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不透明統制部隊  作者: 芽生
第一部:記憶と想いは明瞭に
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第二章 13話 煙草の残り香

 那月たちの更に背後から、2人の教団員が現れる。

颯太

「お前らは後ろの奴らをやれ。死ぬなよ。」

那月

「……颯太さんもな!」


那月

「さて、後ろからやべぇ殺気すっけど、颯太さんに迷惑かけねぇようにオレらはこっちに集中だ!」

 教団員は大柄な男と女。4人の中で最も戦闘の得意な那月が大柄な男を1人で相手する。

4人ともそれが最適だと判断したからだ。

その瞬間、4人の身体の奥底で何かが爆発する感覚がした。その雰囲気と匂いに懐かしいものを感じる。

那月

「……ゲニウス様だ。"ささやかなプレゼント"ってこれかよ……!」

 無条件に力が漲(みなぎ)る。自分の戦闘能力が一段階上がったような気がする。

那月

「行くぞ!」


*


羽弛

「分かりました!」

照夢

「颯太さんと那月を信じて、ボクたちはこの女を倒すことだけ考えよ!」

 教団員の女はレイピアを取り出し、突きの構えを取る。

渚

「来るわよ!」

 女はそのまま突きをするが、その速度は今までの敵の非ではない。

先頭にいた渚はすんでのところで攻撃を避けることに成功したが、うっかり食らいでもすれば身体に風穴が空くのは確定だろう。

照夢

「やば……、」

羽弛

「……突きの後に大きな隙がある。頻繁には使って来ないでしょう。」

渚

「私が前に出るから、2人は援護して!!」

 渚は女と戦い始める。然しレイピアに対して折り畳み式の警棒では苦戦を強いられ、防戦一方だ。

羽弛は銃を構えようとするも、誤射をすれば大変なことになると思い、念の為持ってきていた塩ビパイプを構える。

羽弛

「照夢、僕が渚への攻撃を分散します。照夢はその隙に女の足を取るか頭を思い切り殴ってください。」

照夢

「……分かった。やってみる。」

 戦闘も何回か経験して慣れたのか、人数差を活かした戦い方がサッと出てくるようになった。

羽弛は言った通り、塩ビパイプで渚に向いた攻撃の一部を受ける。確かに女に隙が出来た。

然し頭を狙うにはまだ危険だ。

照夢

「……じゃあ足!」

 照夢はレンチで女のふくらはぎを抉るように殴った。

女は声を出さないままよろける。渚と羽弛はそれに続くように次々攻撃を叩き込む。

渚がレイピアを叩き落とし、羽弛は取り出した拳銃を女の首に当てる。

照夢

「──撃って!!」

 バン!と銃声が一度。引き金を引くのを躊躇していた羽弛に照夢が声をかける形で決着がついた。

教団員の女の口から白い透明な、"魂"が出て飛んでいく。彼女も犠牲者だったようだ。

渚

「自分でも驚くほど楽に戦えたわ……。」

照夢

「棺は……、」


*


 那月は大柄な教団員の男と向かい合っていた。

那月

「あれから空き時間には怪異退治してっからな! そろそろどんくらい強くなったか試したかったところだぜ!」

 コンバットナイフをクルッと回し、やる気は十分。眼前の巨躯には微塵も怯んでいない。

男は腕を広げ、那月に突進する。然し、魂胆が見え見えの攻撃を食らう那月ではない。

那月

「ムダだ!」

 組み付こうと突進してくる男に向かって、那月も突進する。

衝突する直前で那月はスライディングしながら男の足を切りつけた。

だが妙だ。確かに切りつけた筈の足からは血のひとつも流れない。切った感触も異様、まるで人間ではなかった。

那月

「……お前何者だ?」

 男は答えない。答えられない。彼も犠牲者だからだ。

那月

「……そうかよ。じゃあ壊すだけだ!」

 那月は姿勢を崩した男を次々と切りつける。男は為す術なく切られ続け、やがて倒れた。

それでもやはり出血はしない。よく見れば男の身体からは機械が顔を覗かせていた。

那月

「機械の身体か……。ま、颯太さんに比べれば大したことなかったな。」

