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固有スキル【生成AI】で異世界全自動化 〜魔法陣はAIで組み、国はAIが建て、気づけば俺の仕事がなくなりました〜  作者: 歩人


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第69話: 反ゴーレムの裏側

 商人ギルド長マルク・ヘンデルは、四十二年の人生で一度も読み違えたことがなかった。


 ——今日までは。


 匿名の金貨袋が、執務室の机の上に置かれている。ずっしりと重い。開けずとも、中身は金マナだろう。壁一面に大陸各地の交易路の地図が貼られた部屋に、条件なしの大金が届いた。


 マルクは袋に触れずに、使者の男を見た。旅人風の粗末な外套。だが体つきは鍛えられている。この男は、商人ではない。


「——何のつもりか、聞かせてもらおうか」


 この部屋のように——マルクの人生に無駄はなかった。


「失業者は現在四百七十二名。うち熟練職人が百三十六名。彼らの消費力が消えたことで、商店街の売上は前年比四割減。商人ギルドの仲介手数料収入は——」


 部下のヨハンが報告を読み上げる。マルクは数字を聞きながら、窓の外を見ていた。


 市場通りに、昨夜のデモの痕跡が残っている。割れた窓ガラス。散らばったプラカードの残骸。ゴーレム衛兵が淡々と清掃している。


「——前年比五割七分減です。このままでは年度末の決算で——」


「ヨハン」


「はい」


「数字はわかった。要するに、このままでは商人ギルドが干上がる」


 マルクは椅子を回して、部下に向き直った。四十二歳。銀縁の眼鏡の奥で、灰色の瞳が冷静に光っている。仕立ての良い上着に、控えめだが確かに上質なブローチ。商人の美学——派手さではなく質で語る。


「我々は職人たちの味方になる必要がある」


「しかしギルド長。職人の味方になるということは、レンハルト殿の政策に——」


「反対する、ということだ。正確に言えば——反対するふりをしながら、最も利益の出るポジションを確保する」


 マルクは眼鏡を指で押し上げた。


「ヨハン。商人にとって最も危険なのは何だと思う?」


「……損失でしょうか」


「違う。予測できないことだ。損失は計算できる。計算できるリスクは管理できる。だが、あの王は——予測ができない」


 マルクの目が細くなった。


 レンハルト・コード。十五歳の少年王。AIという得体の知れない力で辺境の村を都市国家に変えた男。教育改革では見事な手腕を見せた。だが経済に関しては——破壊的だ。


 ゴーレム自動化は生産性を上げた。物価を下げた。インフラを整えた。だが同時に、熟練職人の市場を壊した。商人ギルドの仲介手数料を激減させた。消費者は安いゴーレム製品に流れ、手工業品は売れなくなった。


 ——革命、と呼ぶには静かすぎる。だが、崩壊と呼ぶには秩序立っている。あの小僧は意図してこうしたのか、それとも結果がこうなっただけなのか。


「反ゴーレム派の声を集約する。職人たちの代弁者として、国王に政策転換を要求する。それが表の動きだ」


「表? では裏は」


「裏は——」


 マルクは微笑んだ。商人の微笑み。感情ではなく、計算の表出。


「どちらに転んでも損をしないように張る。国王がゴーレムを制限すれば、手工業品の市場が戻る。仲介手数料も回復する。国王が制限しなければ——反ゴーレム派の盟主として政治的影響力を手に入れる。影響力は、いずれ金に換わる」


