカクって止まるの! 1、2、3……ほら、今!」


 レンがゴーレムの左腕を見た。


 振り上げる。頂点に達する。——一瞬、止まる。それから振り下ろす。


 確かに。3秒周期で左腕の動きにラグがある。


「魔法陣の細工が不完全なんだ……制御系統を切断した時に、左腕の動力伝達に部分的な断線が残ってる」


 レンの頭の中で、ゴーレムの設計図が展開された。前世のエンジニアの頭が、異世界の魔法陣を機械設計図に変換する。


 左腕が止まる3秒間。その間にゴーレムの動きが鈍る。胸部へのアクセスルートが開く。


 3秒。


 人一人が駆け上がるには足りない。だが——。


「カイル!」


「おう!」


「次に左腕が止まったら、右脚を斬れ! 膝の裏側——関節部分!」


「膝の裏!? あんな硬いの——」


「関節部分だけ装甲が薄い! 全力で!」


「了解!」


 カイルが大剣を構えた。両足を踏ん張り、全身のバネを溜める。


 ゴーレムが腕を振り上げた。


 1秒。


 2秒。


 3秒——左腕が止まった。


「今だ!」


 カイルが地面を蹴った。


 185センチの巨体が弾丸のように飛んだ。大剣が弧を描き、ゴーレムの右膝裏の関節に叩き込まれた。


 金属が裂ける音。火花の雨。


 ゴーレムの右脚が折れた。


 三メートルの鉄の巨人が、片膝をついた。地面が震え、石畳にひび割れが走った。


 ——今だ。


 レンは走った。


 片膝をついたゴーレムの胸部が、地面から一メートル半の高さに下がった。手が届く。


 右腕が反応した。レンに向かって振り下ろされる——。


「おらあ!」


 カイルの大剣が右腕を横から叩いた。軌道がずれた。鋼鉄の拳がレンの頭上をかすめ、背後の露店の柱を粉砕した。


 レンはゴーレムの胸部に取りついた。


 魔法陣が刻まれた鋼鉄の装甲板。その中央に——動力核のアクセスパネルがある。赤い光が脈打っている。


 指が動力核のカバーに触れた。熱い。魔力が暴走している証拠だ。


 構わず掴んだ。カバーを力任せに引き剥がした。


 中に球体の動力核が見えた。光っている。赤く。不安定に。


 レンは両手で動力核を掴んだ。


「——止まれ」


 魔力を逆流させた。動力核に自分の魔力をぶつけ、強制的に中和する。前世のエンジニアリングではなく、グレンに教わった伝統魔法陣の技法——魔力の干渉打消し。


 動力核が震えた。赤い光が点滅した。


 暗くなった。


 消えた。


 ゴーレムの目が——暗くなった。


 巨大な鉄の体が、ゆっくりと前に倒れた。レンは咄嗟に横に飛んだ。三メートルの鋼鉄が石畳に激突し、轟音が広場に反響した。


 沈黙が降りた。


 群衆が息を呑んでいた。


 粉塵が舞う中、レンが立ち上がった。手のひらが赤くなっている。動力核の熱で軽い火傷を負っていた。


「……止まった」


 呟いた。


「レン!」


 カイルが駆け寄ってきた。右肩の傷から血が垂れているが、歩ける。動ける。


「お前、無茶しすぎだ」


「お前に言われたくない」


「カイルの兄ちゃん、肩!」


 フィオが二階から駆け降りてきた。カイルの肩の傷を見て顔をしかめる。


「大丈夫か、チビ」


「チビって言うなし! あんたこそ大丈夫なの、血出てるじゃん!」


