第二章 12話 邂逅、再び
──約3時間後。
那月
「よし、気合い入れるぞ!」
東京ドームの入口へ向かう途中、状況確認をすると、ドームの周りを迷彩服を着た体格のいい男性が囲んでいるのが見えた。あれが自衛隊だろう。
照夢
「ほんとに自衛隊も協力してるんだ。」
羽弛
「それだけ大きな事件なんですよ。」
そんなことを考えていると、4人は入口に到着した。物静かで禍々しい空気を感じる。
正直半信半疑だ。こんなに堂々と、自衛隊やOCFと真っ向勝負をするのだろうか、本当にここに奴らはいるのかと。
ただ、異様な空気と、掲示板に貼られている『本日予定されているイベントはありません』という一文が、信憑性を高めている。
そんな時、那月の肩がぽんと叩かれた。
颯太
「気張るのは悪くないが、気張りすぎて潰れないように。深呼吸でもしとけ。」
渚
「颯太さん……。」
そうは言っているものの、颯太は何か思うところがあるような様子でやけに落ち着きが無い。
那月
「……大丈夫か?」
颯太
「ん、あぁ、悪い。……首謀者に心当たりがあるんだ。お前らが見つけた手記で確信に変わった。」
「そこに居るのは多分『シャノワール教団』幹部だ。そいつは俺がやる。」
羽弛
「そんな様子で、ですか?」
照夢
「そうだよ! 颯太さんいつもと全然違う! 冷や汗も凄いし、手だって震えてるじゃん!」
颯太は自身の状態を把握できていなかったようで、指摘を受けて目を丸くした。
颯太
「……いや、これは武者震いだ。」
渚
「誰なのかは知らないけど、そんなに抱え込むことないんじゃない? 私たちもいるのよ?」
颯太
「そうじゃない。お前らじゃ手も足も出ないって話をしてるんだ。」
「悪い、大丈夫だ。お前らは自分の身を守ることを第一に考えろ。」
今まで数々の死地をくぐってきた颯太は、自分を律する術を知っている。
大きく深呼吸をすれば、もう既に冷や汗も震えもない。いつでも戦える状態に無理やり調整した。
颯太は時計を確認すると、いつかのように一方的に話し始める。
颯太
「21時50分……よし。今から手順を伝える。」
「ドームの中に教団員がいるのが確認できた。全部で18人。少ないが見たところ全員かなりのやり手だ。邪神から力でも貰ってるんだろう。」
「5分後に自衛隊と一部OCF隊員が一斉に突入。教団員を分散しつつ拘束。」
「その3分後に俺らは裏から侵入。隙を見てお前らが言っていた"魂を保存できる棺"を破壊するんだ。」
4人は静かに頷く。
颯太
「よし、それじゃあ作戦開始まで待機。連中は何をしてくるか分からない。集中を切らすなよ。」
羽弛
「ついに……母の仇が討てる。」
那月
「こういう時こそ、冷静になるのが大事だぜ。獲物を仕留める瞬間がいちばん無防備だって言うからな。」
そんな時、突然ビデオ通話がかかってくる。
照夢
「……ハオ?」
ハオ
『もしもし! 見える?』
『ワタシも突入部隊に割り振られたから、状況がわかるように中継するよ!』
颯太
「無茶だけはするなよ。」
ハオ
『分かってるって! ワタシに任せて!』
*
──21時55分。
時間だ。予定通り自衛隊と一部の諜報員が突入する。
ハオ
『それじゃ行ってくるよ!』
今ビデオ通話を繋いでいる浩宇もその1人だ。
ドームの中は暗く、ライブ会場のようになっていた。
中央の地面には幾何学模様が、その上には手記に書いてあった棺が置かれており、それを取り囲むように数十人の黒いローブを纏った人間が理解不能な言葉を繰り返している。
「いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!」
「いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!」
黒いローブを纏った狂信者たちは入ってきた自衛隊に目もくれず、謎の言葉を呪文のように繰り返しながら儀式を続けている。
照夢
「……気持ち悪いね。」
羽弛
「これが、召喚の儀式……。」
渚
「この棺を壊すのが私たちの目的ね。」
自衛隊員
『──ッ!!』
呆気に取られていると、先頭の自衛隊員が悲鳴を上げた。
カメラに映った隊員の胸部には鋭い爪痕がつけられ、鮮血が流れている。
目の前にはいつか見た魚面の怪物が立っていた。
そこでハオとの通話が突然切れる。
颯太
「通信妨害か。流石に用意周到だな。」
「とはいえ、向こうの心配をしている暇はない。……そろそろ3分だ。準備はいいか?」
那月
「当然だ! オレらはオレらのやるべきことをやる。」
*
──21時58分。
颯太、那月、羽弛、照夢、渚は裏口から侵入する。
客席には戦っている自衛隊員の姿が、ドーム中央には先程確認した様子が見える。
「いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!」
その瞬間、チリンと鈴の音が聞こえた気がした。
???
「──貴方がたは背後を取っていると思いました。予想は的中しましたね。」
「招待状も無事に届いたみたいで良かった。ようこそ、『不透明統制部隊』の皆さん。また会えて嬉しいですよ。」
──背後から声がした。
ふと声の主に意識を向けると、そこには刀を持った白髪の男がいた。
耳元のピアスと首のタトゥーが目を引くが、派手な見た目とは裏腹にキッチリとスーツを着こなしている。
羽弛
「あ、貴方は……!」
なぜ忘れていたのだろう。コイツとは、あの商店街で会っている。
その妖艶な、深い深い瞳に覗かれ、一瞬身体が固まる。
レクトル
「ふふ……正義の反対が悪なんて、誰が決めたのでしょう。正義の反対も、また正義です。両者共に、それなりの正義があるのですよ。」
「今回の儀式は是非とも皆さんに見て頂きたかった。魂こそ至高、時空を超えるためには魂を捧げなければ。」
「……おや、これはこれは、神崎君、お久しぶりです。5年ぶり、でしょうか。」
レクトルは視界の端に捉えた颯太に名指しで挨拶をする。颯太が言っていた"心当たり"は正解だったようだ。
颯太
「……嫌な予感はしていた。まさか当たっちまうとはな。お前が生きてて嬉しいよ、レクトル。」
「だが因縁もここまでだ。今度こそ、殺してやる。」
レクトル
「ふふふ……諦めが悪くてすみませんね。」
「遅ればせながら改めて自己紹介を。『シャノワール教団・特別特殊行動隊|"LECTOR"《レクトル》』隊長、レクトル・ヴラディスラフと申します。」
「勝者だけが正義です。始めましょう。」
レクトルは携えた日本刀の鞘に手を添える。