 大柄な教団員の男の口からも、女同様に"魂"が出て飛んで行った。

那月

「さて、棺を壊さねぇとな! ……!?」

 おぞましい空気を感じたと思った瞬間、身体が動かなくなった。那月だけではない。羽弛も照夢も渚も、金縛りにあったようにピクリとも身体が動かせなくなったのだ。

よく見れば、客席の自衛隊のほとんども同様に動けない様子だった。

次の瞬間、自衛隊の口から、白い煙のようなものが飛び出すのが見えた。


*


 場面は颯太とレクトルに移る。

レクトル

「……分断ですか。昔とは違うとでも?」

 レクトルは手のひらを2度叩く。レクトルの背後から教団員が4人現れた。

颯太

「らしくねぇな。」

「──アミナス:オリ。」

 颯太が構えた右手を横に振ると、レクトルを除いた教団員が胴体で真っ二つになった。

同様に口から"魂"が出て飛んで行く。

レクトル

「驚きました。貴方も"能力"を手にしていたとは。……それは努力か才能か。」

颯太

「お前も、なんだな。見せてみろよ。」

レクトル

「……いいでしょう。」

 その一言で、レクトルの雰囲気がガラッと変わった。直後、レクトルを中心に暴風が発生する。──否、それは威圧だった。

周囲の自衛隊のほとんどが、レクトルの威圧によって足を止める。

レクトルは刀に手を添えて、そのまま居合切りのように空間を裂いた。

自衛隊の口から、白い煙のようなものが飛び出すのが見える。

颯太

「……なるほどな。"恐怖を感じた相手の魂を刈り取る"、か?」

「ビビんなきゃ大したことねェ能力だな、自分の実力を過信しすぎだ。」

レクトル

「随分と口が回りますね──ッ!」

 レクトルは鞘に刀を収めて、颯太に突撃する。大振りな攻撃の影に繊細な攻撃を仕込む、緻密な攻撃をしながら強大な一撃を匂わせて思考を散らす。

そんなレクトルの猛攻を颯太は全て受けきった。

颯太

「オイ、レクトル。お前弱くなったんじゃねェか?」

 颯太の挑発に、レクトルは嬉しそうに笑みを浮かべる。

レクトル

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。」

 瞬間、颯太が吐血する。確かに全て受けきった筈だ。つまりはそれ以上にレクトルの攻撃の威力が高いということになる。

颯太

「ゲホっ……あぁ、そう言えばそうだったな。」

 颯太は少しだけ懐かしそうに微笑む。然し余裕はもちろん無い。

颯太自身久しく感じていなかった死の香りに、全力を出さざるを得ないのだ。

颯太

「ギア上げるぞ。──アミナス:エルティ。」

 颯太は寿命を使って自身を強化する。総魔力量を無理やり増やし、パワーとスピードを一段階上げた。

颯太

「──アミナス:オリ。」

 手のひらから魔力を固めた弾を出し、それをレクトルへ投げつける。

レクトルは手刀でそれを真っ二つにするも、その瞬間に魔力弾は爆発する。

颯太

「──アミナス:サミ。」

 爆発を煙幕代わりにレクトルに近づき、鋭い掌底を腹へ叩き込む。

レクトルは寸前で僅かに後ろへ下がり、クリーンヒットを免れた。それでも大きく吹き飛び、ドームの壁に衝突する。

激しい土煙の中から、レクトルはスーツを正しながら出てくる。

レクトル

「あぁ、こんなに気持ちが昂るのは久しぶりだ。神崎君、やはり貴方は良い。」

「自己犠牲が大好きな貴方にピッタリなその能力、私も全力で応えましょう。」

 レクトルは抜刀し、刀を右に伸ばす。

レクトルの周囲を取り巻いていたオーラが、徐々に刀に収束していく。

鞘から抜かれたその漆黒の刃は、みるみるうちに緑色へ変化した。

レクトル

「恐怖というのは、生物みな平等に与えられたものです。大きく絶望した時、意図せず恐怖は膨れ上がる。それを収穫し、糧とする。得た魂は神へ捧げる。それが私なのです。」

 レクトルは刀に魔力を込め、薙ぎ払うように大きな斬撃を飛ばした。

颯太は背後で動けなくなっている那月たちの存在を認識している。普段なら避けるのは造作もないが、これを避ければ後ろの4人が真っ二つになる。

颯太

「──アミナス:フティ。」

