表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不透明統制部隊  作者: 芽生
第一部:記憶と想いは明瞭に
PR
22/22

第二章 11話 魂の研究所

 ──襲撃から2日後、月曜日の朝10時。

颯太から緊急招集がかかっていた。詳しいことは本部にて口頭で説明するそうだ。

恐らく新しい不透明事件だろう。こうして家を出るのも慣れてきた気がする。

そうして那月たちはいつもの会議室に集まることだろう。

颯太

「おはようお前ら。突然の招集ですまないな。」

「先日近所のショッピングモール、ビヨンモールにて、爆破テロの犯行予告があった。」

 那月たちは"WING"のメンバーと共にそこへ行っていた。爆破テロは記憶に新しいだろう。

颯太

「報告では最初から爆弾なんて仕掛けられていなかったということになっている。ビヨンモールの信用の低下も僅かなもので済んだそうだ。」

「実際は爆破テロではなく、『シャノワール教団』による邪神召喚の実験だった。そっちは無事に解決したんだが……、」

那月

「何か進展あったのか?」

羽弛

「『教団』絡みの事件は、ろくな事にならないですからね。」

颯太

「その通りだ。恐らく今回の"ビヨンモール爆破テロ事件"は今までの不透明事件と関係あると思ってな。そんな時上層部が案件を寄越しやがった。」

「『シャノワール教団』から、昨日警察に犯行予告の手紙が届いたんだそうだ。それがこれだ。」


『来たる明日22時に日本の空が紅く染まる。楽しみにしていろ。』


『35、139

ショー タイムはいつも曇り

嵐の前の静け さ』


照夢

「いかにもって感じだけど……。」

「これを信じるなら、今日の22時にどこかで事件が起きるのよね?」

颯太

「あぁ、そうだ。少し話を戻そう。」

「今までの『シャノワール教団』関係の不透明事件は、必ず大きなランドマークが関係していた。」

「"WING"が解決したものだと、大阪の通天閣、新潟の山鹿(やまか)商店街、福島の由芽守(ゆめもり)工業高等学校、そして先日の東京ビヨンモール。」

「他にも色々あるが……『CAMO』を作った宍戸(ししど)ってやつとブライトが、とある発見をしたんだ。」

那月

「発見?」

颯太

「そのランドマークの座標を全て足して、この35を割り、139を引いたらしい。すると一つの座標が浮かび上がった。」

 颯太は広げた地図のある地点を指さす。

颯太

「ここだ。『アニマ研究所』。"アニマ"はラテン語で魂を意味する。ここの調査をお前たちに任せたい。」

羽弛

「分かりました。」

 地図と『アニマ研究所』の写真を渡された。

颯太

「よし。この案件は機密事項とする。行ってこい。」


 聞きたいことがあった渚は、別れる直前に颯太の元へ行く。

「颯太さん、少し良いかしら。」

颯太

「なんだ?」

「この間のビヨンモールの事件で、憶那誘鳴(おくりないざな)って女の人に助けられたのだけど……颯太さんの知り合いだったりするのかしら?」

 颯太は少し驚いた顔をした。

颯太

「……あぁ、確かに俺の知り合いだ。古い友人ってところだな。」

「ここから少し離れたところにある"暮相(くれあい)"という市で探偵をやってる。」

「とは言っても、諜報員ではない。スカウトしたんだが断られちまってな。……さ、時間は限られてる。早く行け。」


 4人は『アニマ研究所』へ向かう。写真は蔦で覆われた古い施設を写していた。

気のせいだと思うが、この写真を見た時、颯太が何か言いたげな顔をしていた気がする。

とはいえ、今は任務に集中すべきだ。研究所で何か手がかりを見つけ、なんとしてでも22時に起きる事件を食い止めなければ。



 地図を辿って指定された座標へ行くと、山の麓の古びた研究所がそこにあった。

那月

「ここか……。」

「写真と同じ、蔦だらけの古い施設……。」

羽弛

「看板はかすれていますが、ここが『アニマ研究所』で間違いないでしょう。」

照夢

「ねぇ! これ見て!」

 照夢が示したのは、入り口付近の土と草花だ。

最近雨が降ったのか、地面がぬかるんでいたと思われる箇所に足跡が付いていた。

草花は僅かに倒れ、踏まれた形跡がある。

獣のものではない。最近人間がここに出入りしたのだろう。

照夢

「誰か来てるっぽいよ。」

那月

