4. バトル
ショーコに説明した通り、戦闘自体は単調な展開となった。
そもそも、レベル制RPGの場合、低レベルのキャラクターでは選択の余地はあまりない。
剣士と暗殺者のみで攻撃魔法を使える魔術師もいないため、基本的には近接戦闘武器でたたき合うだけとなってしまう。特殊スキルの発動で、大げさなアクションが追加されたり、光や音のエフェクトがかかるが、戦術的には普通攻撃と大きな差はなかった。
今戦っている『水晶の杜』のボスである、クリスタル・ゴーレムも、回避力は低いもののやたらと耐久力が強いモンスターで、攻撃はヒットするものの、なかなか倒れる気配が見えない。武器が当たる度に、水晶の体が派手な光と共に消えてゆくが、ただそれだけである。
「ネギ」としては後方で、体力の回復魔法を定期的にかけ続けるだけという状態になってしまっている。
自分も攻撃に参加して一気にカタをつけようかと思ったその時、ショーコがゴーレムの強打によりスリップした。
数パーセントの確率で発生するクリティカル・ヒットが生じてしまったらしい。
即座に治癒魔法をかけようと俺は手を伸ばしたが、入れ替わるようにタウルが彼女の位置にわりこんできた。
システム的には攻撃を代わりに受ける位置へ入れ替わりを実施したわけだが、タイミングが悪かった。
このゲームの初期の治癒魔法は物理的接触が必要となる。
入れ替わりが発生したため、ショーコへは手が届かなくなり、耐久力の回復をはかることができなくなった。
タウルもすぐにそれに気付きこちらに助けるを求めるように振り返る。
しかしそれも悪手となった。
クリスタル・ゴーレムの左腕が暗殺者の装甲の薄い胴体を打ち付けた。
足が地面から離れ、タウルの体が横に倒れる。
転倒はまずい。
ゲーム的に攻撃の機会を一度失ってしまう。
ショーコも今転倒をしている。つまり、反撃ができないまま、もう一度誰かが襲われるということだ。
自分が前に出るにしても間に合わない。
どちらかの回復を優先させようと前にでたその時。
「ショーコを!」
転倒していたタウルがゴーレムの足に組みついた。
回避できない状態での接触は致命的だ。
だが、俺としてはその状態からできる最善の策は、敵とエンゲージせずに近寄れるショーコに向かうことだった。
即座に治癒魔法をかける。
そして振り返ると、クリスタル・ゴーレムがその両の拳をタウルにたたきつけていた。
耐久力はゼロとなり、その体は行動不能となる。
完全な死亡となると、耐久力のステータス表示が赤になるがまだそこまでは至っていない。
「ショーコさん、攻撃! 叩いて!!」
動きのとまった彼女の背中を軽く押して、自らもゴーレムに向かう。
剣よりもメイスなどの打撃系武器のほうがよかったかとも少し思いなおしたが、武器を切り替えるような悠長はなことはできない。
片手剣を振りおろす。
戦いは三十秒後、ゴーレム側の耐久力切れにより終了した。
クリスタル・ゴーレムの結晶は砕け散り、その胴体からはクエストのもう一つの目的であった依頼主の弟が意識を失った状態でこぼれおちた。ここで治癒魔法か体力回復の魔法薬を使えということか。
タウルの様子を見る。
ステータス表示はレッド。死亡となっている。このゲームでは死後24時間はその体が保たれる。そのうえで攻撃をすることで完全に破壊することもできるが、パーティのうち一人でも生きていれば、死体を町まで持ち帰り復活させることができた。その際に所持金の半分を取られるのは某ゲームと同じだが。
「リアルのほうから、『すいません』とメッセ来ました。私からもほんとにすいません」
ショーコがタウルの死体を前に頭を下げる。
「ゲームですから。こういうこともありますよ」
そう言いながら収納袋を取り出す。町の装備屋でも売っている、多数のアイテムを収納できる安価なポーチのようなものだが、死んだパーティの体を収納することにもよく使うことから、別名『死体袋』とも言われている。
見た目は幾何学模様の入った巾着袋といった感じだ。
そこにタウルの体を入れると、ショーコにそれを手渡した。
「担いで運ぶのも大変なので。町まではそれで」
「はい……」
急に一人になってしまって、緊張しているのかもしれない。
俺は笑顔をつくって言う。
「さあ、この弟さんをつれて、先ほどのクエストポイントまで戻りましょう」
彼女はこくりと頷きを返し、笑顔を返した。
俺は振り向き歩き出す。
少しどきりとしたことを悟られないように。