 久しく使っていなかった自己強化での5年消費。魔力の斬撃を魔力を纏った拳で叩き壊す。

斬撃の下からアッパーで垂直に攻撃。5年の寿命を全て拳に集中させたことで、一撃で斬撃を粉砕した。

 未だレクトルにダメージはほとんど無い。

力ではレクトルに勝てないと考えた颯太は、寿命を速さに変える。

一撃で大きなダメージを与えなければジリ貧だ。

颯太

「──アミナス:シュヴィディ。」

 先程と同じように小さな魔力弾の爆発を煙幕代わりにして、颯太が消えた。気配を消しながら、残像が見えるほどのスピードで動く。

レクトル

「これは……考えましたね。」

颯太

「──アミナス:オリ。」

 大きな魔力弾を次々とレクトルの周囲に設置していく。一振りで破壊されないように、四方八方に散らして。

颯太

「──アミナス:サミ。」

 レクトルは周囲から聞こえる声の出処が把握出来ず困惑した。然しそれも全て無駄、攻撃を食らった瞬間、カウンターの要領でこちらも攻撃するだけだ。

颯太

「(お前の戦い方は……誰よりも知ってる。)」

 少し間が開き、レクトルの左胸に何かが触れる。レクトルは目にも止まらぬ速さで刀を振るが、それは空を切った。

颯太

「──奇襲ってのは、性に合わないんだが。」

 背中に颯太の手のひらが触れる。次の瞬間、レクトルの内部で魔力が弾け、爆発する。

颯太も大きく吹き飛ぶが、空中で受け身を取り着地した。

レクトル

「がぁッ!!」

 レクトルは思わず膝をつき、吐血する。内臓が大きく損傷したのだから当然だ。それでもレクトルは立ち上がる。

颯太

「……終わりにしよう、レクトル。」

レクトル

「……私にも、私なりの正義が、あるのです……。」

 レクトルの刀身が更に濃い緑色になる。正真正銘最後の攻撃なのだろうと、颯太は理解する。

レクトル

「運命という"星"は、因縁という"引力"によって、再び邂逅する。……貴方と私は、引かれ合う"星"です。」

「神崎君。貴方とこうしてまた手合わせ出来て、私は幸せでした。」

 レクトルは魔力の斬撃を数発飛ばす。それは一つ一つが先程の比じゃない程大きい。

然しそんなのはお構いなしに、颯太は姿勢を低くしてレクトルに突進。斬撃をひとつ残らず破壊し、レクトルの元へ辿り着く。

レクトルは、居合いの構えに入っていた。

颯太

「──アミナス:トフトメティ。」

 ──レクトルの抜刀と颯太の拳が衝突する。

生物の限界を超えた技(わざ)と業(わざ)の衝突により、周囲には衝撃波が広がった。

レクトル

「ぐっ……!!」

 レクトルがその衝撃で大きくよろめく。颯太はその隙を見逃さなかった。

颯太

「今だ!! 棺を破壊しろ!!」

 恐怖心が薄れたからか、那月たちの身体は動くようになっていた。


那月

「オラァ!!!」

 那月は中央に置かれた木の棺に思い切りキックをした。

想像以上に棺は脆かった。無事に破壊に成功すると、その中から白い透明な"魂"が出ていき、次々と空へ飛んでいく。

レクトル

「……私の長年の計画が──、」

 レクトルは瀕死の身体に鞭を打ち、その場から撤退しようとしていた。

瞬間、破裂音と共にレクトルの眉間に穴が空く。颯太の構えるその銃口からは僅かに煙が上がっていた。

颯太

「今度は逃がさねぇよ……俺の射撃の腕は、お前が一番知ってるだろう……。」

「レクトル……お前との因縁もここで終わりだ……残った罪は、俺が墓まで持っていくからよ……。」


 決着と同時に、自衛隊も制圧が完了したようだ。

颯太は上を向いて溜息をついた後、那月たちの元へ来る。

羽弛

「ありがとうございました。僕たちを守りながら……。」

颯太

「気にするな。全員無事で良かった。お前らも悪運は強いみたいだな。」

渚

「それが……全能感って言うの? 突然力が漲(みなぎ)ったのよ。」

照夢

「ゲニウス様の寵愛だってことにしたけど……、」

颯太

「ふむ……間違っては無いだろう。礼を言っておかなきゃな。」

「さて、1998年から続いた因縁も、ようやく終わりだ。」

「『東京都連続魂消失事件』はこれで解決だな。後始末は自衛隊に任せてある。すぐに撤収するぞ。」