「……まだ中に居るかもしれねぇ。用心して進もうぜ。」

 そうして4人は『アニマ研究所』内へと足を踏み入れる。

照夢

「うわ……。」

 目の前に広がる大きな廊下が、凄惨な過去を物語っていた。

思わず声を出してしまう程、研究所の床や壁に赤黒い液体が散布している。間違いなく血液だ。

それらはすっかり乾き切っているが、不思議と死体は見つからず、腐臭もしない。

白を基調としていたはずの研究所は、その面影すらもとうに無くなっている。

羽弛

「ドアが……4つありますね。」

 廊下の左には試験室A、Bと書かれたドア、右には所長室と書かれたドアが。そして突き当たりにも部屋がある。

「ちょうど4人。手分けして調べましょう。」

那月

「なんかあったらすぐに呼べよ!」



 四森渚(よつもりなぎさ)は突き当たりの部屋を調べていた。

「……研究所ってこういうものなの……?」

 そこはただの真っ白な部屋だった。廊下とは違い、目立つような汚れは無く、部屋の隅には開けられたロッカーがある。まぁロッカーの中には何も入っていないが。

「調べられそうなものも特に無し……というより、ずっとこの部屋に居るとおかしくなりそう……。」



 祖月輪羽弛(そがわはゆる)は所長室を調べていた。

廊下に比べると落ち着いた雰囲気だ。赤黒い汚れも付いていない。

羽弛

「随分散らかってますね。まるで何かが暴れたみたいだ……。」

 周囲を見回すと、床に黒い本が落ちているのに気がつく。

羽弛

「『(みそぎ)』……不穏なタイトルですね……。」


我が命 尽きようとも

我が力 果てようとも

かつてより存在せし大いなる神よ

我が身により 顕現せよ


1月26日 アザトース 失敗

2月15日 シャンタク鳥 失敗

2月28日 深きもの 成功

3月11日 ショゴス 失敗

4月9日 ゾス=オムモグ 失敗


7月18日 ニャルラトホテプ 失敗

8月21日 イスの大いなる種族 失敗

8月30日 ティンダロスの猟犬 成功

9月12日 シャッガイからの昆虫 成功

10月1日 クトゥグァ 失敗

10月24日 イゴーロナク 失敗

12月9日 ニャルラトホテプ 失敗

1月7日 ハスター 失敗

1月27日 宇宙からの色 成功

2月28日 クトゥグア 失敗

3月9日 食屍鬼 成功

4月1日 空鬼 成功

4月16日 シュブ=ニグラス 失敗

5月7日 クトゥルフ


羽弛

「これは……"ティンダロスの猟犬"に"シャッガイからの昆虫"……!! となると、怪異の召喚実験の記録でしょうか……。」

 ティンダロスの猟犬は大阪で襲われた怪異、シャッガイからの昆虫は福島県の由芽(ゆめ)高で戦った怪異だ。

羽弛

「今日は5月7日……『シャノワール教団』はクトゥルフという怪異を召喚しようとしている……?」



 火夜那月(かよなつき)は試験室Aを調べていた。

那月

「暗いな……、」

 現状では何も見えない程真っ暗な部屋。手探りで壁を触れば、すぐ横に電気のスイッチらしきものが見つかる。

那月

「──うわっ!」

 部屋が明るく照らされるのと同時に、天井からぶら下がっているガイコツと目が合ってしまう。

那月

「ってなんだよ、ただの装飾か……。趣味悪いぜ。」

 部屋の中央には魔法陣、それを囲むようにガイコツや古い本が置かれている。

壁は黒い布で覆われており、陽の光はほとんど入ってこないだろう。

そんな異質な空間を見て、那月の脳内にひとつの言葉が浮かんだ。

那月

「黒魔術か……?」

 黒魔術とは、他人に危害を加えるために行われる不道徳な魔術、自己の欲求・欲望を満たすために使われる魔術のことである。

黒魔術の中には禁術と呼ばれるものも多く、会得するだけでも罪に問われることがあるという。

那月

「魔力とか能力があるなら、黒魔術もあっておかしくないよな……。」



 凩照夢(こがらしてるむ)は試験室Bを調べていた。

照夢

「うっ、ちょっと臭い……?」

 部屋を開ければ、微かに香る形容しがたい臭いが鼻を刺激した。

部屋には煙が充満している。ハッキリしない視界の先に、ぼんやりと複数の影が見えた。

影の方へ進むと、複数の首吊り死体が、呆然と立ち尽くす男を囲むようにして吊るされていた。

照夢

「何これ……何かの儀式……?」

 立ち尽くす男を見れば、目が虚ろで意思の疎通が取れていない。呼吸もしておらず、心臓も動いていない。