「かすり傷だって。——フィオの観察、助かったぞ。左腕の3秒、よく見えたな」


 フィオの顔が少し赤くなった。でもすぐに元に戻った。


「先生が教えてくれたんだよ。観察して、分析して、行動しろって。——あたしにできたのは観察だけだけど」


「それが一番大事だったんだ」


 レンが言った。手のひらの火傷をローブの裾で押さえながら。


「フィオの目がなかったら、弱点に気づけなかった。フィオ——」


「褒めるのは後! 先にカイルの兄ちゃんの手当て!」


「……はい」




 ゴーレムの残骸を調べたのは、群衆が散った後だった。


 レンは倒れたゴーレムの胸部に屈み込み、破壊された魔法陣を覗いた。


 数秒で、顔色が変わった。


「これは……」


 イグニスが炎の球体のまま、レンの肩の上に浮かんでいた。


「どうした、術者」


「見てくれ。制御系統の魔法陣——ここ。接続点が切断されてる」


「ふむ」


「自然に切れたんじゃない。道具で切られてる。切断面が鋭すぎる。摩耗じゃない——刃物だ」


 レンが立ち上がった。


「これは暴走じゃない。——破壊工作だ」


 イグニスの炎が揺れた。


「外部から細工されたということか」


「ああ。制御魔法陣と動力核の間の伝達経路を意図的に切断してある。これをやれば、AIからの停止コマンドが届かなくなる。暴走するのは当然だ——設計通りに壊された」


 レンの声が低かった。怒りではない。もっと冷たいもの。


「誰がやった」


「わからない。だが——」


 レンはノエルを呼んだ。


「ノエル。工房地区の精霊灯に記録されている映像を遡れるか。昨夜——深夜帯の三番格納庫周辺」


 水盤が光った。ノエルの声が響く。


「精霊灯の視覚記録は解像度が低いですが……試みます」


 水鏡が広がった。水面に映像が浮かぶ。


 暗い工房通り。精霊灯の薄明かり。


 二つの影が映っていた。


 一人は旅商人の外套をまとっている。もう一人は影のように寄り添っている。二人が三番格納庫の前で立ち止まり、扉に手をかけ——中に入った。


 数分後、出てきた。扉を閉め、鍵をかけ直し——去った。


「この映像だけでは身元の特定は困難ですが——」


 ノエルが水鏡の映像を拡大した。精霊灯の光が、旅商人の外套の隙間を照らしている。一瞬、手が映った。


「この男の手。指の付け根に胼胝たこがある」


 レンが目を細めた。


「剣胼胝だ。商人じゃない」


「さらに——」


 ノエルが別の映像を水鏡に映した。


 酒場「赤銅の杯」。昼間の映像。玄関先の精霊灯が捉えた映像に——同じ外套の男が映っていた。隣にもう一人。帳簿を抱えた男。


「マルクだ」


 レンの声が硬くなった。


「この旅商人の男と、マルクが接触している。同じ日の昼間に」


 沈黙が落ちた。


 イグニスの炎が、低く燃えた。


「術者。この男——精霊の目から見ても、ただの商人ではない。体の動きに騎士の訓練の痕跡がある。東方系だ」


「東方——セントラリア方面か」


「断定はできん。じゃが——あの銀髪の男を思い出すのう」


 アルデン。


 レンの脳裏に、粗末な外套で正体を隠していた銀髪の騎士の姿が浮かんだ。アルデンは去った。「力ではなく知恵で臨むべき」と進言するために帰国したと、イグニスから聞いた。