 ヨハンが頷いた。だが、少し不安そうだった。


「ギルド長。一つだけ懸念が」


「言え」


「昨日の夜からですが——我々の活動に、外部から資金提供の申し出が来ています。匿名です。使者は旅人風の男で、名乗りませんでした」


 マルクの眉が微かに動いた。


「……金額は」


「金マナ五十。我々の半年分の活動費に相当します」


「出所は不明で、条件は?」


「条件はなし、と。ただし——『ゴーレム政策への反対運動を活発化させてほしい』と」


 マルクは窓の外を見た。市場通りのゴーレムが、黙々と清掃を続けている。


 条件なしの大金。——商人が最も警戒すべき取引だ。


 だが——利害が一致する限り、出所を問わないのが商人の流儀でもある。


「受け取れ。ただし——その使者の行動は追わせろ。誰が、何のために金を出しているか。知っておくことと、利用されることは別だ」


「承知しました」


 ヨハンが退室した。


 マルクは一人になった執務室で、指を組んだ。


 ——匿名の資金。条件なし。反ゴーレム運動の活発化。


 誰かが、この国を揺さぶりたがっている。


 マルクはペンを取り、手帳に一行だけ書いた。


 『リスク:不明な第三者。対策:情報収集。判断:保留』


 そして——別の行に書き加えた。


 『レンハルト殿との面会。目的:直接対話。信用を計る』




 同じ日、午前——アルゴリズの東門から、一人の巨漢が入ってきた。


 一九〇センチの巨躯。銀白色の長い髪が背中に流れている。両方の前腕に無数の火傷の古傷。使い込まれた革の鍛冶エプロンを纏い、背中に巨大な槌を背負っている。


 門番が声をかけた。


「旅の方ですか? 入国の目的は」


 男が足を止めた。門番を見下ろした。低く、落ち着いた声が響いた。


「風が吹く方に歩いておったら着いた」


「は?」


「入国の目的は——面白い鉄があると聞いた」


 門番が困惑した顔をしている。男は気にせず、市場通りに足を踏み入れた。


 ヴォルフ・アイゼン。六十四歳。人が「神鉄匠しんてっしょう」と呼ぶ放浪の鍛冶師。六十年間、大陸中を渡り歩いた。王侯貴族の剣から農民の鋤まで、あらゆるものを打ってきた。一つの国に三年以上いたことはない。


