5. エンディング
弟と姉の感動の再会シーンが目の前に繰り広げられている。
けれどもショーコの顔はやはりというか、憂いた表情を浮かべている。
NPC側もフォローのため、自分たちのために犠牲がでたことを申し訳なさそうにしている。
「これを、お受け取りください」
姉は自らの右手から一本の指輪を外して、ショーコに渡した。飾り気のないシルバーの指輪で、表面にギリシャ文字に似た文様が刻まれている。
「私がお世話になっている教会の方からお預かりしているものです。こちらを渡して事情を説明すれば、お仲間の復活を手助けしてくれるはずです」
要するに、無料で一回復活魔法をかけてもらえるということか。
レベル1対応クエストであることから、死亡者も出た場合にはこんな破格なアイテムがもらえるのかもしれない。
この手のアイテムはいわゆる換金はできないが、プレイヤー間であれば好条件で交換ができる。失った所持金よりももっとそれは高額になる可能性は高いだろう。
しかし今回は、ショーコもその指輪を使って復活させることに異存はないようだった。
何より物語的にそれが求めらている。
「ネギさんはこのゲーム結構長いんですか?」
二人きりとなった帰り道、ショーコが尋ねてきた。
「いえ、まだ二カ月ほどですよ」
本当は今日なのだが。
というか、今日が実際に何日たっているかもわからない。
経過している時間だけを考えると、夜だけでニ十回以上経過しているはずだ。
だが、夢特有の状況として、過去の記憶がどんどんと圧縮され、思い出せなくなり、漠然とした印象だけが残っているような状況にあった。それは一日目の朝をむかえた時点で気付いていた。時間の経過を記録しようにも手帳もなにもない。
そのため小袋購入していた。そしてそこに一日経つごとにコインをひとつ入れる。これはきちんとアイテムデータとして管理されるので、消えるということがない。そうして二十枚の硬貨が今袋にはある。もちろん、その硬貨の数も記憶も改ざんされている可能性も否定できないが。
「そうなんですか……やっぱりゲームが好きなんですよね」
「まあ……そうですね」
「私は、彼に誘われてやってみただけだから、正直、まだよくわからなくて」
並んで歩きながら、ショーコは少し顔を上にあげる。言葉を探しているようだ。
こういう時、なんて対応するべきなのか。
こちらも待つしかない。
「でも……こんな風に知らない人と話したりできるのは厭じゃないかも」
照れ笑いを浮かべショーコがこちらを向く。
「ゲームにちょっと偏見持ってたかなって」
おそらく同性だからこういう言葉が出るのだろう。自分の身分を明かすつもりも、実は男だということも、もちろん同級生だということも明かすつもりはない。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
冷静ににこやかな顔で俺は返答していた。
「それに……なんか気付いちゃうこともありますね、ゲームって」
「どういうことですか?」
「なんかああいうの。自分が犠牲になって助けるとか。あれ、きっと格好いいと思ってやってるんですよね」
「あの時にはああするしかなかったのかもしれませんよ」
「どうかな。なんかそのくせ、どこかでネギさん頼みしている感じもしたし。思いません? 自分に酔ってるんですよ、あれ」
「手厳しいですね」
「そういうところあるんですよ。自分がどうみられていることを気にしているのに、本当にこっちが何を考えているかについてはひどく鈍感だったり。恋愛って結局、おたがいにとって自分のいいように勘違いしあってているだけなのかなって思ったり」
「難しいですね」
「あ……すいません、なんか一方的に話してしまって」
「いえ」
「なんか、男の人ってやっぱりわからいな、って」
話はここでおしまいといった様子で、彼女が少し作り笑いを浮かべた。
「……そういうの、ありますよね」
そんな風に俺は返していた。
わからない。そう、俺もまた彼女がわからない。ただ、わからないということだけが、わかる。
「……はい」
彼女のそれは先ほどよりは自然な笑みに見えた。
そのあとは、町の門をくぐるまで俺らは無言でいた。
けれども、それはいやな沈黙ではなかった。
空は青く、頬に風を感じ、わずかに鳴る鎧の重なる音が心地よかった。
そして俺は決意した。