 だが——アルデンが去った後も、セントラリアの影は残っていた。


「アルデンの部下か……あるいは、別系統の工作員か」


 レンは壊れた魔法陣をもう一度見下ろした。


 精密な切断。正確な位置。これをやった人間は、ゴーレムの魔法陣構造を理解している。ただの暴徒ではない。技術的な知識を持った人間が、意図的に暴走を引き起こした。


「ノエル。この映像データを保全してくれ。それと——市内の全ゴーレムの制御魔法陣を今夜中に総点検する。同じ細工がされている個体がないか確認する」


「承知しました」


「イグニス」


「なんじゃ」


「精霊ネットワークで、東方系の不審な人物の動きを追えるか。この男を見つけたい」


「やってやらんこともない。——お前のためではなく、わしのネットワークを汚す輩を許さんだけじゃがな」


「ああ。お前の名誉のためだ」


「そうじゃ。断じてな」


 レンは立ち上がった。


 市場広場を見渡した。


 破壊された露店。砕けた石畳。散乱した果物と木材。群衆は去ったが、恐怖の余韻が空気に残っている。


 これは事故じゃない。


 誰かが意図的に起こした。ゴーレムの暴走で市民を恐怖させ、レンへの——国への信頼を揺るがすために。


「反ゴーレム派の暴動に紛れて、ゴーレムを暴走させる。市民はゴーレムの危険性を目の当たりにする。王は国を守れなかったと責められる」


 レンが呟いた。


「……完璧なシナリオだ」


 手のひらの火傷が痛んだ。ローブの裾が血で赤く染まっている——自分の血ではない。カイルの血だ。肩の傷を押さえた時についた。


 カイルは「かすり傷だ」と笑った。でも——あれが少しでもずれていたら。


 フィオは二階から弱点を叫んだ。でも——あのゴーレムがビルの壁にぶつかっていたら。


 次は、もっと酷いことが起きる。


 その確信が、レンの胸の中で冷たく光っていた。




 夕暮れ。


 カイルの肩の手当てが終わった後、レンは壊れた市場広場の端に座っていた。


 隣にカイルが座った。包帯を巻いた右肩をかばうように、左手で地面に手をついている。


「レン」


「ん」


「あのゴーレム——俺たちが前に倒したダンジョンの魔物より、怖かったな」


「……ああ」


「魔物は最初から敵だ。でもゴーレムは——昨日まで味方だった。味方が牙を剥くのは、正面から殴りかかってくる敵より、ずっと怖い」


 カイルが空を見上げた。夕陽が沈みかけている。


「レン。難しいことはわからん。でも——あのゴーレムは、誰かに壊された。お前の作ったものが、誰かに武器にされた」


「……ああ」


「お前のせいじゃない。でも——お前にしか直せない。そうだろ」


 レンは——黙った。


 感動した時に黙る癖。今は感動じゃない。でも——カイルの言葉が、胸に刺さっている。


「カイル」


「おう」


「お前が市民を庇った時——怖くなかったか」


「怖かったに決まってんだろ」


 カイルが笑った。いつもの、バカみたいに明るい笑顔。


「でも——ゴーレムには人を庇えねえ。判断できねえ。『あの母子を先に逃がして、自分が殿しんがりをやる』なんて計算、機械にはできねえだろ。——あれは、人間の仕事だ」


 レンは——笑った。


 小さく。疲れ切った顔で。でも、本物の笑顔で。


「お前さ」


「おう」


「脳筋のくせに、たまにすげえいいこと言うよな」


「脳筋って言うな」


「褒め言葉だ」


「褒め言葉になってねえよ」


 二人は並んで座っていた。壊れた市場広場に夕陽が差している。


 明日から修復が始まる。ゴーレムの総点検が始まる。工作員の追跡が始まる。反ゴーレム派との対話が始まる。


 やることは山積みだ。


 でも——今だけは。


「カイル」


「ん」


「肩、痛いか」


「痛くねえ」


「嘘つけ。顔が歪んでるぞ」


「……ちょっとだけ痛い」


「正直でよろしい。——エルナに頼んで、痛み止めの薬草茶をもらってくる」


「おう。……レン」


「なんだ」


「次は——もうちょっとうまくやろうぜ。俺もお前も」


「ああ。——次は、もうちょっとうまくやる」


 夕陽がアルゴリズの屋根を赤く染めていた。


 壊れた広場の真ん中で、鍛冶ゴーレムの残骸が横たわっている。昨日まで鉄を打ち、人々の暮らしを支えていた機械が、今は瓦礫の一部になっている。


 レンは立ち上がった。


 手のひらの火傷がまだ熱かった。


 ——誰がやった。なぜやった。次に何を仕掛けてくる。


 それを突き止めなければならない。


 壊されたのはゴーレムだけじゃない。市民の安心が壊された。ゴーレムへの信頼が壊された。レンが作り上げた自動化の仕組みそのものが——武器に変えられた。


「AIで止められない……なら、自分で止める」


 さっきの自分の言葉を思い出した。


 それは——ゴーレムの話だけじゃない。


 この国に忍び寄る影を、AIは検知できなかった。統計データの歪みも。工作員の侵入も。破壊工作も。


 AIにできないことがある。


 なら——自分でやるしかない。


 レンは歩き出した。執務室に戻る。


 背後で、精霊灯が一つずつ灯り始めた。壊れた広場を照らす光が、いつもより寂しく見えた。



最後まで読んでいただきありがとうございました。


第73話「暴走ゴーレム」。第6アーク「ゴーレム恐慌」の第6話です。


鍛冶ゴーレムの暴走は、偶然の事故ではなく意図的な破壊工作です。ゴーレムの制御系統を物理的に切断することで、AIからの停止コマンドを無効化する。ソフトウェアで止められないなら、ハードウェアに直接触るしかない。レンが前世のエンジニアとして、そしてグレンから学んだ魔法陣師として、両方の知識を使って止めました。


カイルの見せ場を大切に書きました。ゴーレムに仕事を奪われた男たちの代わりに、人間にしかできないことをした男。「あの母子を先に逃がして、自分が殿をやる」——その判断は、どんなに優秀なAIにもできません。ゴーレムは命令を実行する機械であり、「誰を先に守るか」を自分で決めることはできない。カイルの勇気は、人間だけのものです。


そしてフィオ。前アークで学んだ「観察、分析、行動」を実戦で発揮しました。彼女にできたのは「観察」だけ。でも、その観察がなければ弱点は見つからなかった。12歳の少女が、戦いの中で冷静に3秒周期のパターンを見抜いた。教育は、すぐには実らない。でも実る時は、こういう形で実る。


次話以降、工作員の正体を追う展開と、反ゴーレム派との対話が始まります。破壊工作を仕掛けた者の意図は何か。マルクはどう動くか。そして——壊された信頼は、どうやって修復するのか。

☆評価・ブクマ・感想をいただけると次話の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