 市場通りを歩いた。


 閉まった店が並んでいる。木の板が打ち付けられた窓。色褪せた看板。——だが、通りの奥にゴーレムの鍛冶工場が見えた。規則正しい金属音が響いている。


 ヴォルフは工場の前で足を止めた。


 開け放たれた窓から、中が見える。五体のゴーレムが並んで鉄を打っている。同じリズム。同じ力。同じ角度。——完璧に均一な動作だった。


 ヴォルフは懐から小さな革袋を出した。中から一本の釘を取り出した。ゴーレムが鍛造した鉄製品の一つだ。昨日、門前の行商人から買った。


 釘を指で弾いた。澄んだ金属音。不純物の少ない、良質な鉄。


 爪で表面を引っ掻いた。均一な硬度。ムラがない。


 曲げてみた。適度な粘り。折れない。


 ——悪くない。


 いや、正直に言えば。


「悪くない、どころじゃないな」


 ヴォルフは呟いた。声は低く、静かだった。


 この釘の品質は、大陸中の鍛冶師の九割を超えている。均一性。精度。再現性。人間の手では、ここまで安定した品質を維持し続けることはできない。


 だが——。


 ヴォルフは釘を革袋に戻した。


「面白い」


 脅威ではなかった。恐れでもなかった。六十年間、鉄と火と向き合ってきた男の目に浮かんだのは——純粋な好奇心だった。


 人間の鍛冶師が六十年かけて到達した境地に、機械が数秒で並んでくる。ならば——その先に何があるのか。機械が到達できない場所が、果たしてあるのか。


 それを確かめたくて——ここに来た。


「風が吹く方に歩いておったら着いた」は嘘ではない。だが——風が吹く方向を選んだのは、自分の好奇心だった。




 ヴォルフが市場通りを歩いていると、背後から声がかかった。


「——おい。まさか」


 ヴォルフは振り返った。


 白い長い髭。杖を突いた小柄な老人。七十二歳。目が丸くなっている。


「ヴォルフの爺さん! 何でこんなところに!」


 老師グレンだった。


 ヴォルフの目が——ほんの少し、緩んだ。鉄のように硬い表情に、微かな温かみが差した。


「グレンの爺さんか。——お前こそ何でこんな辺境にいる」


「辺境じゃと? ここはアルゴリズ王国じゃぞ。わしは宮廷魔法陣技師——いや、もうほとんど隠居じゃがな」


「そうか」


「そうかじゃない! お前、四十年ぶりか? 五十年か?」


「四十三年だ」


「覚えておるのか……」


 グレンの声が——少し震えた。


「覚えておる。お前は——わしに弟子入りを願い出た、三番目の魔法使いじゃった」


「三番目!? わしだけだと思っておったぞ!」


「わしは誰も取らんかった。鍛冶は一人でやるものじゃ」


「その割に、今のお前は一人じゃないように見えるがな」


 グレンがヴォルフの背後——ゴーレム鍛冶工場を指差した。


「あれを見に来たんじゃろう。ゴーレムの鍛冶を」


「ああ」


「どうじゃった」


 ヴォルフは一拍、間を置いた。


「面白い国じゃないか」


 グレンが——目を見開いた。


「お前の口から『面白い』が出るとは。四十三年前は、わしの魔法陣を見て『つまらん』と一言だけ言って去ったくせに」


「あれはつまらなかったからだ」


「今でも根に持っておるぞ!」


 ヴォルフの口元が——ほんの少しだけ、上がった。笑ったのか。笑ったのだろう。グレンには見覚えがある。四十三年前も、こうやって——ほとんど表情を変えずに、口元だけで笑う男だった。


 ——変わらんな。


 四十三年。弟子を育て、レンが来て、アルゴリズが国になり、ゴーレムが職人の仕事を奪い——世界が何度ひっくり返っても、この男の笑い方だけは変わらない。鉄のように頑固で、鉄のように——信頼できる。