 そう言いつつも、颯太の足は止まったままだ。

那月

「……颯太さん?」

颯太

「……すまん……少し疲れた。このまま解散だ。明日の11時に本部に来てくれ。」


*


 颯太と別れ、東京ドームの外を歩いていると、霧矢翠(きりやみどり)の姿が見えた。

その横には地面に倒れている浩宇(ハオユー)が居る。

翠

「おーい! 皆さーん!!」

 翠は4人に気づき、バカみたいに大きな声で手を振る。

照夢

「あれ、翠も突入部隊に?」

翠

「そうっす! その様子だと……やっぱり皆さんが棺ぶっ壊したんすね!」

「因縁とかいうやつも無事に終わったんすね。」

羽弛

「そうだと良いですね……と、ハオは無事ですか?」

 自衛隊突入直後から安否の分かっていなかったハオは、本当に静かに倒れている。

翠

「あ、ハオなら寝てるだけっすよ。俺ら2人とも、大きな怪我はなかったっす!」

渚

「それなら良かったわ。」

 6人を照らすように、朝日が昇る。いつの間にそんなに時間が経っていたのかと、伸びをする者もいるだろう。

那月

「さて、帰るか!」


*


 ──事件解決の翌日。5月8日。

言われていた通り11時にOCF本部へ行くと、まるで入ってこいとでも言うように会議室の扉が開いていた。

那月

「珍しいな。開けっ放しにしてるなんて。」

羽弛

「そうですね……失礼します。」

 ノックをして会議室へ入ると、普段置かれている椅子の代わりに長机が1つ。

その上には1枚の紙と、4つの封筒が置かれていた。

照夢

「これ……手紙? 読んでみよっか。」

 その手紙は、微かに煙草の匂いがした。


 こんな形で別れを告げることになってすまない。

突然届いた詳細不明な手紙に応えてくれたこと、数々の不透明事件を解決してくれたこと、「東京都連続魂消失事件」、そして俺とレクトルの因縁を終わらせてくれたこと。

改めて礼を言う。本当にありがとう。


 少し昔話をさせてくれ。

レクトルは実は元警察で、俺の同期だったんだ。ロシア人とのハーフのアイツはその体格を活かして、警察学校時代では武術で首席だった。まぁ射撃は全くダメだったがな。

昔は名コンビなんて言われて、色んな事件を解決してきた。

あの日は事件の加害者の家宅捜索をしてたんだ。そこでとある置物を見ちまった。それはシュブ=ニグラスって怪異を模した置物だったんだが、それを見た日からあいつはおかしくなっちまったんだ。

魅入られた、と言うんだろうか。レクトルはその日以降警察を辞めて、家にこもるようになった。その1年後に、俺はOCFに入隊した。

それから3年後、不透明事件の解決に向かったら、レクトルと再会したんだ。あいつはゾス=オムモグって怪異を召喚しようとしてた。

話しかける時間もなかった。飛びかかって蹴りを食らわせてやった。

豚箱に入っても、アイツは正気を取り戻さなかった。


レクトルは、俺のたった1人の親友だったんだ。


 俺は少し旅に出ることにした。どこへ行くかは決めてないが、ずっと南の方に行ってみようと思う。

お前らには本当に世話になった。後のことは上層部に任せてある。

いつかまた招集をかけた時は手伝ってくれると助かるよ。

神崎颯太


追記:

 完全に忘れてた。

今までの報酬金が封筒に入ってるから、1人1つ持って行ってくれ。

半強制的とは言えど、命に関わる危険な仕事を最後までやり遂げてくれたこと、本当に感謝している。

お詫びに少し多めに入れといたから、パーっと使ってくれ。


渚

「なるほどね……全部繋がったわ。」

那月

「そうだな。てことは、この封筒が報酬金か?」

照夢

「随分分厚いけど……こ、これ、100万円はざっとあるよね!?」

羽弛

「こんな大事な物を忘れているなんて……最後まで颯太さんらしいと言いますか……。」

 そうして4人は報酬金200万円を持ち、OCF本部を後にする。これからどうなるのかは分からないが、永く短いこの体験は、いつまでも色褪せずに残り続けるのだろう。

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