「まるで魂だけが抜け落ちたかのような遺体」だと思うだろう。

照夢

「この人も犠牲者……? それにしては今までと亡くなり方が全然違う……」

 照夢は遺体のそばに手のひらサイズの本が落ちているのに気がついた。

照夢

「手帳だ……。」

 手記の名前は黒く塗りつぶされていて読むことができない。

しばらく開かれていなかったのか、カビが生え、紙はパリパリと音を立てている。


▇▇▇▇の手記

 脱獄記念だ。たまには思考を書き留めるのも悪くないだろう。

それにしても、日本の警察は弱すぎる。

何度思い出しても笑える。警察のあの必死な姿は是非とも写真に収めたかった。

ほう、元号が変わったのか。どうやら私は世間では令和の切り裂きジャックと呼ばれているらしい。

日本人は本当にくだらない例えが好きだ。

あまり時間はない。あの方が痺れを切らすまで5年、と言った所だろうか。


 久しぶりにこの手記を見つけた。

我々は魂をこの世に留めておくことが出来る棺の制作に成功した。

魂は皆、天国へ行くべきだと思わないか。

肉体から開放されることによってのみ、魂は天国へと旅立つことができるのだと、私は考える。

我々は集めた魂をあの方へ捧げた後に、それを解放、天国へ送って差し上げるのだ。

我々の目的は、日本国民の悩みを解決すること。今回の悪夢を回収する儀式は、その一環に過ぎない。

儀式の場所は既に決めた。

我々に関係はないが、何かと都合がいいのでね。

生贄は多い方がいい。観客として彼らも招こうか。

せっかくのショーだ、"招待状"は簡単な謎にしておくとしよう。

無駄に知能だけは高い奴らなら、きっとすぐに解ける。

楽しみだ。日程は来年の5月7日にしよう。あの日は記念日だから。


時間は混沌、混沌は神秘、神秘は創造、創造こそが時間。

我らは古から続いている、我らは黄昏時に動き出す。

我らは待ち望んでいる、我らは待ち続けている。

故に我らは近づいている、大いなる彼が目覚める時に。


ふんぐるい むぐるうなふ

くとぅるう るるいえ

うがふなぐる ふたぐん


照夢

「この文言……! 今まで見たのと同じだ!」

「魂を留める棺……ゲニウス様が言ってたやつ……?」

ゲニウス

『──魂だけの状態で存在できるのはせいぜい2週間程。』

『魂を保存出来る容器があれば話は別じゃが……』

照夢

「棺を壊して、魂を解放する。それがボクたちがやることね。」


 各々探索を終え、4人は廊下で合流する。

「こっちはただ真っ白な部屋があるだけだったわ。」

那月

「オレのとこは魔法陣とか色々あったぜ。多分黒魔術の研究でもしてたんじゃねぇか?」

羽弛

「いえ、恐らく研究していたのは怪異の召喚です。今日、5月7日に、クトゥルフという名の怪異が召喚される。」

照夢

「ねぇ、これ見て。これ、『東京都連続魂消失事件』の首謀者の手記じゃない?」

 4人は口々に照夢が見つけた手記を読み上げ、理解していく。

照夢

「ボクたちの目標は、"魂を保存できる棺"を壊すこと。」

颯太

『──そのようだな。』

 情報を共有していると、いつから繋がっていたのか、那月の電話から颯太の声が聞こえる。

那月

「颯太さん!? いつから!?」

颯太

『今はそんなことはどうだっていい。』

『場所が東京ドームで確定した。自衛隊を派遣したんだが、現場の異様な空気で吐き気が止まらないとの事だ。まず間違いないだろう。』

『3時間後、現地で合流するぞ。』

 それだけ言って通話を切ろうとする颯太を羽弛が呼び止める。

羽弛

「待ってください! 今日召喚されるのはクトゥルフという怪異です!」

颯太

『……クトゥルフだと……? 分かった。これは大きな情報だ。よくやった。』

「こんなこと言うの変だって分かってるのよ? でも私……首謀者がやろうとしてることは悪いことに見えないのだけれど……。」

颯太

『……やろうとしていること自体はな。だがそれによって、今までに何万人もの罪のない人々が殺されている。悪夢という不確定要素のために、価値のある命が無下にされてきた。これは到底許されないことだ。』

羽弛

「そうですよ。ここまで来たんです。僕たちが事件を解決しましょう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