 グレンは杖を握る手に、少しだけ力を込めた。泣くつもりはない。七十二年生きて、泣くのは恥ではないと知っているが——この鉄頭の前では、照れくさい。


「グレンの爺さん。この国の王に会えるか」


「会えるぞ。小僧——レン坊は誰でも会う。王の風格は皆無じゃが、耳だけは良い」


「小僧?」


「十五歳じゃ」


「……十五か」


 ヴォルフの目が——鋭くなった。鉄を見極める時の目だ。


「面白い。——案内しろ、グレンの爺さん」


「爺さん言うな。お前の方が八つ年下じゃ」


「年齢は関係ない。鉄を叩いた年数で言えば、わしの方が上だ」


「魔法陣を刻んだ年数で言えば、わしの方が上じゃ」


 二人の老人が——市場通りを並んで歩いた。四十三年ぶりの並び歩き。閉まった店の前を通り過ぎ、ゴーレムの足音を背に聞きながら。


 グレンがぽつりと言った。


「ヴォルフ。この街は今、荒れておる。ゴーレムに仕事を奪われた職人たちが怒っておる。昨夜はデモが暴動になりかけた」


「聞いた。門の外でも噂になっておる」


「お前が来たのは——偶然か」


「偶然だ。——だが、偶然にも意味はある」


 グレンは杖を突きながら、隣の巨漢を見上げた。


「お前がここにいることに、意味が出るかもしれんな」


「さあな。わしは鉄を叩きに来ただけだ」


「嘘つけ」


「嘘ではない。——ただ、鉄を叩く理由が増えるかもしれん」


 二人は城門に向かって歩いていった。途中、閉まった鍛冶場の前を通り過ぎた。ヴォルフが足を止め、窓の奥を見つめる。消えた窯。整理された道具。グレンは黙って待った。


 やがてヴォルフが歩き出す。


 ——その背に、声がかかった。鍛冶場の二階の窓から、若い男が身を乗り出していた。両腕に火傷の古傷。鍛冶師の手だ。


「あんた——もしかして、神鉄匠?」


 ヴォルフは足を止めた。振り返らずに言った。


「鉄は、まだ終わっとらん」


 若い鍛冶師の目が——揺れた。一ヶ月前に窯の火を落とした目に、何かが灯り直した気がした。


 グレンは黙ってそれを見ていた。昼前の陽光が、銀白色の長髪と白い長髭を同じ色に染めていた。




 夜。アルゴリズの南端にある安酒場「赤犬亭」。


 旅人姿の男が、カウンターの隅に座っていた。粗末な外套のフードを深く被り、麦酒のジョッキを前に置いている。ジョッキは半分以上残ったまま、温くなっていた。


 アルデン・クロイツ。セントラリア王国、近衛騎士団副団長。


 今は——旅人の外套の下に、騎士の体を隠している。


 半月前にセントラリアに帰還し、セレスティア姫殿下に報告した。アルゴリズの教育、経済、軍事力、国王の人物像——すべてを。


 姫殿下の反応は、予想通りだった。


「知恵で臨むべき、ですか。アルデン、あなたの進言は理解しました。ですが——知恵で臨むにも、交渉材料は必要です」


「交渉材料、とは」


「相手が弱っている時に訪ねた方が、条件は有利になるでしょう?」


 セレスティア姫殿下は——柔らかく微笑んだ。その微笑みの裏に、政治家の冷徹さがあった。


 つまり——アルゴリズの内政を揺さぶれ、と。


 命令は明確だった。反ゴーレム運動に資金を流し、国内の対立を激化させる。国が不安定になれば、政略婚の交渉で有利になる。


 アルデンは——命令に従った。


 だが——。


 麦酒を一口飲んだ。温い。まずい。


 ——卑怯な手だ。


 赤犬亭の扉が開いた。フードを目深に被った男が入ってきた。マルクの部下、ヨハンだ。


 ヨハンがカウンターに座った。アルデンとの間に、一席分の距離を置いて。


「……来たか」


「はい。ギルド長は資金を受け取りました。ただし、あなた方の行動を監視するとも」


「想定の範囲内だ。マルクという男は——優秀な商人だな。利用されていることに気づきながら、利益が出るうちは黙認する」


「ギルド長を侮らない方がよろしいかと」


「侮ってはいない。むしろ感心している」


 アルデンは麦酒のジョッキを回した。


「次の段階に移る。反ゴーレム運動の中に——ゴーレムの制御に詳しい技師を潜り込ませたい。暴動を激化させるのではなく、『偶発的な事故』を起こす」


「事故?」


「ゴーレムの暴走。制御魔法陣を外部から操作すれば——可能だろう」


 ヨハンの顔が——少し青ざめた。


「……それは、人が怪我をするかもしれない」


「怪我人は出さない。——出さないように、精密に操作する。パニックを起こすだけで十分だ」


 ヨハンが沈黙した。アルデンも沈黙した。


 酒場の喧騒が、二人の間を埋めていた。隣のテーブルでは、失業した職人たちが愚痴を言い合っている。「ゴーレムさえなければ」「王様は何をやってるんだ」「セントラリアでは手仕事が尊重されてるらしいぜ」——最後の台詞は、アルデンの配下が数日前に酒場で流した情報だ。


 アルデンは——胸の奥が軋むのを感じた。


 この男たちの怒りは本物だ。仕事を失い、誇りを傷つけられ、行き場を失った人間の怒り。それを——利用している。


 ——卑怯な手だ。だが、姫殿下のために。


 セレスティア姫殿下は、セントラリア王国の未来だ。病弱な国王の代わりに国を動かし、貴族議会と渡り合い、伝統と革新の狭間で綱渡りをしている。その姫殿下が「交渉材料が必要だ」と言ったのなら——騎士は従う。


 だが——。


 アルデンの脳裏に、あの学舎の風景がよぎった。子供たちがAIの嘘を見抜く訓練をしていた。赤銅色の髪の少女が、経済データの矛盾を指摘していた。あの教育は本物だった。


 そして今、その教育を行った国を——裏から壊そうとしている。


「ヨハン」


「はい」


「一つだけ条件がある」


「なんでしょう」


「学舎には手を出すな。子供たちには、絶対に被害を出すな」


 ヨハンが——少し驚いたように、アルデンを見た。


「……承知しました」


 ヨハンが席を立った。扉が閉まった。


 アルデンは一人になった。温い麦酒を一気に飲み干した。


 ——卑怯な手だ。


 もう何度、そう思っただろう。


 だが——もう一つ、心の奥底にある思いがあった。


 この国の王は、強い。教育で国を変え、技術で世界を動かそうとしている。その王が——内政の混乱一つで揺らぐだろうか?


 もし揺らがないなら——。


 セレスティア姫殿下が必要としているのは、「弱い交渉相手」ではない。「強いが、手を結べる相手」かもしれない。


 だが、それを確かめるには——もう少し、この国を揺さぶる必要がある。


 揺さぶって、なお立っているなら——その時こそ。


 アルデンはフードを被り直した。


 酒場を出た。夜のアルゴリズの通りに、精霊灯の光が静かに並んでいた。ゴーレムの夜間巡回の足音が規則正しく響く。


 通りの向こうに——エルナのパン屋の灯りが見えた。閉店後のはずだが、工房の窓から温かい光が漏れている。


 明日の朝のパンを仕込んでいるのだろう。


 ゴーレム工場が24時間稼働している中で、一人の少女が夜中に生地をこねている。非効率で、不合理で——だが、その灯りには、ゴーレム工場の照明にはないものがあった。


 アルデンは——足を止めた。


 ほんの数秒。パン屋の灯りを見つめた。


 それから——背を向けて、宿へ歩いた。


 明日は、もう一人の男と接触する予定がある。ゴーレム鍛冶工場の夜間管理技師。制御魔法陣にアクセスできる人間だ。


 足が——重い。


 前に来た時も重かった。今回は、もっと重い。


 だが——騎士は止まらない。


 姫殿下のために。




 同じ夜。レンは執務室の窓辺に座って、眠れずにいた。


 机の上に、マルクからの面会要請書が置かれている。明日の午前。議題——「ゴーレム政策の是非について」。


 レンは書面を手に取り、また置いた。


 失業者四百七十二名。——その一人一人に、名前がある。家族がある。昨日まで働いていた仕事がある。自分がゴーレムを導入した時、数字の向こうにある顔を見ていなかった。


 前世でも同じだった。効率化のプロジェクトを回すたびに、「削減された工数」の向こうに、机を片付けて去っていく人がいた。知っていた。知っていて——目を逸らしていた。


 今度は逸らさない。逸らす気はない。——だが、答えが、まだない。


 イグニスの炎が窓辺で揺れている。小さく、静かに。


「——レン」


 イグニスが口を開いた。珍しく、からかう色がない。


「お前は、いつも数えるな。人の数を」


「……数えないと、忘れるから」


 イグニスは何も答えなかった。炎が——少しだけ、温かくなった。


 レンは目を閉じた。——明日の朝、マルクの目を見て話す。数字ではなく、人の話をする。それくらいなら、自分にもできるはずだ。


 遠くで、犬が一声吠えた。そして——市場通りの精霊灯が、一つだけ瞬いた。ほんの一瞬。すぐに戻った。


 レンは目を開けた。


「……気のせいか」


 イグニスは答えなかった。炎が——ほんの少しだけ、揺れた。



最後まで読んでいただきありがとうございました。


第69話「反ゴーレムの裏側」。第6アーク「ゴーレム恐慌」の第2話です。


今回は3つの視点で「裏側」を描きました。マルクは損得で動く商人。ヴォルフは好奇心で動く職人。アルデンは忠義で動く騎士。三者三様のスタンスが、レンの作り上げた「自動化の国」にそれぞれの角度から光を当てています。


特に注目していただきたいのはヴォルフとグレンの再会シーンです。四十三年ぶりに並んで歩く二人の老人。かつて弟子入りを断られたグレンと、「つまらん」の一言で去ったヴォルフ。その二人が、ゴーレム恐慌という嵐の中で再び出会う。ヴォルフの「面白い」という言葉は、この男にとって最大級の賛辞です。彼がこの先、物語の転換点でどんな役割を果たすか――楽しみにしていてください。

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